強い海外勢を蹴散らし、またも日本馬が上位を独占した。

 4頭の外国馬が参戦した第42回ジャパンカップ(11月27日、東京芝2400m、3歳以上GI)で、ライアン・ムーアが騎乗した3番人気のヴェラアズール(牡5歳、父エイシンフラッシュ、栗東・渡辺薫彦厩舎)が優勝。GI初出走で大仕事をやってのけ、父と管理調教師に初めてのビッグタイトルをプレゼントした。

 掲示板に載る5着までを日本馬が独占。外国馬で最先着したのは、6着に追い込んできたグランドグローリーだった。

狭いところから豪快に抜け出したヴェラアズール

 最後の直線に向いたとき、ヴェラアズールは密集した馬群のなかほどで行き場を失っていた。それでもムーアは慌てず、前を塞ぐ馬群の壁に隙間ができるのを待った。

 ラスト400m地点でもまだ前があかず、内で粘るヴェルトライゼンデと、外から伸びてきたダノンベルーガとシャフリヤールの3頭の争いになるかに見えた。

 しかし、ラスト300m地点で、突如ムーアのアクションが大きくなった。まだ完全に前は開き切っていなかったのだが、ラスト200mを切ったところでダノンベルーガの内に突っ込み、豪快に抜け出した。

「何度か前が塞がりましたが、開いてからは鋭い脚でゴールを切ることができました。最後に前が開いたとき、勝利を確信しました」

 2019年の朝日杯フューチュリティステークス(サリオス)以来3年ぶり9度目の JRA・GI制覇を遂げたムーアはそう振り返った。

 内も外も伸びる馬場状態だったため、直線に入っても馬群がバラけず、内は密集したままだった。ラスト500m付近で外に出しかけたが、進路がなく内に切り替え、狭いところから抜け出した騎乗は見事だった。

ヴェラアズールの「成り上がり」

 それにしても、ヴェラアズールの「成り上がり」はとてつもない。

 1歳の秋に左トモ球節の骨片摘出手術を受け、2歳になってからも右前脚の深管の痛みや左前脚の骨瘤など脚元の不安を抱え、なかなか順調に調教を進められず、デビューは3歳になった一昨年の3月と遅くなった。

 脚元のことを考えてダートでデビューし、同年6月の未勝利戦で初勝利。その後も今年の1月までダートを使われ16戦2勝2着4回3着3回と、まずまずの成績を残していた。渡辺調教師も厩舎スタッフも、本当に適性があるのは芝だと見ていたのだが、ダートで結果が出ているだけになかなか芝を試すチャンスがなく、17戦目、3月の淡路特別でようやく芝に切り替えることができ、早速勝利をおさめた。

 そして、芝での5戦目となった前走の京都大賞典で重賞初出走初勝利を挙げた。つまり、芝路線に変更してから8カ月強、6戦目にしてジャパンカップを勝ってしまったのだ。それも、今回も含め、芝での6戦(4勝)すべてが上がり最速なのだから恐れ入る。

「近年ではほかに例がない」馬

 デビューから古馬になるまでダートばかりを使われてきた馬によるJRAの芝GI制覇というと、1989年の安田記念や90年のスプリンターズステークスを制したバンブーメモリーが思い出されるが、あの馬がダートで15戦したのち芝路線に変更したのは4歳の春だった。この馬のように5歳になってからというのは、近年ではほかに例がない。

 前述したように、父のエイシンフラッシュにとっても、渡辺調教師にとっても、これが初めてのGI制覇となった。エイシンフラッシュは4度ジャパンカップに出走したが、8、8、9、10着と勝てず、渡辺調教師も騎手時代、2001年にナリタトップロードで一度だけ参戦したが、追い込み及ばず3着に敗れている。その悔しさを、世界の名手が「とても才能がある」と絶賛する駿馬が晴らしてくれた。

 4頭の日本馬が惨敗した今年の凱旋門賞のあと、「挑戦するなら芝でもダートでも強い馬がいいのではないか」という声も挙がったが、この馬がまさにそれだ。馬主のキャロットファーム・秋田博章代表によると、今後のローテーションは馬の状態を見て決めるとのことだが、先々の夢が膨らむ。

1番人気シャフリヤールはなぜ負けた?

 3/4馬身差の2着は1番人気のシャフリヤール。道中は後方の外目を掛かり気味に進み、直線で鋭く伸びてきた。内に斜行し、ダノンベルーガの走行を妨害したため、騎乗したクリスチャン・デムーロは騎乗停止処分となった。1000m通過が1分1秒1というスローな流れになって馬群が団子状態になり、その外を回ったぶん、内の経済コースを通ったヴェラアズールに及ばなかった。内にモタれたのは、苦しくなったからか。

 3着は、内で上手く立ち回ったヴェルトライゼンデ。4着にはデアリングタクトが来た。直線で前が詰まるシーンがありながら最後まで伸び、復活の兆しを見せた。ゴール前で挟まれたダノンベルーガは5着。不利がなかったとしても4着があったかどうかだろう。

 外国馬は、6、7、9、15着。高速馬場でスローになり、上がり33秒台の脚を使わないと勝ち負けできない展開になったわりには健闘したと言えるのではないか。6着のグランドグローリーと7着のオネストは、ともに直線で前が塞がる不利がありながら、それぞれコンマ6、7秒しか負けなかった。

 これで日本馬が2006年のディープインパクトから17連勝。

 1着賞金が5億円に増額される来年以降も、質の高い外国馬に出走してもらい、盛り上げてほしいものだ。

文=島田明宏

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