ブンデスリーガのウニオン・ベルリンに所属する原口はカタールW杯を経て、今どのようにサッカーと向き合っているのか。W杯の直前に本人を取材したドイツ在住の筆者が再び話を聞いた。
カタールワールドカップの狂騒から1カ月。冬休みを十分にとったブンデスリーガは、1月20日のライプツィヒ対バイエルンの試合で、再びその息吹を取り戻した。スタジアムに集結した4万7000人を超える大観衆の熱気から、再開への大きな喜びを感じさせられる。
翌日、僕はベルリン行きの電車に乗った。目的地はウニオンのホームスタジアム「シュタディオン・アン・デア・アルテン・フェルステライ」。11月中旬から中断期に入った時に、再開後最初の試合はここに来ようと決めていた。ウニオンで奮闘する原口元気の姿とプレーが見たかったのだ。
新しい自分を見せていかなきゃいけない
11月13日、中断前最後のゲームとなったフライブルク戦後、原口が口にしていたことを思い出す。
「この先自分の居場所を作っていくには、また新しい自分を見せていかなきゃいけない。今のまま停滞していたら席がなくなっていくのでアップデートして。守りに入らないように。31歳ですけど、ここからまだまだ新しいものを見せられるぐらいじゃないとやっていけないと思うんで。そういう覚悟と新しいチャレンジを楽しみながら、次に向かっていけたらいいかなと」
失意のW杯落選を乗り越え、原口はどんな変化を遂げようとしているのか。市電とトラムを乗り継いでスタジアムにたどり着くと、いつものように熱狂的なファンが試合開始を今か今かと待ち望んでいた。スタメンには原口の名前がある。大きな声援が響き渡るなか、両チームが入場。原口はチーム写真に収まると、着ていたジャージを脱ぎ、そしてゆっくりとした足取りでグラウンドへと足を進めた。
ミックスゾーンで時に笑顔を交えながら、質問に答えてくれた原口
膠着した試合展開だった前半終了間際にホッフェンハイムが先制するも、後半開始と同時にウニオンがインテンシティを高め、相手をどんどん押し込んでいく。そして原口はいろんなところでボールに絡む。48分にはペナルティエリア内で味方からの難しいパスをうまくコントロールし、そのままドリブルで相手をかわしてゴールラインまで持ち込むと、丁寧な折り返しをロビン・クノッヘへ。シュートは相手DFに当たってゴールを外れたものの、大きなチャンスを生み出した。55分には左サイドに顔を出し、ヤニク・ハベラーへのスルーパスを通し、62分にはペナルティエリア内でクロスを受けるが、惜しくもシュートまでは持ち込めず。63分に交代でピッチを去るまで味方からパスをうまく引き出したり、ボールを奪取するシーンも多く見られたのは収穫といえる。
ウニオンは後半3ゴールで見事な逆転勝ち。試合後のミックスゾーンで原口は時に笑顔を交えながら、こちらの質問に答えてくれた。表情は明るい。本人はいま具体的にどんな新しいチャレンジに取り組み、どんな感触をつかんでいるのだろう?
もっとサッカーをしたいなって。もっとうまくなりたいから
「(体重は)2キロぐらい増えましたね。本当にオフ中も毎日ジムに行って、体を大きくしたりしましたし、今日の試合でもある程度出力が出たかなと思いました。球際とかでも一歩で勝てるシーンも多かった。
プレシーズンも体の調子は良かった。ちょっと面白い取り組みだと思っています。あとセットプレーも結構日本で練習してきましたけど、こっちに戻って来てからハードすぎてなかなか蹴る機会がなかった。でもチームに『練習してきたんだよね』という話はしたので、これからも練習して、一つの武器にしたいなと思います」
話をいろいろと聞いていたら、原口がふとこんなことを口にした。
「もっとサッカーをしたいなって。もっとうまくなりたいから」
口にしたあるキーワード
飽くなき向上心がある。サッカーへの純粋な思いがある。もっとチャレンジしたい。もっとぶつかっていきたいと願っている。「うまくなりたい」というのは、具体的にどういうビジョンがあるのだろうと尋ねてみたら、一つのキーワードを明かしてくれた。
「やっぱり《1枚剥がすというところ》。いまドリブルの練習とかも再開していて。やっぱり中盤選手って一枚剥がせるのか、剥がせないのかってすごく違うと思います。評価も多分大きく変わってくると思う。今日もボールを受けて、ボールを守れているんだけど、ファールを受けて。すごいプレッシャーが強い中でも、どれだけ相手を剥がしていけるかだと思うので、そこに対する改善でドリブル練習やったり、体のことも変えたりしようとしてるんです」
昨年はいろんなことがあった。苦しい思いを、悲しい思いをたくさんした。それでも原口のサッカーへの愛はあふれている。そして視線はこれからの自分に向けられている。
日本代表は面白かったです。一歩上に行ったなという感じ
W杯における日本代表の戦いぶりは、そんな原口にとってとても印象的で、とても大きな影響をもたらしたという。
「今大会で気になった戦い方とか選手はいましたか?」とふってみたら、すぐでてきたのが「日本代表」だった。
「いや、日本代表は面白かったです。一歩上に行ったなっていう感じがします。やっぱり一番大きいと思ったのは(三笘)薫とか、(堂安)律とかが相手をしっかり剥がせること。あれは4年前と全然違う。ドイツとかにはやられてたけど、チームとして頑張ってのベスト16と個でも戦えるようになってきているので。それを見て、俺もやっぱり個の能力あげなきゃなって思ったし」
同じ背番号8を引き継いだ堂安は…?
堂安の名前が出た。ドイツ代表戦とスペイン代表戦で試合の流れをガラッと変える同点ゴールを決め、列島に歓喜をもたらした男。代表で原口の着けていた背番号8を身にまとった後継者の活躍は、原口の目にどう映ったのだろう?
「いやいや、後継者どころか、リスペクトですね。ずっと言ってたんで、『主役になる』って。それは点が取れてないときも、代表で苦しいときも、『W杯の本番で俺は絶対に中心になる、主役になる』って言ってたので。本当に実行したなって。終わった後も話しましたけど。これからですね、彼も。本当に大きなクラブに行ける。日本代表として2列目に関しては、ビッグクラブに行った選手(同士)の戦いとかになってきているんで。多分(久保)建英とか(鎌田)大地とか律とか薫とかが、もう1個上のレベルのクラブに行き始めると思うんですよね。すごい時代ですよね」
長年代表でともにプレーをした仲間のプレーぶりと戦いぶりから受けたのは《刺激》だったのだろうか? しばらく「うーん」と考えて、原口は頭の中を整理しながら話をする。
楽しみですね。まだまだいけるだろうって思わせてくれたんで。
「刺激なのか、危機感なのか。純粋(な思い)ですね。もっと自分がうまくなりたいなと。いやぁ、楽しみですね。まだまだいけるだろうって思わせてくれたんで。なんとなく自分で決めちゃっていた部分をとっぱらってくれたかなって、彼らの活躍を見て。自分のサッカー人生を見切らずに。簡単じゃないですか、見切るのは。こんなもんかって。まだまだ見切りたくないんで。楽しんでいきたいです、これからも。そう、刺激っすね」
そう言って、またにこやかに笑った。ワクワクするような自分を作っていきたいとフライブルク戦後に話していた言葉に偽りはない。そして、その気持ちはどんどん強くなってきている。
「いや、いま楽しめています。いろんなトライをしているのはやっぱり楽しいな。それが形になったらもっと楽しい。早く形にしつつ、楽しみたいなって思っています」
1人のサッカー選手として、そして1人の人間として原口は新たな時代に突入しようとしている。それは成熟期なのか、それともさらなる成長期なのか。ピッチ上で躍動し、感情全開でプレーする原口のこれからが楽しみでしかたがない。
文=中野吉之伴
photograph by AP/AFLO