交流戦前時点で今季のセ・パ両リーグの新人王候補について見ていこう。

 今季の新人王争いは両リーグともに、ハイレベルになっている。新人王資格は、海外のプロ野球リーグに参加した経験がない選手で、支配下登録されてから5年以内、投手は前年までの一軍での登板イニング数が30イニング以内、打者は、前年までの一軍での打席数が60打席以内になっている。

“独立Lから入団1年目”での活躍は異例

〈パ・リーグ〉
・新人王資格のある打者。安打数10傑
 茶野篤政(オ)46試173打48安0本9点5盗 率.277
 2022年育4/四国IL徳島
 児玉亮涼(西)38試107打24安0本6点2盗 率.224
 2022年6位/大阪ガス
 友杉篤輝(ロ)17試59打18安0本7点4盗 率.305
 2022年2位/天理大
 池田来翔(ロ)11試48打17安2本5点0盗 率.354
 2021年2位/国士舘大
 矢澤宏太(日)29試82打16安1本4点2盗 率.195
 2022年1位/日体大
 安田悠馬(楽)24試50打11安2本6点0盗 率.220
 2021年2位/愛知大
 水野達稀(日)24試41打9安0本6点1盗 率.220
 2021年3位/JR四国
 福田光輝(日)17試42打7安1本6点0盗 率.167
 2019年5位※ロッテ/法政大
 奈良間大己(日)14試31打5安1本4点0盗 率.161
 2022年5位/立正大
 佐藤直樹(SB)31試27打5安1本2点2盗 率.185
 2019年1位/JR西日本

 このコラムでも何度か取り上げているが――茶野は独立リーグ徳島から育成4位でオリックスに入った。筆者は徳島でドラフト発表を取材したが、午後5時に始まったドラフト会議で、茶野の名前が呼ばれたのは8時を過ぎていた。ここから開幕スタメンを勝ち取り、1試合欠場しただけの46試合出場。すべてスタメンだ。バットを短く持ってしぶとく当てていく打法で、必死に頑張っている。育成上がりの新人王は2008年の山口鉄也(巨)、2009年の松本哲也(巨)、2022年の水上由伸(西)と3人いるが、入団1年目、しかも独立リーグ上がりでは前例がない。

友杉と池田のロッテコンビも首位快走に貢献

 打者で茶野に立ちはだかりそうなのが、友杉、池田のロッテコンビ。友杉は開幕から遊撃手として藤岡裕大と併用され、打率も3割をマークしている。池田は5月6日に一軍に昇格するとマルチヒット6試合を含む8試合で安打を打ち本塁打も2本。猛打を振るっている。

 日本ハムの矢澤は一番右翼で使われることが多いが、実は投手登録である。5月21日のオリックス戦では9回1イニングを零封している。二刀流で活躍するとなれば、新人王投票で記者を悩ませることになるだろう。

 チームメイトの加藤豪将は、元メジャーリーガーながら特例で新人王資格が認められた。故障で出遅れ、まだ3試合に出ただけ。11打数3安打でこのランクに入らないが、ブルージェイズでプレーした実績がある。実力的にはここから十分に追いつく可能性があるだろう。

・新人王資格のある投手 投球回数10傑
 山下舜平大(オ)6試4勝0敗0S0H 36.2回42振 率0.98
 2020年1位/福岡大大濠高
 荘司康誠(楽)5試0勝2敗0S0H 32.1回30振 率3.06
 2022年1位/立教大
 金村尚真(日)3試1勝1敗0S0H 18.1回20振 率2.45
 2022年2位/富士大
 青山美夏人(西)15試0勝0敗2S0H 17回9振 率3.18
 2022年4位/亜細亜大
 大津亮介(SB)18試0勝0敗0S8H 16.1回9振 率2.76
 2022年2位/日本製鉄鹿島
 宮森智志(楽)17試0勝2敗0S3H 14回11振 率4.50
 2021年育1/四国IL高知
 内星龍(楽)13試2勝1敗0S1H 14回13振 率1.29
 2020年6位/履正社高
 伊藤茉央(楽)16試1勝0敗0S3H 12.2回4振 率3.55
 2022年4位/東農大オホーツク
 宮内春輝(日)10試1勝0敗0S1H 11.1回12振 率5.56
 2022年6位/日本製紙石巻
 松井友飛(楽)2試1勝1敗0S0H 11回5振 率2.45
 2021年5位/ 金沢学院大

オリックスでは山下も20歳にしてローテの柱に

 オリックスは、WBC帰りのエース山本由伸がやや冴えない中、3年目の山下が急成長。今やローテの柱になった感がある。太い手足から155km/hの重い速球を投げ込む。変化球も制球が良く、安定感は抜群だ。吉田正尚が抜けたオリックスがペナントレースで上位にいるのは、茶野や山下などの新人が台頭したことが大きい。

 対抗馬となりそうなのは、ソフトバンクの大津か? 開幕からベンチ入りし、4月27日の楽天戦で初ホールドを上げてから失敗なしの8ホールド。又吉克樹が不調な中、勝利の方程式を担っている。

 投打トータルで言えば、今のところオリックスの山下が大きくリードしている。対抗馬はチームメイトの茶野だが、数字的にはやや地味。打者では長打のあるロッテの池田も期待できよう。

中日・福永も健闘しているが秋広の成績がすごい

〈セ・リーグ〉
・新人王資格のある打者 安打数10傑
 福永裕基(中)39試141打39安1本8点0盗 率.277
 2022年7位/日本新薬
 秋広優人(巨)29試98打34安4本16点0盗 率.347
 2020年5位/二松学舎大付高
 村松開人(中)26試83打20安1本6点0盗 率.241
 2022年2位/明治大
 門脇誠(巨)37試74打12安1本6点2盗 率.162
 2022年4位/創価大
 林琢真(De)29試54打8安0本2点1盗 率.148
 2022年3位/駒沢大
 森下翔太(神)17試51打8安0本7点0盗 率.157
 2022年1位/中央大
 井上広大(神)13試35打8安0本7点0盗 率.229
 2019年2位/履正社高
 武岡龍世(ヤ)21試29打8安0本3点3盗 率.276
 2019年6位/八戸学院光星高
 韮澤雄也(広)32試38打7安0本3点0盗 率.184
 2019年4位/花咲徳栄高

 中日の福永は阿部寿樹の抜けた二塁を守って規定打席に到達。合格点の成績だ。中日では村松も京田陽太の抜けた遊撃を守って手堅い数字を残している。

 しかしセの打者ではやはり巨人の秋広が目立つ。

 入団時には馬場正平(ジャイアント馬場)以来の2m超の長身ばかり注目されたが、今季は打撃の確実性が増し本塁打も4本。中田翔に師事して成長したと言われるが、このままいけば岡本和真と若き中軸を組むことになろう。大型選手だけに怪我、故障に気を付けるべきだろう。

阪神・村上は43回を投げて四球はたった4つだけ

・新人王資格のある投手 投球回数10傑
 村上頌樹(神)7試4勝1敗0S1H 43回45振 率1.47
 2020年5位/東洋大
 横川凱(巨)8試3勝2敗0S0H 41.1回24振 率2.40
 2018年4位/大阪桐蔭高
 吉村貢司郎(ヤ)8試2勝1敗0S0H 39.2回31振 率4.54
 2022年1位/東芝
 代木大和(巨)13試0勝0敗0S0H 16.2回15振 率5.40
 2021年6位/明徳義塾高
 石川達也(De)9試0勝0敗0S0H 13回16振 率1.38
 2020年育1/法政大
 田中千晴(巨)12試1勝3敗0S3H 12.2回12振 率6.39
 2022年3位/國學院大
 丸山翔大(ヤ)7試0勝0敗0S0H 11回14振 率2.45
 2020年育4/西日本工大
 松井颯(巨)2試1勝0敗0S0H 10回8振 率0.90
 2022年育1/明星大
 菊地大稀(巨)9試1勝1敗0S1H 9.1回11振 率6.75
 2021年育6/桐蔭横浜大
 富田蓮(神)7試1勝0敗0S0H 8回5振 率3.38
 2022年6位/三菱自動車岡崎

 阪神の3年目・村上は、開幕時点では救援投手だったが2回目の登板から先発に回り、安定感のあるマウンド。何と言っても43回を投げて4与四球という抜群の制球力が売りだ。不振のエース青柳に代わってローテの中心にいる。

 巨人の左腕・横川は、2018年に春夏連覇した大阪桐蔭からプロ入りした4人組の一人である。根尾昂(ドラフト1位・中)、藤原恭大(同1位・ロ)はすでに新人王資格はない。また柿木蓮(5位・日)は育成枠にいる。この4人の中で、高校時代はもっとも目立たなかった横川が5年目にしてローテをほぼ維持し、ここ3試合は18回で自責点2と好調をキープしている。

 同じく巨人の松井颯は、昨年育成1位で入団。5月15日に支配下登録され21日の中日戦に先発、5回零封でプロ初勝利。28日の阪神戦でも5回自責点1の好投。ここへきて新人王候補に名乗りを上げた。

 セ・リーグは打では巨人の秋広、投では阪神の村上が有力。ここに巨人の横川が絡む展開か。まだ100試合以上あるのでここから出てくる新人ももちろんいるだろうが、今季の新人王争いはかなりの豊作だとは言えるだろう。

山下は田中将大との投げ合いでも7回無失点だった

【2023年5月22日〜28日 週間成績】
〈パ・リーグ〉
 オリックス5試4勝1敗0分 率.800
 ロッテ3試2勝1敗0分 率.667
 ソフトバンク5試3勝2敗0分 率.600
 楽 天5試2勝3敗0分 率.400
 日本ハム6試2勝4敗0分 率.333
 西 武4試1勝3敗0分 率.250

 オリックスが主軸・杉本裕太郎の復帰もあり復調して4勝1敗。ロッテはわずか3試合だったが、好調を維持。西武がわずか1勝と低迷している。

〈打撃成績5傑〉※打撃の総合指標であるRC=Runs Create順
 万波中正(日)22打8安2本5点 率.364 RC6.68
 安田尚憲(ロ)9打5安2本6点 率.556 RC6.52
 中村奨吾(ロ)8打5安1本4点 率.625 RC5.98
 栗原陵矢(SB)20打7安2本6点 率.350 RC4.97
 ポランコ(ロ)13打5安2本7点 率.385 RC4.78

 日本ハムの万波が前週に続きリーグ最多の2本塁打、ロッテ安田、ポランコ、ソフトバンク栗原、日本ハムのマルティネスも2本塁打。打点はポランコが7打点。盗塁は楽天の山﨑剛が3でトップだった。

〈投手成績5傑〉※リーグ防御率に基づくPR=Pitching Run順
 山﨑福也(オ)1登1勝8回 責0率0.00 PR2.99
 山下舜平大(オ)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.61
 鈴木健矢(日)1登1勝5回 責0率0.00 PR1.87
 北山亘基(日)1登7回 責1率1.29 PR1.61
 池田隆英(日)3登2H4回 責0率0.00 PR1.49

 オリックスの先発陣が好調。山﨑福は5月27日の西武戦で8回零封、山下は23日の楽天戦で田中将大と投げ合い7回零封。救援ではソフトバンクのオスナが2セーブ、モイネロが3ホールドを挙げた。

秋広はこの週2本塁打を放つなど長打力も

〈セ・リーグ〉
 阪 神6試6勝0敗0分 率1.000
 広 島6試4勝2敗0分 率.667
 中 日6試4勝2敗0分 率.667
 DeNA6試2勝4敗0分 率.333
 巨 人6試2勝4敗0分 率.333
 ヤクルト6試0勝6敗0分 率.000

 阪神は5月20日の広島戦から8連勝中。2位と6差で首位固めに入っている。対照的に前年の覇者ヤクルトは16日から引き分け1つを挟み10連敗中。

〈打撃成績5傑〉
 細川成也(中)23打11安2本4点 率.478 RC8.24
 村上宗隆(ヤ)21打6安2本3点 率.286 RC5.54
 大山悠輔(神)19打6安1本4点 率.316 RC5.50
 秋山翔吾(広)22打8安0本2点 率.364 RC5.45
 秋広優人(巨)23打9安2本4点 率.391 RC5.41

 現役ドラフトでDeNAから中日に移籍した細川が貧打の中日で救世主の働き。2本塁打はヤクルト村上、巨人・秋広、岡本和真、阪神ミエセスとともにトップ。どん底のヤクルトだが村上に復調の兆し。打点は広島の坂倉将吾が6でトップ。盗塁は6選手が1。

〈投手成績5傑〉
 戸郷翔征(巨)1登1勝9回 責0率0.00 PR2.94
 平良拳太郎(De)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.28
 大竹耕太郎(神)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.28
 森下暢仁(広)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.28
 小笠原慎之介(中)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.28

 巨人の戸郷は5月24日のDeNA戦で今季2度目の完封勝利。平良以下の4投手が7回零封だが、現役ドラフトでソフトバンクから阪神に来た大竹は27日の巨人戦で7回90球零封。ハーラートップの6勝目。救援では阪神の岩崎優が3セーブ、広島のターリー、中日の祖父江大輔が3ホールド。

文=広尾晃

photograph by Kiichi Matsumoto/JIJI PRESS