5月、筆者は「エスコンフィールドHOKKAIDO」で4試合を観戦した。取材申請をしたが、チケットも購入して観客目線で新しい球場を味わってみることにした。開幕から2カ月足らず。新球場の評判はプラスマイナスいろいろあるが、写真を撮りながら一つ一つ確認して見ていった。

休日デーゲーム時は拍子抜けするほどスムースだったが

 まず、アクセスの問題である。

 初日は、12時に新千歳空港に到着して快速「エアポート」で北広島駅に。駅の前からシャトルバスに乗って13時の試合開始10分前に入場できた。この日は日曜日で2万8006人の入りだったが、拍子抜けするほどスムースなアクセスだった。

 翌日は、北広島駅から徒歩で向かった。駅には「徒歩約19分。着いたら最初に何しようって考えているうちに着いちゃう距離だな」とある。筆者は2018年、2022年にも北広島駅から現地に徒歩で行ったが、この時はメッセージ通りで、特に遠いとは感じなかった。

 しかし今回行ってみると「現地」だと思った地点が、Fビレッジという大きな施設の端っこで、その中心にある球場に入場するまでにはなお5分以上歩くことが分かった。距離にして2km、25分近くはかかると覚悟すべきだ。

 JR線路沿いのサイクリングロードを歩き、途中で線路をくぐって球場エリアに入る。緑も豊かで、新緑の季節は実に爽やか。真新しい跨道橋は「BIGBOSS bridge」と命名されている。この橋を渡ると巨大な建物が見えてくる。

 その足元には、池が広がり、ロッジ風の建物が並んでいる。プライベートヴィラ「VILLA BRAMARE」だ。周辺には子供用のミニ野球場や、ドッグランなどもある。行列ができているのは「トリュフベーカリー」というパン屋だ。このエリアは試合がない時も営業している。球場に入らなくても十分楽しめる施設が並んでいるのだ。

「歩く」という習慣があまりないだけに

 また周辺には4000台の駐車場が広がっている。

 バンテリンドーム(中日)、ZOZOマリンスタジアム(ロッテ)、PayPayドーム(ソフトバンク)、楽天モバイルパーク(楽天)、京セラドーム(オリックス)など一般観客が利用できる駐車場を持つNPB本拠地球場はあるが、最大で1500台程度。予約はすぐに埋まるので、なかなか利用できない。また甲子園(阪神)や神宮球場(ヤクルト)のように公式駐車場がない本拠地球場もある。

 そんな中でエスコンフィールドHOKKAIDOは、かつてない規模の駐車場だ。車での来場も有力な選択肢になるだろう。ただしビール、アルコール類の販売を考えると痛しかゆしではある。

 実は北広島駅にはレンタサイクルもあるのだが、営業時間は9時〜17時でありナイターには利用できない。

 ただナイターが終わってからの夜、2kmの道を歩いて帰るのはややつらいかもしれない。5月の北海道は、ダウンジャケットが大げさではないほど冷え込む。北広島では「熊出現」の情報はないようだが、できるだけ集団で歩きたいものだ。

 新駅の建設など、アクセスの整備は今後進むだろう。

 もともと北海道は車社会で、東京や大阪のように公共交通機関と徒歩で目的地まで移動する習慣があまりないことも「遠い」という評判につながっていると思う。「慣れ」という要素も必要か。

外光が差し込み、日が落ちると分かる緑の美しさ

 アクセスの紹介が長くなったが、球場内に入ろう。

「Coca-Cola GATE」、「3rd BASE GATE」などの入り口があるが、これまでの球場とは異なり劇場の入り口のようで非常に華やかだ。期待感を抱かせる。チェックインもスムースだった。

 吹き抜けのエントランスを通って球場に入る。

 この球場は客席が他の球場よりやや暗い。その分、グラウンドが浮き上がって見える。札幌ドームもそうだったが、劇場空間として良い演出だと思う。

 球場としての最大の特色は、センターバックスクリーンの背後に大きな開口部があって、日中なら外光が球場内に差し込むことだ。

 他の日本のドーム球場は、サラダボウルを伏せたような形状をしていて、あとから屋根を付けたベルーナドーム(西武)を除いて外光はほとんど差し込まない。やや閉塞感があるのだが、エスコンフィールド北海道は開放感がある。

 韓国唯一のドーム球場である高尺スカイドーム(ソウル)や、WBC決勝戦の地となったアメリカ、ローンデポ・パーク(マイアミ)なども同じスタイルである。

 日が落ちて外が暗くなると、今度は外野の芝生が鮮やかに浮かび上がってくる。緑の美しさ! 天然芝だというから驚きだ。試合前に係員が外野の芝生の手入れをしていたが、メンテナンスは大変だろうと思う。

 大屋根はソフトバンクのPayPayドームと同様、開くことができる。これも一度は見てみたい。

 巨大LEDビジョンが球場の左右に設置されている。このスタイルは札幌ドームを踏襲している。両画面共に同じ情報を表示しているが、両画面で異なる情報でもよいのではないかと思う。

 2階、3階席へはエスカレーターで上がる。3階席は急こう配で、球場を見下ろす形となる。両チームの応援団席はこのフロアに設けられている。

ファウルよけのネットが、とてもいい感じなワケ

 2階席、1階席は見晴らしがよい。札幌ドームに通いなれている人に聞いたが「グラウンドがぐっと近くなった」と言っていた。

 これまでの球場で、筆者が不満を持っているのは、グラウンドに近い低層の席の視界が、価格が高いにもかかわらず、必ずしも良好とは言えないことだった。ファウル対策としてネットや金網が張り巡らされていて、太い支柱も立っている。観客はそうした防護柵越しにグラウンドを見ることになる。

 しかしこの球場のファウルよけのネットは、メッシュが極めて細かいうえに、黒い繊維でできていて、見通しが良い。1階席でもネットの存在が気にならない。2021年に改装なったベルーナドームのネットと同じような仕様かと思うが、視界良好だ。

 1階席でも観戦したが、選手までの距離も近く、迫力があった。

エスコンの本当の魅力は球場周辺と感じた

 ただエスコンフィールドHOKKAIDOの本当の魅力はグラウンドや観客席ではなく、その周辺にあると言えよう。

 2階には「七つ星横丁」というフードコーナーがある。ベルーナドームやマツダスタジアム(広島)など、飲食店が並ぶゾーンがある球場も多いが、エスコンフィールド北海道はスケールが違う。職人が寿司を握る店、焼き鳥屋、飲み屋などがずらっと並んでいる。1階には広島風お好み焼きを鉄板で焼く店もある。人々は思い思いの料理や飲み物を買って腰を下ろして飲み食いできる。象徴的なのは「グラウンドに背中を向けて座る席」もあることだ。いうなれば、野球を見なくてもOKなのだ。

 ファイターズフラッグシップストアは試合中もお客が引きも切らない。新庄剛志監督デザインの新ユニフォームも人気がある。最も多くの人を集めていたのが、ダルビッシュ有と大谷翔平の壁画だ。現役選手ながらもはやレジェンドだ。

自由観戦の立見席、ビール片手に見下ろせるブルペン

 客席の最後列にはシートのないカウンターだけの立見席がある。多くの人がビールやチューハイを手にグラウンドを見ている。

 この球場の定員は3万5000人だが、席数は2万9000だけである。あとの人は立見席などで自由に観戦することができるのだ。

 他の球場では、立って観戦していると「ご自身のお席で見てください」と言われることも多い中で、指定されたエリアならどこで見てもいいというのも画期的だ。だから試合中も人の流れが絶えない。この球場のブルペンは客席から見ることができるが、ビール片手にブルペンを見下ろすのも粋なことではある。さらに球場内には「ユニ・チャーム マナーウェアドッグスイート」という施設があり、犬連れでも入場可だ(6月1日には、Fビレッジの一塁側にドッグラン「ユニ・チャームDOG PARK」が開業するという)。

 デーゲームでは、飲食店のスタッフが「今日は午後8時まで営業してまーす!」と声を上げている。野球の試合が終わっても、腰を据えて飲むことができる。

「きつねダンス」ですっかり全国区になったファイターズガールは、ナイターでも朝9時から出勤だそうだが、イニング間の応援ダンスでも出演頻度は高い。今年から「ジンギスカンダンス」が加わった。試合の後半に行われる「きつねダンス」は、もはや「もう一つのお目当て」と言っても良いかもしれない。ファイターズガールも含めてほとんどのイニングごとに、何らかのイベントがある。実に盛り沢山だ。

台湾から来たCAさんも「めちゃくちゃ楽しい!」

 火曜日の西武戦で筆者の隣に座ったのは、台湾から来たという2人連れのCAさんだった。1人は西武の呉念庭のファンだったが、もう一人は「野球は全然知らないけど、ビールや食べ物がいっぱいあるし、ダンスもいっぱいあるし、めちゃくちゃ楽しい」といった。ビールのカップが次々空になっていった。

 筆者はスコアブックをもって試合に集中するオールドスタイルのファンだが、これからの観戦スタイルはどんどん多様化するのだろう。これこそが「ボールパーク化」なのだと思う。

 5月18日(木)の西武戦は13時プレーボール。異例の平日のデーゲームだったが、2万4580人ものお客が詰めかけた。修学旅行生や遠足の小学生もいた。新千歳空港からのアクセスを考えてもデーゲームの方が行きやすい球場という考え方もできる。

 ファイターズは、従来の野球ファンに加え、野球を知らない人や外国人など、新たな鉱脈を掘り当てつつあるのかもしれない。

 エスコンフィールド北海道は「野球場」というより「“見たければ野球の試合も見ることができる”アミューズメントパーク」なのだろう。

文=広尾晃

photograph by Kiichi Matsumoto