侍ジャパンはWBC1次ラウンドのプールBで戦うことになる。5チーム総当たりで、2位までが次のラウンドに進む。試合はすべて東京ドーム。「地の利」はあるが、日本選手は日の丸を背負うと大きなプレッシャーを感じるであろうから、決して楽な戦いではないだろう。
プールBのチームについて、過去の戦績と共に見ていくことにする。
〈日本〉
・WBSCランキング1位 予選免除 出場5回目
・過去大会成績 23勝8敗
2006年:1次ラウンド(2勝1敗)、2次ラウンド(1勝2敗)、決勝ラウンド(2勝)優勝
2009年:1次ラウンド(2勝1敗)、2次ラウンド(3勝1敗)、決勝ラウンド(2勝)優勝
2013年:1次ラウンド(2勝1敗)、2次ラウンド(3勝0敗)、 決勝ラウンド(1敗)4強
2017年:1次ラウンド(3勝0敗)、2次ラウンド(3勝0敗)、決勝ラウンド(1敗)4強
中国:元ホークス真砂以外にもエ軍傘下の157km腕が
★3月9日19時 中国対日本★
〈中国〉
・WBSCランキング30位 予選免除 出場5回目
・過去大会成績 2勝10敗
2006年:1次ラウンド(0勝3敗)敗退
2009年:1次ラウンド(1勝2敗)敗退 ※台湾に勝利
2013年:1次ラウンド(1勝2敗)敗退 ※ブラジルに勝利
2017年:1次ラウンド(0勝3敗)敗退
・対日本戦 4勝0敗(以下すべて日本から見ての成績)
2006年 〇日本18-2中国●
2009年 〇日本4-0中国●
2013年 〇日本5-2中国●
2017年 〇日本7-1中国●
中国は、野球がオリンピック競技だった時期は中国野球リーグ(中國棒球聯賽)があったが、野球が五輪競技を外れてからは熱意を失い2012年に停止していた。2019年、MLBが支援して中国プロ野球連盟(CNBL)が発足、リーグ戦を再開した。
大部分がCNBLの選手だが、韓国プロ野球(KBO)の朱權(チュ・グォン、KTウィズ)は180cm81kgの右腕投手。KBOでは9シーズン目、救援投手として活躍している。シンガポール出身でエンゼルス傘下のアラン・カーターは190cm91kgの大型右腕で最速157kmの剛腕だ。日本戦には、カーターが先発か。
内野手のレイ・チャンは39歳、2016年までレッズ傘下にいたマイナーリーガー。AAAが最高位で、メジャーではプレーしていない。
そして外野手で元ソフトバンク、今年から日立製作所の真砂勇介の名前がある。「ミギータ=右の柳田悠岐」と言われた大谷翔平世代の強打者。両親ともに中国出身である。
2月26日の鹿児島県、湯之元球場で社会人チームと練習試合をする中国チームを見たが、真砂は3番中堅だった。打線は早打ちだが速球に強い印象だった。
日本とは実力差があるが、大差の試合は少ない。先制点を奪われると、苦労する可能性はあるだろう。
韓国:日本でもプレーした“あの選手の息子”が覚醒
★3月10日19時 韓国対日本★
〈韓国〉
・WBSCランキング4位 予選免除 出場5回目
・過去大会成績 15勝7敗
2006年:1次ラウンド(3勝0敗)、2次ラウンド(3勝0敗)、決勝ラウンド(1敗)4強
2009年:1次ラウンド(3勝1敗)、2次ラウンド(2勝1敗)、決勝ラウンド(1勝1敗)準優勝
2013年:1次ラウンド(2勝1敗)敗退
2017年:1次ラウンド(1勝2敗)敗退
・対日本戦 4勝4敗
2006年
●日本2-3韓国〇(1次ラウンド)
●日本1-2韓国〇(2次ラウンド)
〇日本6-0韓国●(準決勝)
2009年
〇日本14-2韓国●(1次ラウンド)
●日本0-1韓国〇(1次ラウンド)
●日本1-4韓国〇(2次ラウンド)
〇日本6-2韓国●(2次ラウンド)
〇日本5-3韓国●(決勝)
宿敵韓国とは4勝4敗だが、直近2大会は韓国が1次ラウンドで敗退したため、対戦がない。ただ2015年プレミア12では日本とは1勝1敗(韓国優勝、日本3位)、2019年プレミア12では日本の2勝0敗(日本優勝、韓国準優勝)、2021年東京五輪では1勝0敗(日本優勝、韓国4位)。このところ日本は韓国にあまり負けていない。
今回の先発には高永表(コ・ヨンピョ、31歳、KT:13勝8敗)、蘇ヒョン準(ソ・ヒョンジュン、21歳 、KT:13勝6敗)など2ケタ勝利を挙げた投手が8人もいる。しかしほとんどが防御率3点台で、KBOが打高投低であることを象徴している。
本来であれば日本戦にぶつけたかったキウムの安佑鎭(アン・ウジン)23歳は、191cm90kgの大型右腕。15勝8敗、率2.11(1位)と抜群の成績だが、素行面を理由に選出されなかった。
左腕の金廣鉉(キム・グァンヒョン、34歳、SSG:13勝3敗)は2008年の北京五輪、20歳で日本打線を圧倒した実績を持つ。ただ2009年のWBCでは打ち込まれている。あとは制球が良いサウスポーの具昌模(ク・チャンモ、26歳、NC:11勝5敗)か。日本打線は韓国の左腕投手に苦戦する傾向があり、この辺りが出てくるのではないか。大谷、村上宗隆、吉田正尚、ラーズ・ヌートバーらといった左打者が攻略できるか。
救援ではNo.1クローザーの高佑錫(コ・ウソク、24歳、LG:4勝2敗42S)が控えている。3月6日、京セラドームで韓国対オリックスの強化試合を見たが、高佑錫が首、肩の不調を訴えて途中降板している。本番に向けて注視したいポイントとなる。
打線は、昨年の本塁打王、朴炳鎬(パク・ビョンホ、36歳、KT)が中軸。彼をはじめ30代の選手が多い。韓国が期待するのは李政厚(イ・ジョンフ、24歳、キウム)だ。中日でもプレーした「韓国のイチロー」李鍾範(イ・ジョンボム)の子で名古屋生まれ。安打製造機タイプだったが、近年長打も増えた。筆者は2019年にソウルでこの選手を見たが、圧倒的な人気だった。彼らに加えて金河成(キム・ハソン、27歳、パドレス)、トミー・エドマン(27歳、カージナルス)という2人のメジャーリーガーが二遊間を守るとみられる。
2009年は金泰均(キム・テギュン)、李大浩(イ・デホ)とのちにNPBでも活躍した強打者がいたが、今年は絶対的な中軸はいない。とはいえ日本戦となると目の色が変わる韓国だ。総力戦になるのは間違いない。2次ラウンドで再戦する可能性もあるし、アジア最大の強敵なのは変わらない。
チェコ:欧州で何度も対戦している日本人に聞く
★3月11日19時 チェコ対日本★
〈チェコ共和国〉
・WBSCランキング15位 初出場
・WBC予選成績(A組)
●チェコ7-21スペイン〇
〇チェコ7−1フランス
〇チェコ8−4ドイツ
〇チェコ3−1スペイン
予選では初戦のスペイン戦で大敗したが、その後盛り返し、敗者復活戦でスペインに雪辱して初出場を決めた。チェコについてはオーストリア代表チーム監督で、何度も対戦している坂梨広幸氏に話を聞いた。
「チェコ代表のパベル・ハジム監督とはU21やU23などでも対戦しています 。基本、打のチームですが、エンドランやダブルスチールなど足を絡めた試合も多かった印象です。
投手では19歳のミハイル ・コバラ。WBCの予選では大事な場面で救援してシャットアウトするなど好投しました。球速も93マイル(150km/h)近くは出ますね。ダニエル・パディサックはアメリカの大学リーグ(NCAA)でプレーしていて、93マイルくらいの球速が出ます。それから左腕のヤン・ノバック。球速は90マイル(145km/h)に届かない程度ですがチェコのリーグでは先発、救援で活躍しています。予選最終戦で勝ち投手になったのがマーティン・シュナイダー(37歳)、本職は消防士で、ずっとチェコ代表としてやってきてサイドから変化球をうまく投げるタイプです。
打線は、捕手のマーティン・チェルベンカはオリオールズ、メッツのAAAでプレーしていました。あと一歩でMLBには届かなかったけれど、彼の長打力は侮れないですね。ヴォイテック・メンシクはアメリカの大学からエンゼルスとマイナー契約を結びましたが、チェコに戻ってきています。三塁手で守備が上手ですし、リードオフでしょうか。そのほかにはマーティン・ムジク、アメリカの大学にいるマレック・チュラップあたりも長打力があり、ちょっと間違うとスタンドに放り込まれます」
2月に入って、アスレチックスなどで活躍し、現在FAのエリック・ソガードの参加が発表された。内外野を守り、人気のあった選手だ。
「僕も気にしていたんですが、参加となれば確実に戦力になりますね」
率直に言って戦力的には大差があるが個々の選手のポテンシャルは高い。初対戦だが、一発勝負だけに侮れない相手だろう。
オーストラリア:顔ぶれは昨年の強化試合と重なる
★3月12日19時 オーストラリア対日本★
〈オーストラリア〉
・WBSCランキング10位 予選免除 出場5回目
・過去大会成績 2勝10敗
2006年:1次ラウンド(0勝3敗)敗退
2009年:1次ラウンド(1勝2敗)敗退
2013年:1次ラウンド(0勝3敗)敗退
2017年:予選ラウンド(3勝0敗)本選出場、1次ラウンド(1勝2敗)敗退
・対日本戦 0勝1敗
2017年
〇日本4-1オーストラリア●(1次ラウンド)
2017年は第2戦で当たったが、2回、先発の菅野智之がデ・サンミゲルの本塁打で先制され、冷や汗をかいたのが記憶に新しい。結局、勝ったがオーストラリアにはABLというプロリーグがあり、近年実力は上昇中だ。
監督のデーブ・ニルソンは「ディンゴ」の登録名で中日でプレー。選手はMLBやマイナーを経験した選手も多い。顔ぶれは、昨年11月に侍ジャパンシリーズと銘打って2試合戦った時と重なっている。この時は8−1、9−0で日本が圧勝している。
33歳の右腕ワーウィック・ソーポルトはMLBタイガースで救援として8勝。韓国では先発投手として通算22勝している。同じく33歳の右腕、ティム・アサートンはアスレチックス傘下でAAAまで昇格。通算23勝。ただこの2人は11月の日本戦で先発して打ち込まれている。
先発はレッドソックスのマイナーで7年間、主として先発で投げたダニエル・マグラス、あるいは33歳の左腕、WBC3回目のスティーブン・ケントあたりではないか。
基本は継投で目先を変えるパターンで、多くの投手が登板するだろう。
打線の中心は11月の日本戦、2試合で3安打した27歳の内野手、ロビー・グレンディニングか。マイナー通算34本塁打の実績を持つ。また、ティム・ケネリーは36歳だが、俊足強打の外野手でリードオフマンを務めると目される。
予選通過を決めて余裕のある状態で戦いたいワケ
筆者は2013年、台湾のアジアシリーズで、オーストラリア代表のキャンベラ・キャバルリーが楽天には敗れたものの、韓国のサムスン、台湾の統一を破り優勝したのを見た。この時も有名選手はいなかったが、チームワークの良さが目立った。
4戦目、日本はすでに予選通過を決めて、余裕のある形で対戦したい。そこまでの勝敗次第では勢いに任せてオーストラリアが金星を奪う可能性もないとは言えないからだ。
率直に言って1次ラウンドプールBでは、日本の実力は群を抜いている。それだけに、敵は「相手チーム」ではなく「自分たちだ」と言なろう。
(「侍の強化試合成績編」につづく)
文=広尾晃
photograph by Naoya Sanuki