藤井聡太五冠、渡辺明名人、羽生善治九段など、将棋界は様々な話題にあふれています。夫婦ともども“観る将”になったというマンガ家の千田純生先生に今月も「ファン目線での将棋ハイライト」マンガをNumberWebで描いてもらいました!

 3月の声を聞くとともに一気に暖かくなる今日この頃ですが……盤上の戦いが気温を上げているんじゃないか? と思い込みたくなるほどにアツいんです(笑)。2月も名シーン続出だった将棋界について、イラストなどで振り返っていきます!

1)“藤井六冠”へあと1勝+神展開の「藤井−羽生」王将戦

 年明けから春にかけて行われる8大タイトル戦のうち2つ、王将戦と棋王戦。今期の戦いもクライマックスを迎えようとしています。

 まずは棋王戦と王将戦、ここまでの結果と今後の日程から。

<棋王戦>
第1局(2月5日/長野県長野市):125手で藤井五冠の勝利
第2局(2月18日/石川県金沢市):132手で藤井五冠の勝利
第3局(3月5日/新潟県新潟市)
第4局(3月19日/栃木県日光市)
第5局(3月29日/東京都渋谷区)

<王将戦>
第1局(1月8、9日/静岡県掛川市):91手で藤井王将の勝利
第2局(1月21、22日/大阪府高槻市):101手で羽生九段の勝利
第3局(1月28、29日/石川県金沢市):95手で藤井王将の勝利
第4局(2月9、10日/東京都立川市):107手で羽生九段の勝利
第5局(2月25、26日/島根県大田市):101手で藤井王将の勝利
第6局(3月11、12日/佐賀県三養基郡)
第7局(3月25、26日/栃木県大田原市)

 棋王戦は20歳の藤井五冠が連勝を飾り、最年少「六冠」獲得へあと1勝としています(※これまでの最年少記録は羽生九段の24歳2カ月……って、六冠自体が羽生九段しかいないわけですが)。前期まで10連覇、さらにその期間の勝率が「.750」と圧倒的な強さを誇った「冬将軍」の渡辺明棋王(名人と二冠)ですら、一気にカド番に追い込んでしまう藤井五冠に震えます。あと細かな部分ですが、第1局で振り駒が2度振り直しになったのも、ビックリでした。

 とはいえ、4月から始まる名人戦で対決する可能性がある藤井五冠に対して、渡辺棋王がこのまま手をこまねいているわけはないはず。第3局の会場は僕と同じく、いやそれ以上にアツい“観る将”である妻氏の故郷ということで、帰省しつつ親族全員でこの1局の雰囲気だけでも味わってこようと思っています。

王将戦の前夜祭を取材してみると

 そして王将戦は、テレビのニュースやワイドショーでも大きく報じられるなど、将棋ファンだけにとどまらない社会現象になってるな……と感じます。これだけの大熱戦・神展開の連続を見せられると、エモくて心震えないわけにはいきませんね!

 実は第4局のこと。編集担当さんから「前夜祭、なんと取材できることになりました。せっかくなので行ってみます?」と連絡が来て速攻で「もちろん!」と返し、会場の立川市に。編集担当さんは「申請してみたっちゃみたんですが、前夜祭って初めてで……」ということで僕以上に緊張していました。で、取材中は「会場の皆さんを邪魔しちゃいけませんよねえ」っていうことで、将棋の盤面で言えば「1九」、いや先手の駒台くらい端っこにひっそりいる感じという(笑)。

 ただ実際にようやく本来の形で開催できる前夜祭を目の当たりにできて本当に良かったなと感じますし、藤井王将と羽生九段が入場した時、参加者の方々の目がキラキラと光っているのを見て、心から楽しんでいるんだなあとほっこりとした気持ちにもなりました。

 で、スポンサーや関係者の言葉に続き、両対局者のスピーチを聞いてみることに。

「羽生先生、めちゃくちゃ慣れてますね。さすが場数が違う」

「藤井王将も20歳であれだけしっかりしてるんだからすごいっすね。自分が同じ年齢の喋り方を思い出すと恥ずかしい……」

 スピーチ後こんな感じで編集担当さんと話していると、最後には立川市特産のウド(知らなかった!)や花束を手に記念撮影。2人が来ることで地域振興にもなってるんだろうなあ……と、タイトル戦会場が行われる全国各地に思いを馳せた取材でもありました。

2)藤井五冠の戦いぶりを振り返ってみると

 前置きが長くなってしまいましたね、すみません(苦笑)。藤井五冠が2月に戦ったのは8局。その戦いぶりについて、細かく見ていくことにしましょう。

 まずは王将戦から。イラストや文章でも描きましたが……第1局から第5局まですべて先手番が勝利し、ここまで藤井王将から見て3勝2敗。初の王将防衛にあと1勝としています。その2月に行われた第4局、第5局ともにシビれる内容でした。第4局で羽生先生が“髪の毛センサー立ちまくり”のキレキレぶりで、藤井王将を押し込んで勝利したかと思えば、第5局では羽生先生が最近の“宝刀”としている「後手横歩取り」から形勢が二転三転(したらしい……)中で、最後は藤井王将が勝ちをもぎ取りました。

 第5局後の取材で羽生九段が「対応を誤ると、一気に終わってしまいそうな局面がずっと続いてたので、まとめづらい将棋かなと思っていました」、藤井王将も「わからない所も多かったです」と話していたそうです。それほどまで2人が難しいと思っていた内容に恐れ入りますし、盤上での激しいシーソーゲームぶりに、息を呑むばかりでした。

 そして恒例の「勝者の記念撮影」では「バレンタインデーが近いのでショコラティエ→うさ耳バンドの寝起き姿な羽生先生」、「藤井王将がスサノオノミコトに扮してヤマタノオロチ退治→鯛のかぶりもの着用」と、もう凄まじい突っ走りぶり。先月もそうでしたが、妻氏もまた、ネット上で各画像を確認するやいなやコンビニへと突っ走っていきました(笑)。

 王将戦以外も振り返っていきましょう。2月最初の対局となったA級順位戦では、研究パートナーとしても知られる永瀬拓矢王座の前に敗戦(永瀬王座、ものすごい準備周到さだったようですね)。名人戦挑戦権争いは3月2日の最終局に懸かることに。6勝2敗で藤井五冠と並ぶ広瀬章人八段らの対局も同時進行する中で、どんなドラマが待っているんでしょうか。

藤井五冠に近づく“もう1つの大偉業”

 最年少名人挑戦や六冠なるか、羽生九段との対決など話題満載の藤井五冠ですが、もう1つの大偉業が間近に迫っています。

 それは「一般棋戦グランドスラム」です。すでに優勝したJT杯日本シリーズと銀河戦に続き、2月23日には朝日杯将棋オープンを制覇(準決勝、豊島将之九段戦の大逆転劇が凄かった!)。残す棋戦はNHK杯のみとなっています。

 2月5日に放送された中川大輔八段戦では、ダンディーな中川八段が対局前の意気込みで“ジャブ”をかまして谷川浩司十七世名人も苦笑いしていましたが(笑)、藤井五冠がベテランを見事に打ち砕き、ベスト4進出。例年なぜか早期敗退が続いていた中で、いよいよNHK杯でも……となるか、注目したいと思います。

3)藤井五冠を解説する豊島九段の笑顔…各棋士も話題満載

 藤井五冠と羽生九段に関連した各棋士それぞれの話題も(2月は28日しかないのに!)豊富な1カ月でした。まず大ニュースとして扱いたいのは、やはり小山怜央アマの快挙でしょう!

 13日に行われた「プロ編入試験」5番勝負4局目。横山友紀四段との対局で勝利して通算3勝1敗とし、29歳にしてプロ棋士になる権利をつかみ取りました。現行制度での合格は今泉健司五段、折田翔吾五段に続き3人目、プロ棋士育成組織である「奨励会」を経なかった異例の経歴も話題となりました。さらに僕と同郷である岩手県出身としては初のプロ!! このストーリー性、熱く応援しないわけにはいかないです。

 熱い戦いぶりで栄冠をつかんだという点では、西山朋佳女王・女流王将も同様です。1月から2月にかけて行われた女流名人戦で、伊藤沙恵女流名人に挑戦した西山さんは24日の第4局で勝利し、シリーズ3勝1敗として初の同タイトル獲得となりました。ご自身のTwitterで「歴史と伝統ある女流名人に名を連ねることができ、嬉しく思います」と投稿し、数多くの祝福リプも飛んでいるようです。女流三冠を獲得したことで里見香奈女流五冠とのライバル対決はさらなる白熱ぶりを見せるのでは……と新年度に想いを馳せます!

 そして優勝で言えば定期的に扱ってきた「ABEMA師弟トーナメント」で木村一基九段&高野智史六段が、決勝で深浦康市九段&佐々木大地七段に3連勝で初優勝! 杉本昌隆八段&藤井竜王、谷川十七世名人&都成竜馬七段のチームなどを破ってきた実力を最後の最後まで見せつけました。師匠・木村九段の「飲みに行こうか!」と高野六段に声を掛ける様子は、まさに師弟の絆を見た気がします。

藤井五冠、羽生九段の対局でも面白い出来事が

 最後は棋士同士の関係性、ハプニングについても。

 藤井五冠が4度目の優勝を飾った朝日杯で、「区民」こと豊島九段ファンの妻氏が喜んだのが大盤解説会の菅井竜也八段との掛け合い。Twitterでもユニークな菅井八段ですが、盛っていくトークスタイルにいつもはポーカーフェースの豊島九段も思わずニコニコするなど豊かな表情を見せてました。同世代の関西所属だからこそ、こんな感じで交流できるんだろうなあと。あと描ききれなかったんですが、菅井八段が準決勝の藤井−豊島戦を解説する横で、先に対局を終えた渡辺名人と糸谷哲郎八段が延々と感想戦している絵も、なかなかカオスな会場だなと(笑)。

 カオスと言えば、順位戦B級1組・羽生九段と対局した横山泰明七段。2月14日はまだまだ寒い冬の1日ということもあってか、ブランケットを使用していたんですが……デザインは、かわいいパンダ。中国へと帰ったシャンシャンのファンだったかは本人のみぞ知るですが(笑)、盤上での真剣勝負とのギャップが、将棋中継を見ていての楽しみであることは確かです。

17歳・藤本四段は“勘違い”も今後に期待大

 ビックリなハプニングは竜王戦ランキング戦6組でのこと。17歳の藤本渚四段が神谷広志八段と東京・将棋会館で対局に臨むはずが……藤本四段がいたのは大阪。まさかの対局場勘違いで不戦敗の憂き目に。とはいえ羽生九段を憧れの棋士と語る藤本四段はデビュー直後から6連勝を飾るなど、藤井五冠や伊藤匠五段よりも年下の新世代棋士として注目したい1人。この悔しさをバネに、さらなる強さを手に入れてほしいと願っています。

 年度末の3月、棋士それぞれが順位戦など大事な大事な1局に臨みます。今月も全力応援でその一手一手に注目できればと!(構成/茂野聡士)

文=千田純生

photograph by Junsei Chida/日本将棋連盟