去る11月5日と6日の2日間、『ウマ娘 プリティーダービー』のイベント、『ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! EXTRA STAGE』がベルーナドーム(埼玉県所沢市)で行われた。

キャストの組み合わせにはどのような意図が?

『ウマ娘』の世界ではレースの勝者がファンに応援してくれた感謝を伝えるために「ウイニングライブ」でステージに上がり、パフォーマンスを披露するのが特徴だ。レースとライブは不可分な関係にあり、これがクロスメディアコンテンツたる『ウマ娘』の大きな魅力を作り出している。

「DAY1」「DAY2」ともに、出走するウマ娘たち(出演ではなく、出走)の役柄を担当するキャストたちがレースさながらの力のこもったパフォーマンスを繰り広げた。披露されたのは「DAY1」と「DAY2」合わせて60曲以上。出走するキャストは公演ごとに異なり、様々なウマ娘の組み合わせが楽しめるのも、見どころの一つだ。

 ご存知の通り、『ウマ娘』は作品中に史実に基づいたエピソードがちりばめられているが、実はライブにおいても、モデルとなった名馬たちの物語とリンクした“こだわり”が見え隠れする。楽曲の楽しさやストーリーを意識したライブ全体の作りに加えて、実はこのキャストの組み合わせや演出の妙がライブに深みをもたらし、『ウマ娘』にしかない魅力を引き出しているといえるのだ。 

 本稿では「組み合わせ」に着目して、「DAY1」、「DAY2」それぞれのセットリストから数曲をピックアップして考察していきたい。

不在のフクキタルにかわって、なぜメジロブライト?

(2)WINnin' 5 −ウイニング☆ファイヴ−

 ステージ中央に据えられた円形ステージでミホノブルボン(CV:長谷川育美)、ライスシャワー(CV:石見舞菜香)、タイキシャトル(CV:大坪由佳)、キングヘイロー(CV:佐伯伊織)、メジロブライト(CV:大西綺華)、メジロアルダン(CV:会沢紗弥)、メジロライアン(CV:土師亜文)、メジロドーベル(CV:久保田ひかり)、タマモクロス(CV:大空直美)、オグリキャップ(CV:高柳知葉)の10人が絆をテーマにした一曲を明るく披露した。

 演奏が流れると「チーム<ブルームス>を含め2チームの競演となります。全力のパフォーマンスに期待しましょう」と実況が入る。その言葉通り5人ずつのチームに分かれ、背を向けて双方向にパフォーマンスを行う演出がなされた。

 チーム<ブルームス>とはゲーム内の『アオハル杯』シナリオに登場するチーム名の1つで、メンバーはタイキ、マチカネフクキタル(CV:新田ひより)、ハルウララ(CV:首藤志奈)、ライスの4人。オリジナルの楽曲の歌唱では、ここにブルボンを加えた5人の構成になる。

 本公演ではハルウララとフクキタルが不在。そこでキャストのフォーメーションを注視すると、キングとブライトがチーム<ブルームス>側に入っていた。

 ゲーム内でキングはハルウララと同部屋、という理由で合点がいく。一方のフクキタルとブライトはというと、史実における97年クラシックの同世代、という理由が浮かび上がってくる。

ブライト、フクキタル、それぞれの“劇的フィナーレ”

 Number430号(1997年11月6日号)の『大激戦の「菊」を読み解く』から当時の状況を少し振り返ってみる。

 この年の菊花賞は二冠馬サニーブライアンの引退で、6年ぶりにダービー馬が不在の大混戦。そんな中ダービー7着から主役に躍り出たのがフクキタルだった。

 フクキタルを管理する二分久男調教師は血統的にダービーの敗因を距離と結論付けていたという。そのため秋は菊花賞ではなく2000mの天皇賞を想定していたが、神戸新聞杯、京都新聞杯とトライアルを連勝。「秋になって、この私でも想像できないぐらい力をつけている。トライアルを二つも勝たせてもらって、本番を欠席するわけにはいかないだろう」(二分師)という急成長を見せたのがこの秋のフクキタルだった。

 一方のブライトは皐月賞、ダービーと1番人気に推されながら4着、3着の惜敗。父メジロライアンが果たせなかったクラシック制覇に向け、陣営にとっても最後の一冠への思いは強かった。京都新聞杯ではフクキタルの3着に敗れたものの、「悲観?どうして?とんでもないですよ。やっぱりこの馬は相当なものなんだって、見直したところなんですから」とは、主戦を務めていた松永幹夫騎手(現・調教師)の談である。

 本番では直線で好位から一瞬先頭に立ったブライトを真ん中を割ったフクキタルが強襲し、追いすがる2着ダイワオーシュウとブライトを1馬身差制して菊花賞馬の栄冠に輝くことになった。一方、3着に敗れたブライトは菊花賞後のステイヤーズSから4連勝。そして、翌春の天皇賞で念願のGⅠ勝利を手にすることとなる。

 “涙の絆 ねぇ ありがとう☆ 劇的フィナーレ”という本曲の歌詞にある通り、それぞれのレースで“劇的フィナーレ”を迎えた97年世代。フクキタルの代役をブライトが務めた、という事実だけでワクワクが膨らんだのは筆者だけではないだろう。

解説席でタマモクロスが発した言葉

(17)NEXT FRONTIER

  ゲーム内で「頂点を目指し、ひたすらに駆け上がった者だけが辿り着ける。NEXT FRONTIER――衰えを知らない覇者のための舞台。」と説明されている通り、シニア級(現実の競馬における古馬)の頂点を目指すことがテーマに据えられた楽曲。今回ステージに立ったオグリキャップ、ライスシャワー、スーパークリーク(CV:優木かな)、キタサンブラック(CV:矢野妃菜喜)、メジロブライト、ヤマニンゼファー(CV:今泉りおな)は史実で天皇賞を制したウマ娘が中心である。実況席の脇に設けられた解説席に、史実で初めて天皇賞の春と秋を制覇したタマモが陣取る、というのもポイントだ。実況からコメントを求められたタマモが「ここに立つ奴らは、気合いも走りも一流や!」と話してスタート。

ダイイチルビーとケイエスミラクルが織りなした短くも濃い物語

(28)Special Record!

 パフォーマンスを披露したのはスペシャルウィーク(CV:和氣あず未)、トウカイテイオー(CV:Machico)、ナイスネイチャ(CV:前田佳織里)、マルゼンスキー(CV:Lynn)、ミホノブルボン、ライスシャワー、サトノダイヤモンド(CV:立花日菜)、キタサンブラック、ダイイチルビー(CV:礒部花凜)、ケイエスミラクル(CV:佐藤日向)。10人が2人ずつペアになって登場するのだが、中でも注目したいのは真っ先に登場したダイイチルビーとケイエスミラクルのペアである。

 史実のケイエスは91年4月、4歳(当時の表記)になってから遅めのデビューを果たすと、その年のうちに1200m、1400mで合計3度のレコード勝ちを記録した快速馬。この年の短距離路線を1歳上のダイイチルビーやダイタクヘリオスとともに盛り上げた1頭だった。

 主役に躍り出たのは10月のスワンS。同年の安田記念を制していた1番人気のルビー(2着)を前走オパールSに続き、レコードで破ったのである。しかし、一挙のGⅠ勝利を目指したマイルCSではヘリオス(1着)、ルビー(2着)の後塵を拝する。レース後、鞍上の南井克巳騎手(現調教師)はもう一歩に終わった要因が距離にあると断言している。

 そして、迎えた電撃の6ハロン、スプリンターズSが、この秋3度目のルビーとの対戦となった。

 最も得意とする1200mということもあり、ケイエスはルビーを抑えて1番人気に推される。スプリントの頂上決戦でファンの期待を一身に背負い、迎えた直線に悲劇が待っていた。ケイエスは中団から抜群の手応えで先頭に立とうかというところで突如、バランスを崩した。ずるずると後退していく、そのすぐ脇を駆け抜けていったのが、後方からトップスピードに入ったルビーだった。そのままルビーは1着でゴール板を駆け抜け、ケイエスがゴールに辿り着くことはなく、天まで駆けていった。

名手・岡部は「あとは抜け出すだけだったのに…」

 鞍上の名手・岡部幸雄騎手は「すごく手応えはよかったんだ。さすがに走る馬だと思った。あとは抜け出すだけだったのに……」と静かにレースを振り返った。

 いかに鮮烈なインパクトを残しても、記憶は薄れ、記録もまた更新されていく。ケイエスのわずか8カ月弱の競走生活の記憶もまた、いつしか薄れていき、3つのレコードもまた塗り替えられていった。そのケイエスが『ウマ娘』によって30年の時を経て、再び脚光を浴びているのである。

 それを踏まえてライブを振り返ると、本来、同曲はゲーム内のウイニングライブでGⅠ勝利の後に歌われる楽曲ながら、3度のレコードを残して去って行ったケイエスに“Special Record”という言葉はふさわしいように思えた。そしてあの秋に鎬を削ったルビーとペアで「夢は続いてく」と歌い上げる。もしケイエスが無事なら……という歴史の“if”を想像させてくれるパフォーマンスだった。

DAY2の“黄金世代”曲で一角を担ったツルマルツヨシ

(3)ぴょいっと♪はれるや!

 ショートアニメ「うまよん」からの楽曲はスペシャルウィーク、グラスワンダー(CV:前田玲奈)、エルコンドルパサー(CV:髙橋ミナミ)、キングヘイロー、セイウンスカイ(CV:鬼頭明里)の“黄金世代”がワイワイ盛り上がる楽しい一曲。この日はオリジナルのセイウンスカイから、同じ黄金世代の一員、ツルマルツヨシ(CV:青山吉能)に。ツヨシが「よーし、三冠ウマ娘目指して私も精一杯歌うぞー!」と叫んだあとに「ゲホッ」とむせるチャーミングな一幕があったが、体は弱くても、いつも全力で前向きなウマ娘が満員の観衆で埋まった客席を大いに盛り上げた。

 競走馬としてのツヨシは歴史的なスターホースが揃った98年クラシック世代では目立たない存在ながら、潜在能力は折り紙つきだった。体質の弱さからデビューは4歳の5月。同期のスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローの3強が鎬を削ったクラシックや、エルコンドルパサーが制したジャパンC、グラスワンダーが有馬記念を勝った年末になっても、ツヨシはわずか3戦2勝の条件馬にすぎなかった。その後も再び休養を挟んで翌夏に900万下を勝利。条件馬のまま挑戦した朝日CCで重賞初勝利を挙げると、京都大賞典で同期のスター、スペシャルウィークを下し、檜舞台に躍り出たのである。シンボリルドルフの直仔としてはトウカイテイオー以来の逸材とも評されるようになっていた。

「winning the soul」で思い出したツヨシ一世一代の大駆け

(11)winning the soul

「頂点を目指すという思いが私を、私たちを奮い立たせる」というシンボリルドルフ(CV:田所あずさ)の台詞からはじまる、ルドルフ、トウカイテイオー、ツルマルツヨシ、キタサンブラックによるステージでもツヨシの存在は光った。

「紡がれる魂の歌」というアナウンスの通り、ルドルフに憧れるテイオーとツヨシ、テイオーに憧れるキタサンという関係性が色濃く現れたラインナップとなった。テイオーはルドルフを「カイチョー」と呼んで敬慕し、ツヨシもまた『三冠ウマ娘』に強い憧れを持つウマ娘であり、ルドルフを尊敬してやまない。

 前述のとおり、史実で2頭はルドルフの代表産駒である。

 ツヨシは前述の99年京都大賞典の勝利ののち、天皇賞・秋(8着)を挟んで、テイオーに続く、父ルドルフとの有馬記念父仔制覇に挑んだ。このレースはスペシャルウィークのラストラン。最後のレースで宿命のライバル・グラスワンダーを相手に同年宝塚記念のリベンジを果たせるかどうか、に注目が集まっていた。ここでツヨシは一世一代の走りを見せる。

 道中は中団、二強の前に位置取ると、抜群の瞬発力で直線は早めに抜け出し、残り30mまで先頭。最後は外から最強の2頭が強襲、さらに同年の皐月賞馬テイエムオペラオー(3着)に交わされ惜しくも4着に終わったものの、1着からはコンマ1秒差。グラスがわずか4cm、スペシャルを制して勝利を掴んだ歴史的一戦の影の主役ともいうべき、皇帝の血を受け継ぎ、「黄金世代」の一員にふさわしい才能を証明した激走だった。

『winning the soul』は「クラシック三冠に勝利した者だけがその歌唱を許される」とされる。この曲をツヨシが歌うというスペシャル感もさることながら、“一度きりの この瞬間に 賭けてみろ 自分を信じて”という一節に、あの有馬記念を重ねて考えると胸が熱くなってきた。

 各キャストのパフォーマンスや丹念に作り込まれた演出そのものはもちろんのこと、史実を知れば知るほど楽しむことができる『ウマ娘』のライブイベント。「DAY2」の終盤には、今回につづくナンバリングイベントとして「5thイベント」も発表された。さらに細部にわたって練られたステージワーク、セットリスト、そしてキャストの組み合わせが『ウマ娘』トレーナーの心を震わせること、間違いなしだ。

文=寺島史彦(Number編集部)

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