3月に開幕したロードレース世界選手権は、5月中旬のフランスGPで序盤の5戦を終えた。今年は通常の半分の距離とポイントで競われる「スプリント」が加わり、1戦2レース制となった。2レースとも勝った場合は、「スプリント」の12点と通常レースの25点を加え「37点」を獲得することになる。

 ポルトガル、アルゼンチン、アメリカ、スペイン、フランスの5戦を終え、総合首位はディフェンディングチャンピオンのフランチェスコ・バニャイアで94点を獲得。MotoGP2年目のマルコ・ベゼッキが93点で総合2位。以下、3位にブラッド・ビンダー(81点)、4位にホルヘ・マルティン(80点)、5位にヨハン・ザルコ(66点)、6位にルカ・マリーニ(54点)と、KTMのビンダーを除けばシーズン開幕前の予想通りドゥカティ勢が上位を占めている。

 加速が良くて、最高速も速い。加えて、ハンドリングも良いとなれば、誰が乗っても速いに決まっている。まさにドゥカティ全盛時代到来を感じさせるシーズンになっている。

 シーズンはこのまま進行していくことが予想され、バニャイアにとってのライバルは他陣営ではなく、同じマシンに乗るドゥカティ勢になりそうだ。

KTMの躍進と振るわないアプリリア

 一方、ウインターテストで低迷したKTM勢が大きく躍進した。ビンダーがドゥカティ勢の二人に肉薄し、ドゥカティから移籍したジャック・ミラーも随所で速さを見せて8位(49点)につけている。ウインターテストの時点でこんなリザルトは予想が出来なかった。好調の要因はマシンとタイヤのマッチングが良くなったこと。特にフロントの安定性が向上し、安定した走りでシングルフィニッシュを続けてきた。ドゥカティ陣営からエンジニアをヘッドハンティングし、マシン開発が進んだことも好結果につながっているようだ。

 ウインターテストで好調だったアプリリア勢は、6位以下の大混戦の中でマーベリック・ビニャーレスが49点を獲得して7位、アレイシ・エスパルガロが42点で11位。今年はドゥカティ勢に肉薄することが予想されたが、5戦を終えた段階ではKTMほど目立つ結果は残せていない。

 実際、5戦を終えた時点でのコンストラクターズポイントでは、ドゥカティが174点でKTMが103点と続く。アプリリアは80点で3番手と、予想外の結果に終わっている。その理由は、今年は不安定な天候のレースが多く、コンディションの変化に素早く対応できていないから。つまり、依然として車体のセッティングがピンポイントだということだ。速いときはドゥカティでも手がつけられないが、いまいち安定感に欠けている。これからシーズンが進むにつれ、どこまで仕上げてくるかが注目される。

 対して、2年ぶりのタイトル奪還が期待されたヤマハのファビオ・クアルタラロは、開幕戦からフランスGPまで5戦連続トップ10フィニッシュを果たし、第3戦アメリカズGPでは3位になっているが、昨年後半からの苦戦は続いている。そのイチバンの理由は、予選グリッドが悪く、決勝では先行するドゥカティ、アプリリア、KTM勢を抜けずに苦戦するからだ。特に通常レースの半分の距離で行われる「スプリント」ではまったく歯が立たず、5戦で獲得したポイントはわずか「1点」。対して総合首位のバニャイアは、「スプリント」で「44点」を獲得しており、その差は大きい。

ヤマハとホンダ、それぞれの不振の理由

 今年、ヤマハのエンジンは速くなったが、その分、これまで良かったハンドリングとのバランスが崩れているのかも知れない。それ以上に深刻なのが、新品タイヤでタイムを出せないこと。これが予選グリッドの悪さに大きく影響しており、レースタイヤでの連続ラップでは優勝戦線に加われる速さがあるだけに、その対策が急がれている。

 そして、ウインターテストの低迷を開幕後もひきずっているのがホンダ陣営だ。開幕戦ポルトガルGPでは今季体調万全の状態でシーズンを迎えたマルク・マルケスがPPを獲得し、世界中のレースファンの度肝を抜いた。車体の問題でエンジンのパフォーマンスを活かせず、加速も最高速も劣るホンダのマシンで、速いタイムを出しているライダーたちのスリップを使いまくりベストタイムをマークしたからだ。

 ライバルたちからはマルケスの“ひっつき走法”を非難する声も多いが、そんなことおかまいなしの強心臓でPPを獲得。「スプリント」では3位になり、「マルケス完全復活近し」と言われたが、翌日の決勝レースでは序盤の混戦の中でブレーキングミスしてミゲール・オリベイラに追突。この事故でマルケスは右手親指を骨折し、第4戦スペインGPまで欠場することになった。

 その間ホンダ勢では、第3戦アメリカズGPでサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)を得意とするアレックス・リンスが優勝したが、それ以外はリンスも含め低迷。そんな状況の中、フランスGPで怪我から復帰したマルケスがまたしてもPP争いの2番手と周囲を驚かせた。決勝は転倒リタイアだったが、ドゥカティ軍団相手に表彰台争いに加わる“マルケスらしい熱い走り”で存在感をアピールした。

外注フレームのポテンシャルは?

 フランスGPでマルケスが乗ったのは、Moto2クラスで圧倒的な強さを誇るカレックス製のフレームだった。ホンダが外注したフレームを実戦に投入したことで注目を集めたが、同じ車体で走ったチームメイトのジョアン・ミルは転倒リタイアし、従来のフレームで走ったリンスも転倒。中上貴晶は完走13台という大荒れのレースで9位がやっと。マルケス以外は相変わらずの苦戦が続いた。

 リアのトラクション不足がホンダ低迷のイチバンの理由で、気温と路面温度が上がるとリアのスピニングに手を焼く。「問題点ははっきりしているが、決定的な解決策がない」という点はヤマハ同様だ。ホンダとヤマハがコンストラクターズポイントで最下位争いをし、チームポイントでは、ワークスチームたるレプソル・ホンダが11チーム中11位というのが、いまの日本メーカーの現状である。

 シーズンは残り15戦。ドゥカティの独壇場が続くとしても、ホンダとヤマハにはその差を何としても縮めてもらいたい。それが出来なければ、日本製のバイクに乗りたいというライダーたちがいなくなることは間違いないし、数年前まで常勝を誇った日本のバイクメーカーが、「勝てるライダー」獲得に手こずる時代が来る、なんてことにもなりかねない。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo