7戦全勝で3大会ぶり3度目となるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝を勝ち取った侍ジャパン。

 日本の“最大の武器”である強力投手陣が安定感を発揮し、野手陣は効果的な一発が度々飛び出すなど、長打力でも進歩を見せた。大会のMVPに輝いた大谷翔平(28歳/エンゼルス)の投打にわたる存在感が大きかったことは確かだが、トータルで見ても史上最強の前評判にふさわしいチームだったことは間違いないだろう。

 しかし歴史を振り返れば、2009年の第2回WBCの後にしばらく国際大会優勝から遠ざかった時期があったことからもわかるように、世界を相手に常に勝ち続けるチームを作ることは決して容易なことではない。2026年に開催される次回大会で「WBC連覇」という偉業を成し遂げるためには、さらなる戦力の上積み、そして若手の突き上げが欠かせないだろう。

 そこで今稿では、「2026年WBCで主力として期待できそうな若手」をプロアマ問わず探ってみたいと思う。

 今大会のメンバーでは、大勢(23歳/巨人)、伊藤大海(25歳/日本ハム)、宇田川優希(24歳/オリックス)、栗林良吏(26歳/広島 ※1次ラウンド後に離脱)、牧秀悟(24歳/DeNA)、中野拓夢(26歳/阪神)といった3年前の時点はまだアマチュア選手だった選手も多く名を連ねていた。3年という時間で顔ぶれは大きく変わることも予想され、現時点では“無名の存在”が名乗り出る可能性は高い。

 今稿のピックアップ対象は今シーズンの満年齢が25歳以下の選手とした。下記に記したオープン戦および二軍戦の成績は3月22日時点のもの。

由伸、朗希らに続く未来のエース候補

 まず投手から。チームの精神的支柱だったダルビッシュ有(パドレス)は次回大会への意欲も口にしたが、現在36歳という年齢のことを考えると頼ってばかりいられないのが現実で、MVPの大谷もさらなる大型契約を結ぶ可能性が高いことから今大会のような起用が難しい場合を想定しなければならない。さらに日本球界のエースとも言える山本由伸(24歳/オリックス)もここ数年以内のメジャー移籍が濃厚と見られており、次回の大会に出場できるかは極めて不透明と仮定した。

 となれば、今大会で経験を積んだ佐々木朗希(21歳/ロッテ)、高橋宏斗(20歳/中日)らに次ぐ若手の台頭が望まれるところ。その筆頭候補として挙げたいのが、高橋宏と同学年である山下舜平大(20歳/オリックス)だ。

 山下はこれまでの2年間で一軍登板経験はないが、今シーズンはキャンプから順調な調整を続け、オープン戦でも3試合、9回1/3を投げて防御率1.93、奪三振率15.43という見事な数字を残している。

 福岡大大濠高時代からストレートを磨くためにカーブ以外の変化球を封印していたという逸話の持ち主で、プロでも順調にスケールアップを果たし、自己最速は158キロ。190cm、98kgという体格やフォームの雰囲気は大谷と重なるものがある。今季早々に一軍デビューの予定だが、3年後には球界を代表する投手へと成長していることを願いたい逸材だ。

 山下と同じ右投手では今シーズンから先発に転向する平良海馬(23歳/西武 ※東京五輪代表)、故障からの復活を期す奥川恭伸(21歳/ヤクルト)、侍ジャパンとの強化試合で好投した西純矢(21歳/阪神)など楽しみな若手が多い。だが、一方で課題となりそうなのが左投手だ。

ライオンズ期待の左のエース候補

 年齢面だけを考慮すると、今大会に出場したサウスポーで次回大会の戦力になりそうなのは高橋奎二(25歳/ヤクルト)と宮城大弥(21歳/オリックス)の2人。昨シーズンのセ・パ両リーグの投手成績において、満年齢が25歳以下の若手でチームの中心となっている左腕は宮城しか見当たらないだけに、次回大会までの“発掘”は連覇へのカギを握っている。

 そんな中で期待したいのが、今季プロ2年目を迎える羽田慎之介(19歳/西武)だ。

 八王子高時代は“和製ランディ・ジョンソン”の異名をとった191cm大型左腕で、高3夏は肘を痛めて登板せずに終えたが、それでも西武がドラフト4位で指名するところに素材の良さがうかがえる。昨季は二軍で5試合の登板に終わっているものの、着実に力をつけ、キャンプ前の自主トレからそのボールの勢いは話題に。今季の二軍初登板となった3月22日のロッテ戦では2回を無失点、2奪三振と好投を見せている。

 本格的に一軍の戦力となるのは来季からになりそうだが、チーム待望の左のエース候補として期待は高い。

 同じ左腕という観点では、アマチュア界から細野晴希(東洋大4年)と金丸夢斗(関西大3年)の2人を挙げた。

 細野は最速155キロを誇り、豊作と言われる今秋のドラフトでも左腕の目玉と見られている投手だ。制球には少し課題が残るものの、ストレートも変化球もボールの質は一級品で、東都大学リーグで2桁奪三振を記録することも珍しくない。この春に万全の投球を見せれば、一番人気になる可能性も高いだろう。

 金丸も3年生ながら既に関西の大学球界ではナンバーワン左腕の呼び声が高い。ストレートの勢いは細野には劣るものの、それでもコンスタントに140キロ台後半をマークし、抜群の制球力も魅力。3月18日に行われたオリックスとのプロ・アマ交流戦でも先発で6回を投げて2失点とその実力を見せている。24年秋のドラフトでは目玉の1人となりそうだ。

野手のウィークポイントは3つ

 投手が左腕なら、野手のウィークポイントはどこか。今大会の侍ジャパンの構成を見ると、底上げが必要となるのがキャッチャー・ショート・外野の3つだろう。

 まず捕手で期待したいのは坂倉将吾(24歳/広島)、松川虎生(19歳/ロッテ)の2人だ。坂倉は打撃技術に関しては既にセ・リーグでもトップクラスであることは間違いなく、あとは守備面のレベルアップが課題。今季は志願して捕手に専念すると言われているだけに、正捕手として盤石な地位を築くことが当面の目標になる。逆に松川は、プロ1年目から開幕マスクを被るなど、捕球技術に関しては天下一品。ここから打撃をどこまで伸ばせるかがカギとなる。

 攻撃型の坂倉、守備型の松川が揃って侍ジャパン入りすることができればかなり強力な捕手陣だ。3年後、それぞれの課題を克服した姿を期待したい。

ショート後継者の最右翼は長岡

 ショートも源田壮亮(30歳/西武)の後継者探しは急務だ。若手の最右翼と言えば長岡秀樹(21歳/ヤクルト)か。昨季は高卒3年目ながらレギュラーに定着。リーグ連覇に貢献し、ゴールデングラブ賞も受賞した。セイバーメトリクスの指標では源田に迫る数字もマークしており、次代を担う名手となりそうだ。

 ショートでもう1人挙げたいのが大学生の宗山塁(明治大3年)だ。大学球界でトップクラスの逸材が揃う明治大で1年からレギュラーを張り、これまでの4シーズンで3度のベストナインを受賞。柔らかいハンドリング、軽快なフットワーク、正確な送球は全てが高レベル。さらに打撃も2年秋終了時点で61安打、8本塁打、打率.367と圧倒的な成績を残している。東京六大学のショートでは「早稲田の鳥谷」以来の大物とも評され、24年秋ドラフトでは即戦力として獲得に名乗りを挙げる球団も多いはずだ。プロ入り後も順調に経験を積めれば、26年の侍ジャパン入りは十分考えられる。

 打撃での貢献が光った外野手だが、両翼の守備には不安が残る構成だった。筆頭候補は昨季高卒3年目のシーズンでセ・リーグ最多安打のタイトルを獲得し、ゴールデングラブ賞にも輝いた岡林勇希(21歳/中日)が最有力だろう。加えてドラフト1位ルーキーの矢沢宏太(22歳/日本ハム)の存在も忘れてはならない。

 矢沢は“二刀流”で注目を集めているが、外野手としての守備範囲の広さと強肩はすでに一軍でもトップクラスと言える。打撃も上背こそないがパンチ力は申し分なく、オープン戦で見せた一発でそれは証明済みだ。投手としてもここまで3試合連続無失点と好投しており、貴重な左の中継ぎとして期待される。大谷とは違った形での二刀流で世界の舞台を席巻してもらいたいところだ。

 今大会の活躍でWBCという大会の魅力を教えてくれた侍ジャパン。この3年間で頭角を現す選手はどの球団から飛び出すか。そんな期待を抱いて、ペナントレースを楽しんでほしい。

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【西尾氏が期待する有望若手選手まとめ】

《投手・右》
山下舜平大(オリックス・20歳)
平良海馬(西武・23歳)
奥川恭伸(ヤクルト・21歳)
西純矢(阪神・21歳)

《投手・左》
羽田慎之介(西武・19歳)
細野晴希(東洋大 新4年・21歳)
金丸夢斗(関西大 新3年・20歳)

《捕手》
坂倉将吾(広島・24歳)
松川虎生(ロッテ・19歳)

《内野手》
長岡秀樹(ヤクルト・21歳)
宗山塁(明治大 新3年・20歳)

《外野手》
岡林勇希(中日・21歳)
矢沢宏太(日本ハム・22歳)

文=西尾典文

photograph by Naoya Sanuki