9月22日から開幕するF1日本GPの直前に行われたシンガポールGPで、レッドブルとマックス・フェルスタッペンの連勝が途絶えた。

 レッドブルは昨年の最終戦から15連勝していたが、シンガポールGPの舞台である市街地コースに手こずり、フェルスタッペンが5位、チームメートのセルジオ・ペレスは8位。予選でも2台そろってQ2で敗退し、決勝レースでも一度も優勝争いに加わることのない完敗となった。

 今季、第5戦マイアミGPから勝ちっぱなしだったフェルスタッペンにとっては、11戦ぶりに味わう敗戦。その結果に、日本GP以降のレースのパフォーマンスを心配する声も聞こえる。だが、フェルスタッペンは即座に否定した。

「シンガポールで苦戦することは、レース前にシミュレーターに乗っていたときから、すでに覚悟していた。長いシーズンの中にはいろんなコースがあり、シンガポールは僕たちのマシンと相性が良くなかった。でも、そのあとシミュレーターで鈴鹿を走ったら、他のサーキットと同じようにまた素晴らしいフィーリングだった。だから、日本GPが行われる鈴鹿に行けば、僕たちは再び速くなると確信している」

ホンダとともに戦う鈴鹿

 フェルスタッペンにとって、鈴鹿は特別な場所だ。

「鈴鹿はホンダのホームコースだからね。昨年、僕はホンダとともに初めて鈴鹿で勝利を味わった。ホンダの地元で彼らが喜ぶ姿を見るのは僕にとっても幸せな瞬間だった」

 その鈴鹿では優勝しただけでなく、ドライバーズ選手権2連覇を決めた。現在、チャンピオンシップ争いを独走しているフェルスタッペンが3連覇を成し遂げるのは時間の問題だが、シンガポールGPを落としたことで、鈴鹿でそれを確定させる可能性は消滅した。それでも、フェルスタッペンが鈴鹿に懸ける思いは変わらない。

「どこでチャンピオンシップを決めるかは、まったく考えていない。常に目の前のレースのことしか僕の頭にはないんだ。それは日本GPも同じ。鈴鹿でベストを尽くすことしか考えていない」

 フェルスタッペンが鈴鹿に熱い思いを寄せるのは、鈴鹿がパートナーを組むホンダの地元というだけでなく、鈴鹿がフェルスタッペンにとって特別な場所だからだ。

「僕が初めてF1マシンを走らせたのが2014年の鈴鹿だった。初めて走ったときから素晴らしいレーシングコースだったし、何度走っても満足できない、ドライバーの腕が試される場所なんだ。攻めないとタイムが出ないけど、攻めすぎるとすぐにミスしてしまう。S字はF1サーキットの中で最高のコーナーだ」

 そのフェルスタッペンが駆るRB19に搭載されているパワーユニット(PU)を設計・製造しているホンダ・レーシング(HRC)にとっても、もちろん鈴鹿は特別な場所だ。今年は久しぶりに「鈴鹿スペシャル」が投入されることが予想される。

 鈴鹿スペシャルとは、かつてエンジンの開発が自由だった時代にホンダが地元開催に向け特別に準備したエンジンのことだが、PUの年間使用基数が制限され、かつ開発が凍結されている現在のF1で、鈴鹿スペシャルの投入は現実的に不可能だった。

 ところが、今年は開幕当初は年間3基だったルールが、シーズン途中で4基に増えたため、もともと信頼・耐久性に自信があったHRC製のPUを使用するレッドブルが、鈴鹿で4基目を投入することは公然の秘密となっていた。もちろん、開発が凍結されているため、スペックはここまで使用してきた3基と同じだが、数レース使用したPUより新しいPUのほうが馬力がある。

鈴鹿への特別な思い

 今年の鈴鹿はホンダにとって32年ぶりの歓喜の舞台となるかもしれない。レッドブルは現在、コンストラクターズ選手権で2位に308点差をつけ首位を独走している。日本GP終了時点でその差が309点以上となっていれば、HRC製のPU「ホンダRBPT」を搭載したレッドブルがコンストラクターズ選手権を制する。

 ホンダが最後に鈴鹿でコンストラクターズタイトルを確定させたのは90年のこと。ただし、この年はエンジン供給先のマクラーレンとライバル勢がすべてリタイアしてのほろ苦い美酒だった。

 ホンダとしては第4期の活動でなし得ていない鈴鹿での1-2フィニッシュを果たして、レッドブルとともに祝杯を挙げたいところだ。

 そして日本人として、ただ一人F1に参戦している角田裕毅も、特別な思いで鈴鹿に凱旋する。

「F1ドライバーとして初めて凱旋した昨年、最初のコースインで皆さんから送っていただいた声援や拍手の響きはいまでも鮮明に覚えています。だから僕も、クルマが持っているポテンシャルをすべて引き出し、自分が持っている力を出し切ったつもりでした。ただ、結果は13位。今度こそ日本にいる皆さんの前でポイントを取りたい。鈴鹿に来ていただいた皆さんと一緒にレースウィークの楽しみをシェアしながら、昨年以上の予選と素晴らしいレースができたらいいなと思っています」

 ホンダと角田の思いは成就するのか。フェルスタッペンの言葉を信じて、吉報を待ちたい。

文=尾張正博

photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool