日本はまだ、何も失っていない。

 グループステージは2試合を終え、日本のグループEは1勝1分のスペインが勝ち点4で首位に立ち、1勝1敗の日本は勝ち点3の2位となっている。3位は日本を下して1勝1敗としたコスタリカで、4位はスペインと勝ち点1を分け合ったドイツである。

 ドイツを下すという最高のスタートを切ったこともあり、コスタリカ戦の敗北には批判の声も集まった。しかし、日本はまだ何も失っていないのだ。

 元日本代表MFの中村憲剛氏に、コスタリカ戦を振り返りながらスペイン戦を展望してもらう。10年の南アフリカW杯で、中村氏は今回と同じ1勝1敗で第3戦を迎える状況を経験している。(全2回の1回目/後編へ)

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 コスタリカ戦を観ていてまず感じたのは、2試合連続で先発した選手たちの疲労感でした。デーゲームによる暑さの影響か、ドイツとの死闘による心身の疲労からなのか……。彼らのボールタッチや判断から、消耗が読み取れました。日本の選手らしいボールタッチやプレーの選択ではなかったのです。

 試合の入りそのものは、悪くなかったと思います。キックオフ直後に相馬勇紀と長友佑都が、連続して左サイドを突破してCKを獲得しました。「ドイツ戦で逆転勝利した勢いが出ているな」と、期待感が湧き上がりました。

 初戦でスペインに大敗したコスタリカは、序盤はどこか自信がなさそうな雰囲気で、ビルドアップも不安定でした。ピッチ上で対峙する日本の選手たちは、「前からハメていったら取れる」という感触を得たのではないかと思います。

 ところが、時間の経過とともに試合の構図は少しずつ変わっていきました。5-4-1で自陣にブロックを敷くコスタリカを、日本が攻めあぐねるようになります。

ターンオーバーの成否を問うのは結果論だが…

 理由は色々と考えられます。

 試合間隔が中3日と短く、しかもナイトゲームからデーゲームに変わったことで、コンディショニングはかなり難しかったに違いない。13時キックオフの試合なので、映像だけではわからない暑さの影響もあったでしょう。

 現地で取材をする知り合いのカメラマンさんによれば、日差しと暑さが相当にキツかったと。13時開始のその他の試合結果と内容を振り返ると、ローテンポの展開が多いことに気づきます。

 ターンオーバーについては、その成否を問うつもりはありません。結果につながっていれば、「フレッシュな選手を使った」とか「主力を休ませて勝ち点をつかんだ」と評価されたでしょう。ここで指摘したいのは、ターンオーバーによる連係の欠如です。

 4-2-3-1のシステムで2列目に堂安律、鎌田大地、相馬を配し、上田綺世が1トップに入る組合せは、実戦では初めてだったと思います。そのため、スムーズな連係が成立せず、ワンタッチプレーがなかなか決まらなかった。初戦の大敗からまずは失点をしないと割り切って試合を進めるコスタリカの強固なブロックを前にして、崩しのイメージを共有しきれなかった印象です。

 一人ひとりがボールを持ってからパスコースを探すので、DFの視野を変えることができない。とくにCBの吉田麻也と板倉滉は、「ボールを持たされている」状態でした。また、中盤から前線の選手たちは相手守備陣の包囲網のなかにいるので、ボールを受けても時間とスペースが限られていました。

 W杯に出場してくるコスタリカのようなチームが、5-4-1のブロックで真剣に守ってくるのです。そもそも崩すのは簡単ではありません。

 しかも初戦の結果を受けて、堅守を特徴とするチームが守備に重きを置いてきました。日本は選手同士がそれぞれのボールの持ち方や身体の向き、パスを出すタイミングをあうんの呼吸で予測して連動できないと、コスタリカにとって想定外のことを起こせません。結果として、日本が望む形での攻撃はかなり限定的でした。

3-4-2-1へのシステム変更は有効だったか?

 序盤は積極的にボールを奪いにいき、実際に奪うことのできていた守備も、時間の経過とともに様子が変わっていきます。

 最初の10分は前からいくと決めていたうえで、途中から前線からのプレスを止めたのか。もしくは、暑さの影響か。どちらにしても、日本が構え始めたことで、コスタリカの最終ラインの選手がボールを保持できる時間が少しずつ増えました。同時に、中盤から前の選手たちが立ち位置を変える時間が生まれました。コスタリカが日本の守備の形を見定めながら、日本陣内へ侵入する回数が少しずつ増えていくのです。

 攻守でうまくいかないシーンが増えてきたなかで、森保一監督は前半終了を待たずシステムを4-2-3-1から3-4-2-1へ変更しました。

 自陣に侵入され始めていた守備は、ドイツ戦同様に3バックにして見るべき相手が決まりました。さらに、コスタリカが日本の守備のやり方に慣れてきたところでのシステムチェンジによって、微調整を強制させました。それによって、前半途中からたびたび許していた「システムが噛み合わないことによるズレを生かされた侵入」が、後半にかけて少なくなりました。

 ただ、コスタリカの守備もマッチアップする相手が決まったので、複数の選択肢を前にして困るという場面がやや減りました。少し分かりやすくなってしまったかな、という印象です。

「ボランチの背後」にいた鎌田大地にボールが入らず

 個人的には、暑さの影響を受けるなかですから、4-2-3-1でボールを動かして相手を前後左右に走らせ、疲弊させることができると考えていました。自陣で構える相手の守備ブロックへ侵入するために、ダブルボランチの一角の守田英正が高い位置を取っていくのですが、コスタリカの守備は整理されています。1トップの選手がCBにボールを持たせる形で、アンカー気味の遠藤航へのパスコースを背中で消してきました。鎌田と前へ入ってきた守田は、ダブルボランチが見ています。そのように役割が決まり、日本の侵入に規制がかかるようになっていきました。コスタリカはそれほど走ることなく対応できています。

 そうさせないためにも、守田は遠藤との横並びの関係で、トップ下の鎌田と3人で相手のダブルボランチの背後を狙う形をとる。その方が相手のダブルボランチは嫌がりそうだな、と思いました。

 日本が4-2-3-1ならば、4人のDFに対してコスタリカの前線はひとり少ない3人です。前線からボールを奪おうとしても届かない選手が出てくるので、コスタリカは積極的に奪いにこなかった。その状況があっただけに、4-2-3-1のままでも「相手のどこが空いているのか」をじっくりと見定めながら攻めることはできる、と感じました。

 3-4-2-1への変更後は、日本の3バックに対して相手の前線も同数の3人になりました。届かない選手がいなくなり、コスタリカはプレスをかけやすくなりました。とくに後半はメリハリの利いたスイッチによるプレスにより、GK権田修一までボールを下げざるを得ないシーンがかなり増えてしまった印象です。

 前半の日本は守備ブロックの外でボールを動かす時間が長かったのですが、相手を走らせる意味ではそれもありだったでしょう。大事なのは左右に振りながら、中へボールを差し込むことができるのか、でした。

 前半から後半にかけて、鎌田が相手ボランチの背後で最終ラインからも届かない絶妙なポジションを取っていました。ところが、なかなか彼にボールを差し込むことができません。パスが受けられない鎌田はブロックの外へ降りて、もう一度入っていくという場面が何度かありました。その動きは効果的なのですが、彼はバイタルエリアで受けることで力を発揮する選手です。なんとももったいないところではありました。

三笘薫の武器はドリブルだけではない

 後半の日本は、ペナルティエリア手前で直接FKを2度獲得しています。相手のファウルを誘った流れを巻き戻すと、どちらも守田が起点になって前線に縦パスを通しています。3-4-2-1同士でがっちりマッチアップしているので、前線の選手がある程度タイトなマークを受けていても、勇気を持って縦パスを刺し込まないとあのようなチャンスは作れません。

 中から縦パスをつけたら前を向ける。ポストプレーで前向きの選手に預けられる。そうすれば、相手は中央を締めざるを得ないので、サイドで時間ができる。サイドが高い位置で仕掛けることができれば、中央が空くので相手の視線を動かせる。そういうバランスの良い攻撃をやりたかったはずですが、暑さの影響で判断が鈍ったのか、あるいは疲労があったのか……。さらに言えば、メンバーを入れ替えたこともあって、攻撃のイメージの共有が難しかった印象です。

 得点は狙いたいけれど、過度のリスクはカウンターを浴びることにつながりかねない。その結果として攻めあぐねる。膠着状態のなかで好機を演出したのは、三笘薫でした。

 コスタリカはドイツ戦での働きはもちろん、プレミアリーグでの活躍も分析済みだったでしょう。はっきりと三笘を警戒してきました。それでも、サイドをえぐってビッグチャンスを二度作りました。僕にとっては川崎フロンターレのチームメイトとして良く見ていたドリブルですが、W杯で同じように軽やかにえぐっていく姿は改めて衝撃的でした。

 一度目の突破で相手の警戒レベルがマックスになり、ダブルチームで抑えにかかってきても、個人で局面を打開できる「質的優位」を彼は見せつけました。

 3-4-2-1同士で1対1のシーンがメインだったことで、対峙した選手はまずドリブルを警戒して無闇に飛び込まず、少し距離を取りました。その少し距離を取ったときに、ドイツ戦で同点弾のきっかけとなるパスを南野拓実へ出したように、誰かが絡めればさらによかったでしょう。

 ドリブルだけではなく周りとの連係で崩すことができるのも、三笘の特徴です。ウイングバックではなくもうひとつ前へ置き、なおかつ選択肢が増えるように周りの選手たちがサポートをできれば、もっと危険なシーンを作れたのではないかと感じました。

<後編へ続く>

文=中村憲剛+戸塚啓

photograph by Kaoru Watanabe/JMPA