「シュート力に関しては日本の中ではずば抜けているんじゃないかと思います。シュートを打つことを恐れない心の強さも持っています。それはシューターにとって大事な部分。日本では見たことのない選手ですかね」 

 今ではブルックリン・ネッツの一員として、NBAで立場を築きつつある渡邊雄太がそう絶賛する日本人シューターがいる。まだ21歳の新星、NCAA(全米大学体育協会)のディビジョン1に所属するネブラスカ大の富永啓生(とみながけいせい)だ。

 日本代表での活躍ゆえに、その名前をすでに耳にしたスポーツファンは多いだろう。東京五輪では3人制バスケットボールのメンバーに選ばれ、8試合中5戦でチーム最多得点を叩き出した。さらに今夏には初めてトム・ホーバスHC指揮下のA代表のメンバーにも入り、2022FIBAアジアカップで平均17.5分で15.2得点、3P成功率41.3%をマーク。その爆発的な得点力は、日本、いやアジアのバスケットボールファンの注目を集めるのに十分なものがあった。

「(W杯アジア予選も含めて)強豪オーストラリアとも2回やりましたし、すごいレベルの高いところでああやって活躍できたことはいい形での自信になっていますね」

 鮮烈な日本代表デビューを飾った経験について尋ねると、童顔の富永もその表情を崩して目を輝かせた。入り出したら止まらないシュート力、短いプレータイムでも高得点を稼げる爆発力、大舞台でも自身の得意とするシュートを放ち続ける勝負度胸は魅力たっぷり。「日本では見たことのない選手」という渡邊の言葉は大袈裟ではあるまい。

 現在はアメリカのカレッジで揉まれているまだ発展途上の富永は、これから長く日本代表の武器であり続けそうな可能性を確実に感じさせている。

21歳富永が見据える“NBAのコート”

 こうして日本期待の存在となった富永は、母国代表での活躍以外にもう一つ大きな目標を掲げている。バスケットボール選手なら誰もが夢見る最高の舞台、NBAでプレーすることだ。現在、ネブラスカ大の一員としてNCAAトーナメント進出を目指しているが、その先にNBAのコートも見据えている。

「(NBA入りへの想いは)もちろん変わってません。そのためにやるべきことはたくさんあるし、改善していかなければいけないことがたくさんある。1つ1つ、毎日毎日成長して、どんどんNBAに近づけるように頑張っていきたいです」

 富永のシューターとしての才覚は誰もが認めるものがあるとしても、NBAというステージに視線を向けた場合、その道のりは容易なものではないはずだ。

 名だたる強豪校が揃ったビッグ10カンファレンスに属するネブラスカ大でプレーする富永は、昨季は30試合で平均16.5分で5.7得点、FG成功率37.3%(3Pは33.0%)。レンジャー・カレッジからの編入1年目で本領を発揮できたとはいえず、10勝22敗でカンファレンスの全14チーム中最下位に沈んだ母校を救うことは叶わなかった。

 ベンチ登場でチームにスパークを与えるいわゆる“6マン”的な役割ながら、ゲーム展開、その日の調子によっては出番を失うゲームも目についた。まだディビジョン1に適応途上という印象。「やるべきことはたくさんある」のは確かで、NBAなど夢のような話だと考えるファンも少なからずいるのかもしれない。

 ただ、これまで述べてきた通り、ズバ抜けたシュート力を持つ富永は“化けるかもしれない”というポテンシャルを感じさせる選手なのも事実ではある。

渡邊雄太「基本的にはシューター特化でいい」

 もともとアメリカはスポーツに限らず、一芸に秀でたものには寛容な国。何かできることがあれば、それだけをやらせてくれる国風である。富永の場合も、ロングジャンパーという強力な武器はさらに上を目指す上でのとっかかりにはなるはずだ。

 今夏、アジアカップの日本代表で富永と初めてチームメイトになった渡邊に、あくまでNBAを目指す上での富永の必要条件を尋ねると、こういった答えが返ってきた。

「まずディフェンスは最低限、うまくならなければいけません。ボールハンドリング、パスだったりの技術も磨かなければいけないでしょう。ただ、彼はあれだけのシュート力があるのだから、基本的にはシューター特化でいいと思います。日本代表でもホーバスHCは彼には『ボールを持ったらシュートを打て』と伝えてましたし、僕たちも彼がボールを持ったら打つという前提で動いていました。それだけのものがあるのだから、いろんなことに手を出すよりは、何かのスペシャリストになる方がいい。だから、とにかくシュート力をさらに磨く必要がありますね」

 ここで断っておくと、渡邊は富永がシューターに特化すればNBA入りできると述べたわけではない。まだ様々な点で向上の余地があり、おそらく距離はあると認識した上で、最善に思える道を提示したということだ。

 振り返ってみれば、渡邊もジョージワシントン大時代はNBA入りが確実視される存在ではなかった。様々なことを満遍なくこなせるオールラウンダーだったサウスポーは、大学2〜3年ごろにディフェンダーとして急成長していく。4年生時にはアトランティック10カンファレンスの最高守備選手に選ばれるほどの高評価を受けたことが、プロスカウトからより注目される契機になった。

「この世界にはスペシャリストも多いです。いろんなことが万能にできる選手もたくさんいる中で、何かに特化した選手がチームには必要になってくるので」

 今ではNBAでも守備、3Pが武器のいわゆる“3-Dプレイヤー”として確立されつつある渡邊の言葉には特別な説得力がある。

残り2年間で課せられた過酷な課題

 現時点での富永にはまだNCAAレベルでも矯正点は少なくない。その視点を将来的なNBAレベルにまで引き上げると、ディフェンス、ボールハンドリング、パスなどに関して渡邊が指摘した“最低限、上達しないと”という基準が相当に高い位置にあることは言うまでもあるまい。身長188cmの富永はSG(シューティングガード)としては小柄なだけに、特に守備強化には尋常ではない頑張りが必須になるはずだ。

 カレッジでの残り2年間、ハイレベルの環境でそれらの難しいことを成し遂げられた時、可能性は少しずつ膨らんでいく。その上で、自慢のシュートを今よりさらに高確率で決められるようになれば……。ジャンパーの成功率も飛び抜けた数字が必要で、それもまた至難だが、少なくとも大目標に迫るための具体的な青写真を描くことはできる。

 ネブラスカ大での1〜2年間で成熟を感じさせるようになった富永自身も、自身がやらねばならないことを十分に理解している。

「(課題は)まずはディフェンスですね。ディフェンス時のリバウンドのボックスアウトだったり、フィジカルの強さ。身長が高い選手を相手にした場合、自分から当てに行かないと、オフェンシブ・リバウンドを取られてしまうんで、そういうところがまだまだです。シュートに関しては、(フレッド・ホイバーグHCからは)ショットセレクションのことをよく言われます。無理に打つのではなく、開いたら打て。無理に打つところは減らして、開いているときは絶対に打てと言われています」

 自身もNBAでの現役時代はシューターだったネブラスカ大のホイバーグHCは、富永のプレースタイルを認めている。そのホイバーグも無闇やたらにシュートを乱発しろと言っているのではなく、富永に与えているのは、あくまで“いいタイミングで打てる時限定のグリーンライト”だ。

 好調時にはどこからでも決められるレンジの広さ、思い切りの良さは富永の魅力だが、よりいいタイミングで打てば必然的に成功率は上がる。最終的に到達するステージがどこであろうと、ここで良好なショットセレクションを叩き込まれておくことがバスケットボール人生の助けになるのは間違いない。

「僕がNBAに入れると思っていた人はいなかった」

 ネブラスカ大での2年目のシーズン、富永は最初の4試合中2戦で15得点以上とまずは好スタートを切った。1年前と比べて約4キロ増えたという体重増加、ディビジョン1への慣れもあり、ディフェンスも上達した印象がある。ショットセレクションの安定も明らかで、まだスモールサンプルながら、FG成功率48.3%、3Pは38.9%と数字はその向上ぶりを示している。

 今後、対戦相手の質が上がり、ネブラスカ大は苦戦が予想されるが、その中でも富永にはプレーの質を保つことが求められる。それができれば、童顔シューターの評価は確実に上がり、アメリカでもその魅力により多くの人が気づき始めるはずだ。

「僕が彼くらいの年齢の時、僕が本当にNBAに入れると思っていた人はほとんどいなかったでしょうからね……」

 富永の挑戦について話していた際、ブルックリン・ネッツのロッカールームで渡邊がしみじみとつぶやいたそんな言葉は実感を持って響いてくる。

“ロングショット(大穴)”の立場から大舞台に駆け上がった先輩のように、富永もまた一歩ずつでも確実に階段を上っていけるかどうか。その挑戦が最終的にどこに辿り着くにしても、様々な意味で楽しみな素材である。日本の枠を超えた魅力を持ったシューターが、これから先も伸びやかに成長していくことを願いたいところだ。

文=杉浦大介

photograph by USA TODAY Sports/Reuters/AFLO