2023年の期間内(対象:2023年5月〜2023年9月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。プロ野球部門の第1位は、こちら!(初公開日 2023年5月4日/肩書などはすべて当時)

 WBCの歓喜から1カ月余りが経過した。

 この間もロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手らの活躍が、連日、テレビの情報番組を賑わせ、まだまだあの熱狂の余韻をファンは楽しむ日々が続いている。

 その一方で、大会後になかなか状態が上がらなかったり、故障で戦線離脱して苦しんでいる選手がいるのも事実だ。

 ヤクルト・村上宗隆内野手は開幕後もスランプが続き、4月終了時点で1割5分7厘という低打率に喘ぎ、本塁打もまだ2本という現状にある。またDeNAの牧秀悟内野手も打率2割3分5厘の3本塁打と本来の力からするとかなり低い成績に低迷し、投手でも日本ハムの伊藤大海投手は5月2日に開幕5試合目で初白星をマークしたが、防御率4.71と振るわない。

 さらに心配なのは今回のWBCに出場したメンバーで、すでに5人が故障やコンディション不良で戦線を離脱しているという事実である。大会中に右手小指を骨折した西武・源田壮亮内野手は開幕から治療に専念して、まだ一軍復帰はできていない。開幕後には阪神・湯浅京己投手が右前腕の張りで、オリックス・宇田川優希投手も上半身のコンディション不良で4月中に一軍登録を抹消された。野手ではヤクルトの山田哲人内野手が下半身のコンディション不良、西武・山川穂高内野手が右ふくらはぎの張りで、やはり開幕直後に一軍メンバーから外れ5月にようやく復帰する事態にもなっている。

「もちろん肉体的にもかなり負担が大きかったということだと思います。ただそればかりではなく、投手だとメジャー球(大会使用球)のボール問題が指摘されてきましたが、逆に昨オフからメジャー球で練習をしてきていた投手が、そこから今度はNPB球に変わったことも少なからず影響していると思います」

 こう語るのはある日本代表のスタッフだ。

「あとはメンタルの問題。やはり大会中は精神的にも極限状態に張り詰めてプレーをしてきていたので、そこから気持ちの切り替えがなかなかできない。一種の燃え尽き症候群的な問題もあると思います」

 4月26日に行われたNPBと日本プロ野球選手会との事務折衝で、選手会側からWBC開催年の開幕日を通常より遅らせるよう要求があった。NPB側も前向きに検討していく方向で、2026年に予定される第6回大会への大きな宿題となるはずだ。

WBCで栗林が戦線離脱を余儀なくされたある”事件”

 そしてもう1つ、いま12球団でWBCの重要課題として浮上しているのが、選手のコンディショニングを担当するトレーナー問題なのである。

 この問題がクローズアップされる最大の原因は、大会中に広島・栗林良吏投手が戦線離脱を余儀なくされたある〝事件〟だった。

 栗林はクローザー候補として代表入りし、2月17日から始まった宮崎の事前キャンプから侍ジャパンの一員として行動してきた。キャンプでも順調に調整を進め、2月26日のソフトバンク戦、3月3日の中日戦、6日の阪神戦と強化試合も3試合に登板、3回3分の1を投げて被安打2、7奪三振で無失点と好調な仕上がりを見せていた。

 しかし3月9日の1次ラウンド開幕後はマウンドに上がることなく、4戦目の豪州戦後に「腰の張り」を理由にチーム離脱が決まった。

トレーナーの施術中に「腰の張り」が…

 実はこの「腰の張り」の原因が、トレーナーによる施術だったというのだ。
 
 施術を行ったのは2003年のアテネ五輪アジア予選から代表チームに参加し、WBCでは第1回大会から選手のケアを担当するヘッドトレーナーだった。

 元々は第1回大会で多数の選手を送り出した当時のロッテ、ボビー・バレンタイン監督が、全米アスレティックトレーナーズ協会の公認資格(ATC)を持つトレーナーの帯同を要求。そこでATCの資格を持つこのトレーナーに白羽の矢が立った。しかし当時も現在も、プロ野球のチームとの関係はなく、日常的にNPBの選手を診ることもない。それでも同じ大学出身で代表チームを担当するNPB職員との関係もあり、その後も日本代表のトップチームには常にヘッドトレーナーとして呼ばれてきたという。

 今回のWBCでは日本で試合が行われた準々決勝までは、12球団からトレーナーが派遣されて、宿舎などで担当チームの選手のメンテナンスを行ってきている。ただ、試合会場に入れるのは、このヘッドトレーナーを含めて4人だけ。試合前のメンテナンスなどはこの4人に任されることになる。

 もちろん帯同している12球団のトレーナーとの情報交換は密に行われ、これまでは施術で特に大きな問題が出たこともなかった。しかしその一方でこのヘッドトレーナーの施術は「マッサージはさする感じで弱いが、ストレッチになると急に圧を強くかけるようになる」という選手間の評判もあり、一部の球団では参加した選手に「(ストレッチを受ける際には)気をつけるように」と事前に注意喚起していたという球団関係者の証言も聞いた。

 そして栗林が「腰の張り」を訴えたのは、まさにその圧が強くなるストレッチの最中だったという。

 結局、開幕直後に受けたその施術が原因で腰の違和感が出た栗林は、1次ラウンドで1度もマウンドに上がることなく離脱が決まった。

 チームを離れることが正式に決まった豪州戦後、栗林は東京ドームのグラウンドで世界一を目指して約1カ月間、苦楽を共にしてきたナインと記念撮影。

「もちろん残念です。投げろと言われたら投げられると思いますが、全力でいけるかどうかは自分でも分からない」

 こう語った無念の表情は忘れられない。

 本人も語るようにケガそのものは、それほど重症ではなかった。チームに復帰後の3月15日にはキャッチボールを再開。本人が開幕に向かって再調整してスタートできたことで、〝事件〟も表面的には大きな問題にはならなかった。

トレーナー問題は次回WBCの最重要課題の1つ

 もちろん広島球団はケガをした経緯が経緯なだけに、NPBに対して厳重に抗議。同時に他球団とも情報を共有しており、今回の取材では複数の球団の幹部も事実関係を認めた上で「今後、トレーナーの問題は3年後の第6回大会の最重要課題の1つだと思う」と語っている。

 ただ、その一方で心配なのは開幕から栗林の投球が、一向に本来のキレを取り戻せていないことである。

 4月4日の今季初登板となった阪神戦では、同点の9回にマウンドに上がり決勝点を奪われ負け投手となった。その後は4連続セーブをマークしたが、4月18日の阪神戦と23日のDeNA戦でも9回にマウンドに上がったが打ちこまれて負け投手になっている。

 そして29日の巨人戦では1点リードの9回に勝利を託されたが、2死から岡本和真内野手を歩かせ、直後の中田翔内野手に甘く入った初球のフォークを左翼席上段に運ばれて逆転サヨナラ負けを喫した。

「迷惑をかけて本当に申し訳ない。何とかやり返したい気持ちしかない」

栗林の不調と登録抹消に思う”事件”の影響

 こう唇を噛んだが、真っ直ぐもフォークも本来の姿がまったく見られなかった。その後の5月1日に、今度は右内転筋の強い張りで出場登録を抹消されている。もちろん直接的にWBCでのケガが、その後の不振と内転筋の張りにどう影響を与えたのかは分からない。ただ、観ていて「こんな投手ではないはずだ」という思いと共に、WBCでケガをする以前の投球を思うと、どうしても〝事件〟の影響を考えずにはいられないのである。

 奇しくも栗林が中田にサヨナラ本塁打を打たれる直前の週刊誌で、そのヘッドトレーナーが「侍秘話」まで語っている。

 その中で「自分がベンチ入りすると点が入るジンクスがある」と語り、栗林のことには触れることなく、源田の骨折の際のエピソードなどヘッドトレーナーとしての「秘話」を披露する姿には違和感を感じざるを得ない。トレーナーの施術中にこういう、ある種の〝事故〟が起こることは、皆無ではないことも分かっているが、やはり今回の栗林の不振と抹消を考えると、WBCで起こった出来事はきちんと書くべきだと思った。

 このヘッドトレーナーにもWBC期間中の栗林のケガについて、事実関係の確認と自身の認識また今後のトレーナーのケア体制に対する意見を文書で質問したが、回答期日までに返事はなかった。

 もちろんトレーナー陣が選手のケアをして、その献身的なサポートがあって、選手は思い切ってグラウンドでプレーができる。それだけトレーナーという存在が大きいということも、選手から何度も聞いてきたし、実際に施術の様子なども見て感じてきたことだ。

 だからこそトレーナー問題は重要なのである。

 人数や時間の制限のある中で、国際大会で選手が信頼して身体を預けられるトレーナー編成をどう進めていくのか。今回の栗林の〝事件〟を契機に、3年後に予定される第6回大会に向けた重要課題であることもここで明記しておきたい。

―2023上半期 プロ野球部門 BEST5


1位:広島・栗林良吏“WBC途中離脱”の裏にあった大会中の「ある事件」 …浮かび上がる侍ジャパンのトレーナー問題
https://number.bunshun.jp/articles/-/858778

2位:松井裕樹がいま明かす“WBC中の苦悩”とは? 大谷翔平の“ある助言”に救われた話…「こういう気持ちは経験できない」「苦しいながらも前に」
https://number.bunshun.jp/articles/-/858777

3位:巨人へ電撃トレード「発表前日は山口宅で“たこ焼き”を…」佐々木朗希ら4人の証言で辿る“25歳長身右腕”がロッテで愛された証
https://number.bunshun.jp/articles/-/858776

4位:落合博満32歳が批判「えっ? 原辰徳とオレで釣り合うかって?(ニヤリ)」巨人電撃トレードの噂をバッサリ…「落合は巨人ドラ2だった」説の真相まで
https://number.bunshun.jp/articles/-/858775

5位:「万波は終わった」と批判も…横浜高恩師が語る、万波中正が“伸び悩む怪物”だった頃「毎朝、電子レンジの前に立って…」
https://number.bunshun.jp/articles/-/858774

文=鷲田康

photograph by KYODO