開幕1カ月でラツィオとMF鎌田大地が試練に晒されている。9月16日のセリエA第4節で強敵ユベントスに1−3で敗れ、早くもリーグ戦3敗目。いわゆる“負けが混んでピリピリ状態”だ。
怒り心頭のマウリツィオ・サッリ監督以下、チーム全員には箝口令が敷かれた。19日のチャンピオンズリーグ開幕戦を前に、ラツィオは立ち直れるか。
中継で「ラツィオで最も危険なプレーヤーは鎌田」
敵地トリノに乗り込んだラツィオのプレー内容自体は決して悪くなかった。
開幕以降4戦連続で先発した鎌田と周囲の連係がこなれてきている。日本代表での疲労をものともせず、前半から3トップとともにペナルティエリアへ飛び込んだ。
25分にはゴール正面で強烈な左足ボレーを放ち、鎌田は中盤から左前方のFWザッカーニへとセンチ単位の精度で縦パスを通した。
前節ナポリ戦でも顕著だったが、右サイド後方には攻撃型DFラッザリより守備に手堅いDFマルシッチを置く方がチーム全体が安定する。ユーベ新主将DFダニーロをぶっ飛ばした鎌田へスタジアム中が「カードを出せ!」と指笛とブーイングの雨を降らせようが、ビアンコチェレステ(※白空色=ラツィオの愛称)の背番号6はどこ吹く風だ。ふてぶてしさが頼もしい。
試合中継は「ラツィオで最も危険なプレーヤーは鎌田」と伝えていたほどである。
だが、ユベントスの試合巧者ぶりと疑惑の判定がラツィオを窮地に追い込んだ。
10分のユーベFWブラホビッチによる先制点の起点は、ラツィオ主将FWインモービレが自陣で倒された場面だ。サッリ親分はその時点で判定に文句をつけたが、マレスカ主審はノーファウルと見なし、ユーベはそつなく右サイドからつないで先制点を決めた。
その際、MFマッケニーの拾ったボールが右のタッチラインを割っていたように見えたことで「出たor出てない」論争が勃発。審判団に対するサッリ親分とラツィアーレたちの不信感と怒りは沸騰した。
鎌田の初アシスト直後、士気をへし折る試合巧者ユーベ
26分にFWキエーザから追加点を奪われたが、ラツィオは攻める姿勢を崩さなかった。覇気なく敗れた開幕2戦とは違い、中盤が前へ猛然とプッシュする。
鎌田は57分にFWフェリペ・アンデルソンの低空高速クロスをゴール正面で合わせ損なうも、64分に敵陣で相手DFのパスミスに乗じてボールを競り勝ち、同僚MFルイス・アルベルトの反撃ゴールを呼び込んだ。鎌田がセリエA初アシストを記録した相手はユベントスだった。
ただし、すかさず相手の反撃の士気をへし折るのがユーベの十八番。わずか3分後にブラホビッチのゴールで再びスコアを2点差に広げると、そのままゲームを制圧した。混乱に満ちた1年を経て苦悩した分、ユベントスは勝負強さを取り戻し始めた感がある。
鎌田は交代枠最後の5人目として、78分にMFゲンドゥージと代わり、ベンチで試合終了の笛を聞いた。
3トップに左右の2列目からルイス・アルベルトと絡む、“鎌田ありき”の新しい戦い方はラツィオに浸透しつつある。だが、チームが新しいスタイルに自信を持つ上で必要なのは白星だ。それだけに結果が出ないもどかしさが口惜しい。
「サッリは鎌田を変えざるを得ないだろう」
開幕4戦で3敗、ラツィオの苦境は明らかだ。
19日のUEFAチャンピオンズリーグ開幕戦を前に、鎌田も正念場に立っている。先発落ちの危機なのだ。
「アトレチコ・マドリーとの初戦? 右インサイドハーフの先発はゲンドゥージだと思う」
「サッリ(監督)は鎌田を変えざるをえないだろう」
現地の2大スポーツ紙『コリエレ・デッロ・スポルト』と『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のラツィオ番記者たちは口を揃える。
微に入り細を穿つ戦術を徹底して覚え込ませるためにスタメンを固定する指揮官サッリはターンオーバー嫌いで知られ、新人やベンチ組を滅多なことでは信用しない。だから、加入後間もない8月20日の開幕レッチェ戦からずっと先発起用されてきた鎌田へかける期待は相当なものだと誰にも察しがついたし、親分は「時間を与えたい」と擁護してきた。
さすがのサッリ親分も“ワシ流”を押し通せない?
しかし、さすがのサッリもここまで黒星が先行すれば“ワシ流”を押し通すことは難しく、チームに何か手を加える必要がある。
昨季2位に躍進したチームのスタメンから変わったのは、事実上ミリンコビッチ・サビッチの後釜に入った鎌田だけ。もちろん前節ナポリ戦でセリエA初ゴールを決めた鎌田を評価するラツィアーレは多く、現在の成績低迷の責任は断じて鎌田一人にあるわけではないが、結果が出なければ変更した場所に修正を加えるべきだという外野からのプレッシャーは膨れ上がっている。
ライバルとして急浮上した3歳年下のフィジカル系MF
鎌田のポジション争いのライバルとして急浮上してきたのが、3歳年下の同じインサイドハーフであるMFマッテオ・ゲンドゥージだ。
8月31日にマルセイユから移籍してきたゲンドゥージは、ナポリ戦の後半に鎌田と交代出場する形でセリエA初出場。グラウンドに入ってわずか2分後にFWザッカーニへアシストを決め、その4分後には豪快な右足ゴールを叩き込む圧巻のパフォーマンスはいずれもVARによって取り消されたが、185cmの体格とドレッドヘアという風貌も相まって、ラツィアーレたちに特大のインパクトを残した。
鎌田が日本代表連戦でクラブを離れていた間、ゲンドゥージはフォルメッロ練習場でサッリ監督の指導を受けていた。ユベントス戦でも地元紙のスタメン予想に名を連ねていたのはゲンドゥージだった。
プレシーズンキャンプに合流できなかったため、鎌田のフィジカル・コンディションはまだ90分間走れる強度に達していないと見られている。一方で、ゲンドゥージはラツィオ入団前にすでにマルセイユで身体を作り上げていた。
ファーストチョイスはあくまで鎌田と推測する一方で
戦術家サッリにとって、理想のスタイル追究のためのファーストチョイスはあくまで鎌田だろう。それでもチームがシーズン最初の岐路に立つ今、指揮官もチームも最優先すべきはスタイルではなく白星だ。
ユーベ戦後の箝口令は、ファビアーニSD(スポーツ・ディレクター)のファインプレーだろう。遺恨あるユーベとの試合に誤審疑惑で敗れた悪舌家サッリは憤怒のあまり何を言い出すかわからず、こんな大事な時期に出場停止処分でも受けたら目も当てられないところだった。
選手たち自身もユーベ戦の勝敗を分けたのが誤審だけだとは思っていないはずだ。FWインモービレやDFカサーレといったEURO予選帰りのイタリア代表組がまったく動けず、守備への集中力が散漫だった点は速やかに改善されるべきだ。
欧州最高峰コンペティションのホーム開幕戦を白星で飾ることができれば、ラツィオは再び大きな自信を得ることができるだろう。今週末からのセリエAホーム2連戦でも軌道修正を図らねばならない。
勝ち星と先発の座。
ラツィオにとっても、鎌田にとっても正念場だ。
文=弓削高志
photograph by AFLO