ブライトンの三笘薫が、またしてもゴールを決めた。
3月19日に行われたFA杯準々決勝のグリムズビー戦(英4部)。この試合で4−2−3−1の左MFで先発した日本代表MFはチームの5点目を奪い、5−0の圧勝に貢献した。
試合は、ブライトンが立ち上がりから主導権を握って攻勢。三笘は少なくとも3度あった決定的なチャンスをモノにできなかったが、終了間際の後半45分にネットを揺らした。シュートは相手の足に当たってコースが変わるというラッキーな形から決まったが、それでも得点をきっちりマークするあたりが、勢いに乗っている証と言えよう。本人は「3点ぐらい決められましたけど(決められなかった)。それが自分の実力という感じです」と謙遜しつつ、「ゴールを決めてすっきりしました。入っていなかったらちょっと終わりが悪かったので。安心したって感じですね」と安堵の表情を浮かべた。
この結果、三笘は公式戦5試合連続でゴールかアシストの結果を記録したことになる。
三笘は「チームの形として、自分がいい形でボールを受けられている。チャンスも作れているので、自分が結果を残さないといけない」とし、チームとしてウインガーの三笘がチャンスに絡む形になっていると説明。そのうえで「ゴールに絡むことにこだわっていきたい。毎試合、目指しています」と続け、今後も貪欲に結果を追い求めたいと力強く語った。
「日本代表を見に来る人は増えていると思う」
試合後プレミアリーグは国際マッチウィークで中断期間に入り、三笘も日本代表の強化試合のため英国を離れた。予定されているのは、森保第2次政権の初陣となるウルグアイ戦(3月24日)とコロンビア戦(同28日)。カタールW杯後、初の代表戦となるこの2試合で、日本代表は新しいサイクルをスタートする。
W杯後、世界最高峰のプレミアリーグで存在価値を一気に高めた三笘も、久しぶりの代表戦に気を引き締めている。
「日本に行かないと分からないですけど、見に来てくれる人は増えていると思います。プレミアでやっているので『どれぐらいできるのか?』という見られ方もすると思う。結果を求められているので、それ相応のプレーをしないといけない。でも、そうは言っても簡単な相手ではないですし、ビッグクラブでプレーしている選手もたくさんいる。そこを楽しみながら、自分がどれだけできるかも楽しみたいです」
日本代表では次のW杯に向け、森保監督が「ボールを保持し試合を支配すること」にもトライする考えを示している。指揮官が「ボール保持」を強化ポイントに挙げていることについて、三笘はどのように感じているのか。
「W杯で、できていなかったところだと思うので、そこは純粋にやりたい。そこができないと強豪になっていけない。シンプルにボール保持を重視すればいいと思いますが、サッカーはそれだけではないとも思う。全体的に考えていかないといけない。自分も少しずつ参加して、良い形で関われたらと思います」
カタールW杯では「良い守備から、良い攻撃へ」を合言葉に、守備戦術を用いてドイツ、スペインの強豪国を撃破した。だが、決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦の末に敗戦──。監督や選手たちは、攻撃力を上げないことには目標のベスト8には届かないと感じたのだろう。いかに攻撃力を上げていくかが、第2次政権のポイントになりそうだ。
ただ、「ボールを保持して試合を支配する」と言っても、ピッチ上で表現しながら勝利に結びつけるのは容易なことではない。ボール保持に意識が偏りすぎれば、前がかりになって守備がおろそかになる。あるいは、ボールを握ったとしてもファイナルサードで決め手やアイデアを欠いてしまえば、今度は効率的にゴールを奪うことから遠ざかってしまうからだ。
「ブライトンでの経験、代表メンバーに伝えられることは?」
三笘の所属するブライトンは、ロベルト・デゼルビ監督の元で優れたパスサッカーを展開し、強豪揃いのプレミアリーグで旋風を巻き起こしている。「選手の配置」を動かしながらパスをつなぐサッカーは、その美しさからイングランドで「デゼルビ・ボール」と呼ばれている。
トレーニングから「パスワーク」や「選手の動き方」といった“型”を作っていくのが特徴で、繰り返しの練習でパターン化することで、選手たちは崩しのイメージを共有しているのだ。その結果、ブライトンは多彩な攻撃を奏でている。
DFラインからのビルドアップに関しても「形が決まっている」(三笘)という。「これだけうまく後ろでビルドアップできるチームは、世界的に見てもなかなかない」と、三笘は証言する。
ファイナルサードに入ってからの決まりごとも多く、例えば、右サイドの選手がクロスを上げようとすれば、逆サイドに陣取る三笘は、自分の元へクロスが飛んでくることが事前に分かっているという。こうしたパターンや決まりごとを練習で積み重ねていくことで、ブライトンは決定機を効率的に作り出しているのだ。
そこで聞いてみた。「日本代表はボール保持の質を上げていくとのことだが、ブライトンのスタイルと繋がるところもあると思う。三笘選手が代表メンバーに伝えていけることも多いのでは?」と。三笘は次のように答えた。
「大いにあると思います。そこは僕の使命だと思います。選手の配置のところだったり、共有する部分は、選手たちに伝えることができるので。できることはあると思う。もちろんコーチも変わりましたし、どういう風にやっていくかというところを、ミーティングなどで踏まえながらやっていきたい。そうは言っても、自分もアピールが必要な立場。バランスを考えながらやっていきたいです」
監督やコーチの指示を仰ぎながら、要所要所で自分がブライトンで得た経験や知識を還元していきたい――。三笘はそう考えているのだ。
ブライトンのデゼルビ監督は、イングランドで「いずれビッグクラブを率いるようになる」と高く評価されている知将である。43歳のイタリア人指揮官から吸収したエッセンスは、その一部であっても日本代表の大きな力になるはずだ。
1日に“2度も”ユニフォーム交換を求められた
そんな三笘について、イングランド内での人気が高まっていると、改めて感じる瞬間があった。
グリムズビー戦が終わると、マッチアップした相手ウイングバックからの要求で、三笘はユニフォームを交換した。そこまではよくある光景だが、これだけでは終わらなかった。試合終了からほどなくして行われた囲み取材後、今度は別の選手が三笘にそっと歩み寄り、ユニフォームを求めたのである。日本代表MFは自分のバッグから別のユニフォームを差し出してプレゼント。4部リーグの選手からすれば、三笘はスーパースターなのだろう。
ただ三笘本人は浮ついたところがなく、自分のペースをまったくと言っていいほど崩していない。
「大谷翔平選手の次ですよ」「マジっすか?」
例えば、質疑応答の終盤、読売新聞が掲載した「好きなスポーツ選手、上位ランキング」に話が及んだときだ。記者から「野球の大谷翔平選手が1位で、三笘選手が2位だった。それだけ今回の代表戦は、今までと違う感じで注目を集めると思うが」と話を振られると、三笘はランキング結果をまったく知らなかったようで「マジっすか!? ちょっと重いですね(笑)」と笑みを浮かべて驚いた様子だった。そして、すぐに真剣な表情に戻って言葉を続けた。
「注目してもらっているのは嬉しいですけど、それだけのプレーをしないといけないと思うので。期待されている中で、自分がどれだけできるのかも楽しみです。期待を裏切らないようにしたいなと思います」
2位に入ったことに「マジっすか」と驚き、正直に「ちょっと重いですね」と返すあたりが、飾らない三笘の人柄がよく表れていると思う。自分が日本でどれだけ注目を集めているのか、あまり知らなかったようで、それよりも自身のプレーとコンディション作りに集中しているようだった。
W杯の激戦が終わったのは、今から約3カ月半前。三笘はここからプレミアリーグでブレイクし、イングランドでも大きな注目を集める選手へ急成長した。実際、19日付の英紙サンによると、マンチェスター・ユナイテッドが三笘に関心を示しているという。
久しぶりの日本代表戦で、三笘はどんなプレーを見せてくれるのか。大きな注目が集まるなか、25歳のアタッカーはプレミアリーグで成長した姿を見せようと気持ちを高めている。
文=田嶋コウスケ
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