日本代表・久保建英が所属するレアル・ソシエダ。現地で撮影する中島大介氏が、日本で放送のなかった国王杯バルセロナ戦、久保の活躍やバルサの現状などを撮ったオリジナル写真をNumberWebに送ってくれた。

 一騎当千の活躍を見せたと言っていいだろうか、スペイン国王杯準々決勝対バルサ戦における久保建英のプレーは鮮烈な印象を残した。

 バーを叩いた左足シュートはもちろん、何度もバルサ選手に囲まれながらも自陣からボールを持ち運んだ。そしてセルロートが外してしまったが――GKとDFの間に正確なグラウンダーでのクロスを送り込んだ。

 ただ、試合は序盤から、リーガで首位に立つバルサペースで進み、さらには前半終了間際40分にブライス・メンデスが一発退場で数的不利も負った。後半に入って52分、デンベレにシュートを決められると、反撃も実らずそのまま1-0でレアル・ソシエダは敗戦。国王杯から姿を消すこととなった。

トップ下で攻守両面においてブスケッツを苛立たせた

 試合が荒れる前兆はあった。

 両チームメンバーがアップに現れるより早くピッチに審判団が姿を見せると大きなブーイングが鳴り響いた。客の入りはまだ3割、4割程度だっただろうか。にもかかわらず緊張感がスタジアムを包んだ。

 しかしファンの関心は、バルサのメンバーが姿を現すとそちらに移っていった。また久保がアップ時にコントロールシュートを決めると、ゴール裏のいかついバルササポーターから〈KUBO〉という声が上がった。

 その声は久保にも届き、久保が笑顔で反応を示した。

 久保は、バルサの下部組織在籍時、FIFAのユース年代の移籍に関わる規定により、退団を余儀なくされた過去がある。そのことを知っているバルササポーターも多くいるということだろう。

 国王杯、平日開催ということもあってか、空席の目立つバルサのホームスタジアム、カンプ・ノウに選手が入場してくる。

 試合はフルメンバーで臨んだバルサに対して、ソシエダは中盤の要であるダビド・シルバ、ミケル・メリノを怪我で欠いた。久保はトップ下にポジションを取り、シルバに代わり攻撃のタクトを託された。

 また守備時には、バルサ攻撃の要ブスケッツのマークという大役もこなしている。テア・シュテーゲンがブスケッツを探すとき、常に久保がそのコースを切る動きをするなど、久保とブスケッツの間に激しいポジションの取りあいが見てとれた。

 珍しくブスケッツが声を荒げるシーンもあり、久保のマークに手を焼いていることが伝わってきた。

クロスバー直撃のシュート、頼れる同僚の一発退場

 前半、ソシエダは押し込まれる時間が長くなり、自陣深くからなんとかボールを持ち出そうとする、久保やメンデスの姿が多く映る。

 徐々に中盤ではボールの奪い合いでファウルすれすれの激しい攻防が増えていったが、この日のヒルマンサノ主審はプレーを流す傾向だった。バルサ選手へのファウルに見えるプレーが流されると、大きなブーイングがスタジアムを包む時間が増えていった。

 そんな中で前半30分、シルバの代役で出場したマリンよりパスを受けた久保が、ボックス内で左足での強烈なシュートを放つ。わずかに相手を掠めたボールはクロスバーを叩いた。

 そして40分、久保に対するブスケッツのファウル気味のプレーから、そこのリカバリーに入ったメンデスとブスケッツが接触する。一度はイエローが提示されたが、VARを経て、メンデスは一発退場となった。

 ソシエダとして見れば――ただでさえ怪我人で苦しい状況に、追い打ちをかける状況となってしまった。直前には、レバンドフスキの肘がメンデスの顔に入ったものの、プレーが流されて熱くなっていた部分もあっただろうか。

 映像を確認すると、メンデスの足裏が遅れてブスケッツの足首に入っており、判定自体は正しい。ただ序盤から強度の強いゲームを主審がコントロールしきれず、試合を左右するようなプレーを誘発してしまったとも言える。

 その直後から久保は、右サイドにポジションを移し、前半を無失点で終わらせた。

久保とブスケッツの言い争いを見たデンベレは…

 久保は後半開始から、左サイドへポジションを移した。

 なんとか1人少ない中でもバルサの攻撃を凌ぎたいソシエダは、一層激しさを見せる。後半開始早々、セルロートとアラウホ、またアリツ・エルストンドとガビが揉めるシーンが見られた。その中では、久保とブスケッツの言い争いも。それを見ていたデンベレは笑顔を浮かべていた。

 しかし52分、バルサの右サイドバック、クンデからデンベレ(フランス代表コンビでもある)へと縦パスが入る。デンベレはその時点でハーフラインを少し越えた付近から走り始めており、ファーストタッチでボールを縦へ加速させると、ツータッチ目でゴールニアサイドを撃ち抜いた。

 5バックとなったソシエダの一瞬のスペースを見逃さず、そして抜群の加速力で相手を置き去りにすると、ニアサイドを正確に狙いすましつつ、GKの手を弾く威力あるシュート。完璧な一撃だった。

 1点を追いかけるソシエダは、57分、ゴール正面でFKのチャンスを得た。

 ボールを手にしたのは久保だったが、セルロートが近づき、キッカーに名乗りをあげた。かなりの剣幕に、久保も一度はキッカーを委ねたが、直後、ベンチより久保との指示が飛んだ。

 仕切り直してボールをセットした久保だったが、ボールは壁に当たってしまった。

久保が作った決定機を外したセルロートもギリギリだった

 FK直後の59分には、ペドリ、クンデに挟まれた状態でパスを受けた久保がワントラップで180度ターン。一気に縦へ加速すると、ペドリはたまらずカード覚悟のファウルで止めるしかなかった。

 この頃には、1人多いバルサを相手にする久保のプレーは――まさに一騎当千、何かを起こすのではと期待させ始めていた。

 そして60分、久保がクンデのクリアをカットすると、鋭いグラウンダーのクロスを蹴り込んだ。ボールは、GKとDFの間を抜け、ゴール前で待ち構えるセルロートの元に辿り着いたが、押し込むだけのシュートは、むなしくも枠を外れてしまった。

 しばらく上を向いたまま動けなかったセルロートだが――彼もまた1人少ない状況で、アラウホ等を相手に正に身体を張り、走り、守備ラインまで戻り闘っていた。久保だけでなく、ソシエダの全選手が一人少ない状況で連係を遮断され、孤軍奮闘を余儀なくされていた。エースだけに外した責任は付いてくるが、ギリギリの状態だったことも想像に難くない。

敗戦にも久保らソシエダイレブンの表情は…

 78分、久保はピッチを後にした。現実的にはこれが終戦宣言だっただろうか。

 週末には、ベルナベウでのレアル・マドリー戦が待っている。前節で怪我のため出場のなかった久保の温存の意図が込められた交代策だった。

 シルバ、メリノという主力の欠場、さらにはメンデスの退場がありながらの1-0の敗戦は健闘と言えるものだった。バルサ側からすると、勝負を決め切ることができない悪い部分が出たとも言える。

 リーガではバルサ、マドリーの優勝争いを、ソシエダが追いかける形となっている。敗戦したとはいえ、試合後に久保らソシエダの選手たちが柔らかな表情を見せたのは、手ごたえを感じているからこそだろうか。

 試合後、バルサのゴール裏で太鼓を叩き大声でチームを鼓舞するムスティが話してくれた。

「Kuboのことは、マシアの頃から知っているよ。早くて、テクニカルだ。選手としても、チームとしても良くやっている。もっと良い未来が待っているよ」と。

文=中島大介

photograph by Daisuke Nakashima