WBC準決勝の相手はメキシコとなった。メキシコは2019年のプレミア12でもアメリカを破って3位になった。このときナインが大喜びしていたのが印象的だったし、近年において力が上がっている。
メキシコというチームについておさらいし、侍ジャパンとの比較を試みよう。
チームは上り調子、競り合いにも強い
【メキシコの今大会戦績】
〈1次ラウンド PoolC〉
●メキシコ4-5コロンビア〇
○メキシコ11-5アメリカ●
〇メキシコ2-1イギリス●
○メキシコ10-3カナダ●
メキシコは3勝1敗27得点14失点でPoolCを1位通過した。
〈準々決勝〉
〇メキシコ5-4プエルトリコ●
日本時間3月18日朝に行われたプエルトリコ戦、メキシコは立ち上がりに先発のフリオ・ウリアスが打ち込まれ4失点。しかし2回、5回に1点と小刻みに点を返し、7回に3点をとって逆転、そのまま逃げ切った。プエルトリコは前々日、勝利が決まった直後に絶対的なクローザーだったエドウィン・ディアスが負傷したことが、たちまち響いた形だ。
この星取り表を見ても、メキシコがしり上がりに調子を上げていることが分かる。競り合いに強い印象だ。続いては、メキシコの選手の個人成績を見ていこう。
サンドバルはエンゼルスで大谷に次ぐ2番手
【投手陣】
〈先発〉
J.ウリアス2試0勝0敗0S0H9回1球10振 率7.00
P.サンドバル1試1勝0敗0S0H3回2球2振 率3.00
T.ウォーカー1試0勝0敗0S0H4回1球8振 率0.00
J.アルキーディ1試1勝0敗0S0H4回1球5振 率4.50
メキシコの先発は、この順番で回っている。日本戦はエンゼルス大谷翔平の同僚、パトリック・サンドバルが先発で来るようだ。26歳の左腕で昨年は27試合に先発して6勝9敗だったものの、148.2回を投げて防御率2.91、大谷翔平に次ぐ2番手先発だった。
侍打線はこれまで、MLBの第一線で投げる先発投手とは対戦していない。速球とチェンジアップの緩急で攻めるタイプの一方で、制球力があるとはいえないので、1、2番がじっくり見ていくことが大事だろう。
〈第2先発・救援〉
J.アサド2試0勝0敗0S0H5.2回1球6振 率0.00
J.ロメロ3試2勝0敗0S0H3回2球2振 率3.00
G.ガイェゴス3試0勝0敗2S0H3回0球3振 率0.00
J.サンチェス3試0勝0敗0S1H2.2回0球3振 率0.00
A.マルティネス1試0勝0敗0S1H2.1回1球1振 率0.00
G.レイエス2試0勝0敗0S0H2回0球2振 率0.00
J.クルーズ2試0勝1敗0S1H2回0球3振 率0.00
L.セサ1試0勝0敗0S0H2回0球1振 率4.50
C.バルガス2試0勝0敗0S0H1回1球1振 率27.00
M.バレーダ1試0勝0敗0S1H1回1球1振 率9.00
S.サスエタ2試0勝0敗0S0H0.2回2球1振 率13.50
E.アルメンタ1試0勝0敗0S0H0.2回2球0振 率0.00
5戦を経過して、使える投手と使えない投手がくっきりと分かれた印象がある。
ハビエル・アサドは昨年カブスからメジャーデビューした25歳の右腕。第2先発という役どころだがまだ失点していない。ジョジョ・ロメロはカージナルスの26歳の左腕セットアッパーで、一昨年はフィリーズで投げた。昨年は主にマイナーで投げていたが制球力が良い。ジオバニー・ガイェゴスは同じくカージナルスのクローザー。奪三振率が非常に高く、制球力も良い。
これらの救援投手も、1次ラウンドや準々決勝ではいなかったメジャー級の投手たちであり、攻略はかなり難しいだろう。繰り返しになるが侍打線は「じっくり見る」ことで活路を見出すべきだろう。
上位打線は全員メジャーリーガーの一線級
〈打線〉
直近の打順で見る。全員がメジャーリーガーで上位打線は一線級だ。
1(左)R.アロサレーナ5試17打8安1本9点0盗7球4振 率.471
2(右)A.ベルドゥーゴ5試19打2安0本3点0盗3球1振 率.105
3(一)J.メネセス5試23打9安2本6点0盗0球1振 率.391
4(指)R.テレス5試21打6安1本5点0盗2球2振 率.286
5(三)I.パレデス5試20打6安1本5点1盗3球6振 率.300
6(二)L.ウリアス5試14打3安0本1点0盗3球1振 率.214
7(遊)A.トレホ5試17打3安0本1点0盗3球10振 率.176
8(中)A.トーマス5試17打4安0本0点2盗1球3振 率.235
9(捕)A.バーンズ4試14打5安0本0点1盗4球4振 率.357
ランディ・アロサレーナはキューバ出身でメキシコの市民権を得た。レイズでは3番を打ち昨年は20本塁打32盗塁、打率.263。今大会でも非常に当たっている。アレックス・ベルドゥーゴはレッドソックスの身体能力の高い左打ち外野手。今大会は不振だったものの、準々決勝では活躍した。
クリーンアップを見ると、ジョーイ・メネセスは2019年、オリックスでプレー。4本塁打、打率.206に終わったものの、昨年ナショナルズでメジャーデビューすると13本塁打、打率.324を記録。30歳と遅咲きながら、今季は中軸を打つと考えられている。
ロウディ・テレスはブルワーズの中軸打者で昨年は35本塁打89打点。選球眼も良い28歳の左打者だ。イサ―ク・パレデスは昨年レイズで20本塁打。打率こそ低いものの選球眼が良い24歳の内野手である。
下位打線も多士済々である。ルイス・ウリアスは25歳の右打者。昨年ブルワーズで16本塁打。彼も選球眼が良い。アラン・トレホは一昨年ロッキーズからメジャーデビュー。大型内野手で長打力もある。アレク・トーマスは昨年、ダイヤモンドバックスからメジャー初出場を果たし、堅実な中距離打者で足も速い。オースティン・バーンズは33歳、ドジャースのベテラン捕手。チームではクレイトン・カーショウの相方捕手であり、リードに定評がある。
〈控え選手〉
(捕)A.ウィルソン2試3打2安0本2点0盗0球1振 率.667
(内)R.バレンズエラ1試0打0安0本0点0盗1球0振 率.−
(内)J.アランダ3試6打1安0本0点0盗0球3振 率.167
(外)J.デュラン5試5打0安0本0点2盗0球2振 率.000
(外)J.カルドナ4試2打1安0本0点0盗0球1振 率.500
チームはレギュラー選手で固められていて、控え選手の出場機会は多くない。こうしてみると、メキシコはこれまでの対戦相手とは違い「本物のメジャーリーガー」で構成された屈強な陣容であることが分かる。東京ドームでは、ものすごい応援のもと試合をした侍ジャパンだが「ホームアドバンテージ」もなくなる。厳しい戦いが想定される。
侍ジャパンの準々決勝までの成績をおさらいすると
準々決勝を終えた段階での日本チームの成績も見ていこう。
【投手陣】
〈先発〉
大谷翔平2試2勝0敗0S0H8.2回3球10振 率2.08
ダルビッシュ有2試1勝0敗0S0H5回1球2振 率5.40
佐々木朗希1試1勝0敗0S0H3.2回3球8振 率0.00
山本由伸1試1勝0敗0S0H4回0球8振 率0.00
佐々木朗希の先発が予想される。前回登板では速球は164km/hを記録。チェコ打線を圧倒したが、メキシコ打線は速球に強い。相手が違うことは覚悟すべきだろう。また選球眼も良い打者が並んでいる。立ち上がりが重要だと思われる。
〈第2先発・救援〉
宮城大弥1試0勝0敗1S0H5回0球7振 率1.80
今永昇太2試0勝0敗0S1H4回0球5振 率2.25
戸郷翔征1試0勝0敗0S1H3回1球7振 率3.00
大勢2試0勝0敗0S0H2回0球2振 率0.00
湯浅京己2試0勝0敗0S1H2回1球3振 率0.00
髙橋宏斗2試0勝0敗0S0H2回0球3振 率4.50
高橋奎二1試0勝0敗0S0H2回0球2振 率0.00
伊藤大海2試0勝0敗0S1H1.1回0球2振 率0.00
宇田川優希2試0勝0敗0S1H1.1回0球3振 率0.00
松井裕樹1試0勝0敗0S0H1回0球1振 率0.00
全投手がそれなりの仕事をしているが、宮城、今永という左投手がポイントになってくるのではないか。MLB同様ワンポイントリリーフが禁じられているために起用はやや窮屈になるが、イニングの途中でうまく継投していくべきだろう。追加招集された山﨑颯一郎を起用するとすれば、この試合だろう。イニングの途中でホールドを挙げるようなシチュエーションか。
〈打線〉
1(中)L.ヌートバー5試19打7安0本3点2盗5球5振 率.368
2(右)近藤健介5試18打7安1本5点0盗7球7振 率.389
3(指)大谷翔平5試16打7安1本8点1盗8球4振 率.438
4(左)吉田正尚5試15打6安1本10点0盗6球0振 率.400
5(三)村上宗隆5試17打4安0本3点0盗6球8振 率.235
6(一)岡本和真5試12打4安1本6点0盗7球2振 率.333
7(二)牧秀悟5試14打3安2本2点0盗1球2振 率.214
8(遊)源田壮亮3試7打2安0本2点2盗3球1振 率.286
9(捕)甲斐拓也3試10打1安0本2点0盗3球4振 率.100
こちらも直近のイタリア戦の打順だ。ヌートバー、近藤、大谷と打線を引っ張ってきた上位3人がイタリア戦では合わせて2安打。やや疲れが見えた印象があったが、この試合から5番に下がった村上が2安打、岡本も本塁打を含む2安打と復調。源田も復帰して打線的には良いムードになっている。10打点の吉田正尚は現時点で打点王だ。
メキシコは左投手サンドバルの先発が予想される。日本は1番から5番まで左打者だが、打線を組みかえる必要はないのではないか。
メキシコに比べてレギュラーと控えの力量差は小さい
〈控え選手〉
(内)中野拓夢4試10打3安0本0点2盗4球1振 率.300
(内)山田哲人4試10打2安0本2点1盗2球4振 率.200
(捕)中村悠平3試5打3安0本1点0盗2球1振 率.600
(内)山川穂高2試5打1安0本1点0盗0球1振 率.200
(捕)大城卓三2試2打0安0本0点0盗0球1振 率.000
(内)牧原大成2試2打1安0本1点0盗0球1振 率.500
(外)周東佑京4試1打0安0本0点0盗0球1振 率.000
メキシコと異なり、レギュラーと控えの力量差は小さい。特に山田、山川という強打の右打者は左のリリーフが出たときに出番があるのではないか。
これまでの対戦相手とは違う相手だということは、繰り返し強調しておきたい。メジャーの球場で普段から試合をしている選手たちばかりで、NPB選手がMLBの野球に真正面からぶつかる機会だともいえる。
環境に違和感を覚えるのは日本選手の方になるだろう。あと2試合、総力戦は間違いないが、僅差でいいから「相手を上回る」ことを期待したい。
文=広尾晃
photograph by Naoya Sanuki,AFP/JIJI PRESS