過去2年、コロナ禍の中でヨーロッパ中心の変則的なスケジュールが続いたロードレース世界選手権だが、今年は3年ぶりに南米、アジア、オセアニア地域にも拡大し、シーズン最多の20戦が行われた。

 タイトルを獲得したのはドゥカティのフランチェスコ・バニャイアで、ドゥカティとしては2007年のケーシー・ストーナー以来、2人目。そして、3年連続4回目のコンストラクターズタイトル、2007年、2021年に続き3回目のチームタイトルも獲得し、ドゥカティは2度目の3冠制覇を達成した。

 今季はヤマハのファビオ・クアルタラロが2連覇をかけて最終戦まで孤軍奮闘したが、この数年はドゥカティを筆頭とするヨーロッパメーカーが表彰台争いの中心になっている。その中でもアプリリアの躍進は印象に残るものだった。

 アプリリアは、ホンダ、ドゥカティ、KTMと同じV型4気筒エンジンを採用し、2015年にMotoGPクラスに復帰して8年目のシーズンを迎えた。2021年までは開発したワークスマシンをチーム・グレッシーニに委託していたが、今年からは完全なワークス体制での参戦となり、一気にリザルトが上昇した。第3戦アルゼンチンGPでは、アレイシ・エスパルガロが自身としてもチームとしても初めてMotoGPクラスで優勝、タイトル争いに加わってシーズンを4位で終えた。チームメイトのマーベリック・ビニャーレスとあわせると9回表彰台に上がり、コンストラクターズタイトルでも最下位を脱出して、6メーカー中、ドゥカティ、ヤマハに続く3番手へと浮上した。

アプリリアの急成長の理由

 アプリリアが急成長を遂げた最大の理由は、2輪だけではなく4輪にまでエンジニアを求め、エンジン、車体、空力と急ピッチで開発を続けてきたところにある。エンジン開発やテスト日数の制限解除など、表彰台に立てないメーカーへの優遇処置を最大限に活用してのものだが、ライバルに肩を並べたいまは、その優遇処置が外れるまでになった。特にエアロダイナミクスの面では、これまで斬新なデザインでMotoGP界を牽引してきたドゥカティとともに新しいアイデアを次々に投入。ライバルメーカーが追随するまでになった。

 アプリリアはドゥカティと同じイタリアのメーカーで、今年はふたつのイタリアメーカーとオーストリアのKTMが表彰台を独占することも珍しくなかった。

 今年のシーズン始めに僕はこう書いた。

「日本のメーカーにとっては、これまでは『勝って当然』の戦いが続いてきたが、これからはそうも言っていられないような気がする。ヨーロッパのメーカーにとっては『日本のメーカーに勝つことが最大のPR』になった時代から、これからは『1番になる戦い』があたりまえになってきたからだ」

 それがこれほどのスピードで現実となったことに、自分でも驚いている。

 2021年のシーズン途中、ヤマハのエースだったマーベリック・ビニャーレスが翌年まであった契約を解消し、2022年からアプリリアに移籍することを発表して誰もが驚いた。その時点では、コンストラクターズ最下位チームへの移籍だったからだ。

 2017年からヤマハで戦ってきたビニャーレスだったが、バレンティーノ・ロッシというスーパースターにリザルトで勝ってもヤマハのナンバー1になれなかった。そのロッシがサテライトチームに移った2021年には、ファビオ・クアルタラロという強いライダーが登場してナンバー2に甘んじる屈辱を味わった。ヤマハでのタイトル獲得も夢ではなかったビニャーレスだが、「ああ、これでビニャーレスは終わったな」と誰もが思ったに違いない。

 しかし、急ピッチでマシン開発を進めてきたアプリリアにとって、「チャンピオンマシンに乗っていた勝てるライダー」の獲得は大きなチャンス到来となった。2022年は優勝こそなかったが、ビニャーレスは3回の表彰台に立って総合11位。マシン開発への貢献度においてはリザルト以上に存在感を発揮した1年だった。

2023年に参戦する日本メーカーは6台のみ

 この数年、MotoGPクラスのエアロダイナミクス戦争は激しさを増している。今年のトレンドはドゥカティがシートカウルにつけた海老の尻尾のような羽根だが、その先駆けはアプリリアがシートカウルにテスト装着したウイングだった。そのアプリリアが今季投入した、コーナーリング時にカウルと路面との隙間を小さくする「太っちょアンダーカウル」は、グリップ向上を狙った空力デバイスだと推測されている。すでにドゥカティとKTMが追随して今後主流になりそうな予感を漂わせており、アプリリアはマシン造りで流行の先端を走ることになった。

 長らくグランプリの最高峰クラスで全盛を誇ってきた日本のメーカーは、今年を最後にスズキが撤退。来季はヤマハが1チーム、ホンダが2チームの計6台と縮小する。こんな時代が来るとは予想もできなかった。

 どんなスポーツでも同じだと思うが、強いチームで優秀な選手は育ち、優秀な選手は強いチームへの移籍を願う。これから先、ドゥカティ、アプリリアにKTMを加えたヨーロッパの3メーカーがますます強くなることは間違いなく、マルク・マルケスやクアルタラロといった素晴らしいライダーのパフォーマンスに頼らざるを得ない日本のメーカーにとって、こうした流れを変えるのは並大抵ではない。

 来シーズンの最有力候補は4チーム8台という最大勢力を誇るドゥカティだが、その最大のライバルは、1チームから2チーム体制へと勢力を拡大するアプリリアになりそうだ。コース上はもちろん、ルール解釈など技術論争でも常に戦うアプリリアの、さらなる躍進が注目される。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo