W杯イヤーを経て、2月に開幕する2023シーズンのJリーグ。注目クラブのキャンプレポートを現地取材でお届けします。

 FC東京の沖縄キャンプ――。午前練習に向けての全体ミーティングが始まる前、ミーティングルームには仲川輝人、小泉慶、徳元悠平……といった今季の新顔がそろう。

 チームのベースを築く段階は、アルベル体制1年目の昨季ですでに終了し、今キャンプでは次のフェーズに入っている。

アルベル監督が昨季終盤に話していたこと

 そこで、ベースを知らない新加入選手たちが置いていかれないように、全体ミーティングの前に彼らだけを集め、指揮官やコーチングスタッフが映像などを用いて練習メニューの狙いやポイントについてレクチャーしているのだ。

「いざピッチに入ったときにスムーズにやれるように、『今日はこういう練習をするから』と。僕らのやりやすい環境を作ってくれている。ベースを知らない新加入選手が早く馴染めるようにサポートしてくれるので、本当にありがたいですね」

 そう歓迎したのは、サガン鳥栖から加入したインサイドハーフの小泉である。

 次のフェーズのひとつが、アタッキングサードの攻略である。アルベル監督も昨季終盤にこう話していた。

「ボールを握れるようになる、というフェーズは終わりました。来季はより自信を持って主導権を握り、パーフェクトな形で試合を支配したい。ただボールを回していればいいわけではない。適切な形でボールを保持して試合を支配し、ゲームに勝つことを目指していきたい。それにはどうゴールを攻略するか。そこもポイントになります」

 そうしたトライの一端が垣間見えたのが、1月20日に行われたFC琉球とのトレーニングマッチだった。

“ポケット攻略”で心強い仲川の加入

 ここまで大学生との練習試合を2試合こなし、Jクラブとは初のトレーニングマッチとなったこの一戦で、アルベルトーキョーが意図的に狙っていたエリアがある。

 ポケット、あるいは、ニアゾーン――。

 言い方はどちらでもいいのだが、横浜F・マリノスや川崎フロンターレ、あるいはマンチェスター・シティやリバプールなどが相手を押し込んだ際に狙う、ペナルティエリア内のサイドのスペースである。

 そこに走り込んだ選手に大外からボールを流し込んだり、コンビネーションを使ってそこに飛び出したりと、鮮やかに崩したシーンはなかったものの、FC東京はこの日、あの手、この手を繰り出していた。

 その点で今季のFC東京にとって心強いのは、“ポケット攻略の達人”とも言うべき選手が加入したことだろう。

 2019年シーズンのMVP&得点王、右ウイングの仲川である。

 横浜FM時代にはいったい何度、ポケットに飛び込んでゴールを奪い、深い位置まで切れ込んでアシストをマークしたことか。

 スピードスターの加入の効果について、右サイドバックの中村帆高はこう語る。

「『マリノスってどうなんですか』って訊いたとき、テルくんが最初に話してくれたのが『誰かが必ずあそこ(ポケット)を取りに行かないといけない』っていうこと。『連動しながら誰かが取りに行くから、相手の目線がズレて、さらに取りやすくなる』と。昨季の東京はアタッキングサードまでボールを運べても、そこで手詰まりになることが多かった。自分も走ってポケットを取りに行きたいし、パサーとしてボールをそこに流し込みもしたい。ポケットの攻略はチームとして取り組んでいるところです」

SB中村帆高が変えたマインドセットとは

 その中村は今季、マインドセットを大きく変えている。

 これまでは守備力が強みだったが、カタルーニャ人指揮官の就任を機に立ち位置やビルドアップの改善に取り組んできた。そして、アルベル体制2年目を迎える今季はより攻撃面での貢献を誓っている。

 琉球戦でも相手DFとの1対1の局面で縦に仕掛けて突破したり、相手の浅い最終ラインの裏に走り込んだりする姿が目立った。

「意識しているのは攻撃面で脅威になること。監督からも『今年はどんどん攻撃的に行って、アシストや得点に絡んでほしい』と言われています。僕にボールが入れば絶対にクロスが上がってくるとか、あいつなら突破して深いところまで行ける、という信頼を掴みたい。回数を増やしていかないと点には結びつかないと思うので、今はミスしてもいいから、どんどん行っているところです」

俵積田、熊田、荒井らは松木に続けるか

 仲川や小泉、さらには昨季、高卒ルーキーながら主軸となってブレイクした松木玖生が存在感を示したのはもちろんのこと、琉球戦では今季のルーキーのアピールもあった。

 FC東京U-18から昇格したウインガーの俵積田晃太は、日本代表の三笘薫を彷彿とさせる――と言ったら陳腐な表現になるが、大きめのストライドのドリブルから一気に加速し、相手守備陣を何度も混乱に陥れると、カットインから鮮やかなミドルシュートを決めた。

「1対1なら自信があるので、いかに1対1の状況を作り出せるかが課題だと思います」

 そう語った期待の俊英は、多少強引に仕掛けたことについても、さらりと言った。

「パスしたほうがいい場面もありましたけど、高卒1年目だし、キャンプだし、アピールのために自分のプレーを出さなきゃダメだと思って」

 そんな俵積田に負けじと、同じくアカデミーから昇格したストライカー、熊田直紀も積極的にシュートを放った。ゴールこそ遠かったが、身長190cm近い相手DFに対して何度も競り勝ったところに、アンダー代表のロールモデルコーチである内田篤人が推すだけのスケールの大きさが感じられた。

 さらに、すでに特別指定選手として昨季プレーした昌平高出身のウインガー、荒井悠汰も2ゴールと気を吐いた。

 昨季の松木の例があるだけに、ルーキーたちは開幕スタメン、レギュラー獲得も夢ではないと、本気のアピールを続けている。もしかすると、アルベル監督は今季もあっと驚く抜擢をするかもしれない。

主将・森重「早く“新しいFC東京のカラー”を」

 話を移籍組に戻せば、仲川は2度のリーグ優勝経験者。小泉も鳥栖時代には東京と共通するポジショナルなサッカーを経験し、鹿島アントラーズでは常勝軍団の空気をたっぷり吸い込んだ。この日も「鹿島では練習試合でも勝たないと意味がない、という空気があった」と語っている。

 こうした2人の加入について「その経験をチームに還元してほしい」と要望するのは、在籍14年目を迎える森重真人だ。しかし、キャプテンはこうも言う。

「彼らに頼るだけじゃなく、自分らがサポートしながら彼らの良さをどうすれば出せるのかを考えていかないといけない。彼らの考えをしっかり吸収して理解し、表現していきたい。いつまで経っても“FC東京カラー”が変わらないのは良くないと思う。新しい血が入るわけだから、早く“新しいFC東京のカラー”を作っていかないといけない」

 自分たちが変わらなければならないことを、誰よりも知っているからこその言葉だろう。

 川崎は日本代表の谷口彰悟が、横浜は昨季MVPの岩田智輝が海外へと移籍。過去6年のリーグ優勝チームが揃って戦力を落とすなか、東京は日本代表の長友佑都が「東京でタイトルを獲りたい。シャーレを掲げたい」と契約を延長し、昨季の主力選手全員が残留した。そのうえでピンポイント補強を行い、生きのいい高卒、大卒ルーキーも加入するなど、戦力がアップしている。

 本命不在――2023年シーズンは、いつにも増して大混戦が予想される。首都のクラブはこのチャンスをしっかり掴み取り、青赤のファン・サポーターが待ち望む結果を引き寄せることができるだろうか。

文=飯尾篤史

photograph by F.C.TOKYO