また、ひとつの記録が達成された。1シーズンにおけるドライバーの最多連勝記録だ。

 夏休み明け初戦となったオランダGPは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝し、第5戦マイアミGPから続けていた連勝を「9」に伸ばし、セバスチャン・ベッテルがレッドブル時代に記録した歴代F1最多連勝記録に並んだ。

 偉大なるこの記録は、ややもすると「チャンピオンチームのドライバーが速いマシンに乗って作った記録」と思われがちだ。しかし、同じマシンに乗るセルジオ・ペレスが第4戦アゼルバイジャンGP以降優勝がないことを考えると、単にマシンが速いことだけが連勝の理由ではないことがわかる。

 さらに記録が達成されたオランダGPでは、レース中に2度も突然の雨に見舞われ混乱が生じた。ポールポジションからスタートしたフェルスタッペンは1回目の雨による影響を受け、ピットインのタイミングが遅れて一時は5番手までポジションを下げた。

 その時点でトップのペレスとの差は13秒。しかし、フェルスタッペンは濡れた路面で誰よりも速いタイムを刻み続け、7周後の10周目にはその差を4秒にまで縮めた。その中には、ペレスに対して1周4秒も速いラップもあった。

 その後、ピットストップでチームメートを逆転してトップに立ったフェルスタッペンは、レース終盤の赤旗が出るほどの大雨にも動じず、セーフティカー先導のローリングスタートも落ち着いて決め、トップでチェッカーフラッグを受けた。

元王者が語る勝ち続けることの価値

 結果的にはポール・トゥ・ウィンのフェルスタッペンだが、今年のオランダGPはマシンが速くても優勝できないレースの典型と言える展開だった。過去にもシーズンを通してライバルたちを圧倒するようなマシンは何度もあったが、いずれもシーズンに数回訪れる落とし穴にはまってきた。

 例えば1993年のアラン・プロストは、ウイリアムズが手がけたシーズンを席巻する速いマシンを手にしていながら、2戦目のブラジルGPで突然のスコールに足をすくわれてクラッシュした。2004年に圧勝したミハエル・シューマッハ(フェラーリ)も、5連勝で迎えたモナコGPでセーフティーカーラン中に事故を起こしてリタイアした。

 いまのフェルスタッペンには、不運をも吹き飛ばす特別な強さがある。

 過去に2度チャンピオンとなり、オランダGPでは2位でチェッカーフラッグを受けたフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、「フェルスタッペンは別の次元にいると思うか? それとも、もしあなたやルイス・ハミルトンが同じマシンに乗ったら、彼と同じパフォーマンスを発揮できると思うか?」とレース後に尋ねられ、こう答えた。

「そうだね、マックスがいま成し遂げているさまざまなことは過小評価されているかもしれない。たとえ最速のマシンを手にしていても、勝ち続けることは本当に難しいんだ。今日のようなレースは、連勝を続けることがいかに難しいかを示す究極の展開だった。にも関わらず、マックスは勝った。しかも、圧倒的な勝利だった。だから、もしマックスと同じマシンに乗っても、彼と同じレベルのパフォーマンスを発揮できるかは正直わからない。もちろん、僕たちドライバーはみんな自分が一番だという自信がある。おそらくルイスだって、そう思っていることだろうし、ほかのドライバーもそうだろう。ただ、今日のような難しいコンディションの中で、あのようなパフォーマンスを発揮するには、自分の気持ちと能力を100%に高めた状態でドライビングしなければならない。でも、今日の僕は100%には及ばなかった。だからマックスが、圧倒的な強さを見せて勝利したんだ」

チーム代表も認める手がつけられない強さ

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も、フェルスタッペンが稀有なドライバーであることを認めている。

「今年のオランダGPは日曜日だけでなく、土曜日の予選も雨で荒れた展開だった。その中で、期待されていたのにQ3に進出できなかったドライバーもいた。それでも、マックスは予選でポールポジションを獲得し、レースでも優勝した。いまのマックスは手がつけられないレベルにあると思う。あのマシンに乗って彼と同じことを達成できるドライバーは、いまのグリッド上にはいないだろう」

 いま私たちが目にしているドライバーは、世代を超えた最速の王者かもしれない。

文=尾張正博

photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool