2022-23の期間内(対象:2022年12月〜2023年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。WBC(海外評)部門の第5位は、こちら!(初公開日 2023年3月13日/肩書などはすべて当時)。

 WBCで14年ぶりに実現した日韓戦は、13−4という侍ジャパンのワンサイドゲームに終わった。すでに日本でも広く報じられている通り、韓国国内では為す術なく敗れた代表に対し、多くのメディアが痛烈な批判を浴びせた。

「またしても再現された“東京惨事”、韓国野球は崩壊した」(スポーツ専門メディア『MKスポーツ』)

「コールドゲームを辛うじて免れた恥辱のWBC韓日戦」(テレビ局『KBS』)

「雪辱叫んだが……結果は苦々しい韓日戦大惨事」(通信社『NEWSIS』)

「実力差は明らかだった……WBC韓国代表、宿敵・日本戦4−13大敗」(地方紙『釜山日報』)

 WBC取材のため来日中のスポーツ紙『スポーツソウル』のファン・ヘジョン記者も、大敗した自国の現実を重く受け止めているようだった。

「弁解の余地のない完敗です。ベンチの試合運営の未熟さ、投手陣の乱調……宿命のライバルと呼ばれた日本に喫したあわやコールドゲームの完敗は、両国の野球のレベル差を如実に示していました」

 ファン記者は試合直後、「失望感だけを抱かせた韓国野球」と題した記事を寄稿。そこでは、惨敗劇で露わになった韓国野球の現在地を冷静に書き記していた。

「屈辱と表現するのも恥ずかしい競技力であり、この試合で世界における韓国野球の現実が明らかになった。“溜まった水は腐る”とはよく言うが、韓国野球は依然として井戸の中にとどまっている」

直近6年6試合で韓国全敗の原因

 WBCの日韓戦と言えば、第1回、第2回の2大会で計8戦4勝4敗と、常に死闘を繰り広げた間柄だった。

 だが、近年は2017年アジアプロ野球チャンピオンシップを皮切りに、2019年WBSCプレミア12、2021年東京五輪と韓国の負け続き。気付けば今回のWBC含め直近6年間、計6試合の日韓戦で“韓国全敗”という結果だけが残った。

 そして今回の日韓戦最大の敗因となった“投手崩壊”。先発の34歳左腕キム・グァンヒョン(SSGランダース)は韓国が3点を先制した3回裏に4失点したとはいえ、2回までは日本の上位打線相手に5つの三振を奪う力投を見せた。しかし、2番手以降のリリーフ陣がことごとく制球を乱し、登板しては失点を積み重ねる悪循環にハマった。マウンドには10人もの投手が上がったが、日本の出塁をゼロに抑えたのは最後に登板したパク・セウン(ロッテ・ジャイアンツ)だけだった。

「キム・グァンヒョンがトップの座を守る15年間、その後を継げるほどの力量を見せた投手は誰もいなかった」と厳しく非難したのはスポーツ&芸能メディア『OSEN』のチョ・ヒョンレ記者。国内KBOリーグで“有望株”と期待されながら、WBCの舞台で明らかになった若手の“実力不足”を同記者は嘆いた。

「世代交代の旗手とされた有望株たちは世界の舞台で気後れし、本来の力を発揮できなかった。期待は大きかったにもかかわらず、いざふたを開けてみると、彼らの競争力はKBOリーグ内に限られていた。“韓日戦のプレッシャーを乗り越えられなかった”という問題ではなく、それが実力だったのだ。日本の若手の技量や成長スピードと比べて、KBOリーグの“有望株”と呼ばれた投手たちがどれだけ残念だったことか……」

大谷同様に韓国を驚かせた3選手

 では、自国代表を圧倒した侍ジャパンの選手たちを韓国メディアはどう評価したのだろうか。『スポーツソウル』野球担当のキム・ドンヨン記者が答えてくれた。

「大谷翔平(エンゼルス)の話を欠かすことはできません。彼は想像通り素晴らしく、驚異的な選手だった。韓国戦でも3打数2安打1打点と当たり前のように活躍しましたよね。大谷について私から言うことはありませんよ」

「大谷は文句なし」という口ぶりで切り出したキム記者は、「ただ、大谷以外にも印象に残った日本の選手はいます」とし、3人の選手の名前を明かした。真っ先に挙がったのは、ダルビッシュ有(パドレス)の後に第2先発を務めた今永昇太(DeNA)だ。

「韓国打線は日本の先発ダルビッシュを上手く攻略し、先制点を得ることができましたが、今永にその流れを阻まれた。彼の好投で韓国の勢いが止められたと感じました」

 今永のことは日韓戦が行われる前から高く評価していて、「DeNAの左腕エースとして素晴らしい活躍を披露し、昨年にノーヒットノーランを達成したことも知っていた」というキム記者。

 それでも、「最速154kmの速球はもちろん、コントロールも良かったですよね。想像以上のピッチングで、正直、ダルビッシュよりも今永の方がもっと怖かった」と、韓国打線を沈黙させた好投に舌を巻いたようだ。

 2人目は、3打数3安打5打点の猛打で日韓戦勝利の立役者となった吉田正尚(レッドソックス)。「なぜレッドソックスが5年9000万ドルという“大型投資”をしたのか、その理由がハッキリとわかりました」とうなずきながら、“象徴的な場面”として3回裏の逆転2点タイムリーを挙げた。

「あの場面は直前にキム・グァンヒョンが打ち込まれ、3点差が1点差に縮まり、韓国ナインの間で“絶対にやられてはいけない”という緊張感がピークに達していました。ただ、そこで2番手ウォン・テイン(サムスン・ライオンズ)の勝負球チェンジアップが打ち返されてしまった。吉田からはどこに球を投げても打ってしまいそうなオーラを感じました」

 大谷や村上宗隆(ヤクルト)、岡本和真(巨人)と大柄な選手が並ぶクリーンナップのなかで、身長173cmと比較的小柄な吉田がキム記者にはひときわ目立って見えたようだ。

「決して大きな体格ではないはずなのに、誰よりも強大な存在感というか。今永がダルビッシュより怖かったなら、個人的に吉田は大谷よりも怖かったですよ」

 そして、最後に挙げられたのがラーズ・ヌートバー(カージナルス)だ。今やお馴染みとなった彼のペッパーグラインダー・パフォーマンスも韓国では「フチュ(“コショウ”の韓国語)グラインダー・セレモニー」と呼ばれているが、キム記者は「あらゆる面で優れていた」と評価を惜しまない。

「彼の選出について日本国内で一部、懐疑的な見方があったと聞いていますが、結果で証明しましたね。3回のタイムリーは日本を盛り上げ、韓国の投手陣を揺るがす一打になったし、5回で見せたダイビングキャッチには自分も思わず声を出してしまいました」

 実はキム記者、2月中旬にカージナルスのフロリダキャンプを現地取材した際、ヌートバーに「韓国からわざわざ来たのに申し訳ないが、日本が韓国に勝つよ」と目の前で伝えられた韓国報道陣のうちの一人。

 当時を回想して「あの言葉が現実のものになってしまいましたね」と苦笑いしつつも、「今回の日韓戦で一つひとつのプレーを見てみて、やはりメジャーリーガーは別格だなと実感しました」と、ヌートバーの活躍ぶりを称えていた。

敗戦が韓国球界に突きつけた現実

 日韓戦の大敗直後、選手たちがお互いに言い合ったのは「自分のせいで負けた」という謝罪の言葉だった。特に2008年の北京五輪金メダル、2009年の第2回WBC準優勝と韓国野球の全盛期を知るキャプテンの35歳キム・ヒョンス(LGツインズ)は、チームメイトに「申し訳ない、すまない」と謝り続けたという。

 だが、ショッキングな敗戦からも立ち上がらなければならない。解説として東京ドーム現地で試合を見守った元中日のイ・ジョンボム氏は、「我々にさまざまな課題をもたらした日韓戦だった。この経験が、今後の韓国野球に大きな滋養分となることを願う」と球界復権に思いを込めた。同じく解説を務めた元オリックス、ソフトバンクのイ・デホ氏もまた、「若い選手たちにとって成長のきっかけとなるはずだ」と後輩にエールを届けた。

 日本で残酷な現実を突きつけられた韓国野球。もはやこれ以上落ちるところはないだけに、この先はどん底から這い上がるしかない。

文=姜亨起

photograph by Naoya Sanuki