今年もまた、J1にサバイブした。

 J1リーグ17位の湘南ベルマーレと18位の横浜FCが、11月25日に激突した。この試合を含めて残り2試合の時点で、湘南は勝点31、横浜FCは勝点29である。今シーズンのJ1は最下位のみがJ2へ降格することになっており、湘南が勝てばJ1残留が決まり、横浜FCが勝利すると立場が逆転する。両チームにとって運命の一戦である。

雄叫びと落胆の残酷なコントラスト

 勝ちたいが、負けたくもない。

 先制したいが、されたくもない。

 大胆さよりも手堅さが先行するような試合で、湘南は前半だけで7本のシュートを浴びた。アウェイのスタジアムをホームのような雰囲気に染め上げたサポーターが、思わず悲鳴を上げるような場面もあった。しかし、横浜FCのシュートミスに助けられ、スコアレスで折り返すことができた。

 後半開始早々にもピンチを迎える。ペナルティエリア内からフリーでシュートを許すが、韓国代表の活動から戻ってきたGKソン・ボムグンが弾き出す。

 その直後だった。左ショートコーナーからMF池田昌生が右足ミドルで狙うと、相手GKがセーブする。セカンドボールに反応したDF大岩一貴が、右足で冷静にプッシュした。VARによる少し長いオフサイドチェックを経て、後半開始早々の49分に湘南が先制した。

 オープンプレーではなかなかフィニッシュへ持ち込めなかった湘南だが、デザインされたセットプレーで横浜FCのゴールをこじ開けた。大岩だけでなくCBキム・ミンテとFW大橋祐紀も、セカンドボールをプッシュできるポジションにいた。

 このワンプレーに、この一瞬に懸ける湘南の集中力が、横浜FCを上回ったと言っていい。CKのキッカーを務めるMF阿部浩之は、「最近ずっと練習している形で、臨機応変に崩せました」と振り返った。

 このまま1対0で試合を終わらせれば、湘南は残留を決めることができる。ただ、守備に重心を置くにはまだ早い。戦い方を大きく変えることなく時計の針を進め、終盤は相手のパワープレーをキム・ミンテ、大野和成、それに大岩の3バックを中心にことごとく跳ね返した。制空権は試合を通して掌握した。

 肌を刺すような寒さに包まれたスタジアムに、試合終了のホイッスルが鳴り響く。ハマブルーと呼ばれる水色のユニフォームが、力を失って崩れ落ちる。アウェイ用のライトゴールドのユニフォームに身を包んだ選手たちは、拳を突き上げて雄叫びをあげた。歓喜の輪が広がっていく。湘南はJ1残留を決めた。

15試合未勝利の“谷底”を味わって…

 試合後の山口智監督は、「思い描いた順位ではないですが、残留を決めたことは大きな成果になるので、とにかく勝つことにフォーカスをした試合でした」と話した。同勝点だった柏レイソルを抜き、ガンバ大阪を得失点差で上回り、15位まで順位を上げることができた。とはいえ、5位以内をターゲットとしたシーズンである。指揮官が笑顔を浮かべないのは当然だっただろう。

 今シーズンは7節から21節まで、15試合勝ちなしと低迷した。6月下旬からおよそ3カ月間は、最下位が定位置となった。

 チーム事情が苦しいなかで、クラブはカタールW杯日本代表のFW町野修斗を夏の移籍市場でドイツへ送り出した。選手のキャリアアップをできる限り尊重するのが、湘南というクラブの基本的なスタンスである。

 代わってJ2の清水エスパルスからFWディサロ燦シルヴァーノを、さらにJ3のY.S.C.C.横浜で11得点をマークしていたMF福田翔生を獲得した。ディサロはここまで1ゴール、福田は無得点だが、町野の移籍と彼らの加入を刺激とした大橋が、自身初となる2ケタ得点を叩き出した。29節のセレッソ大阪戦からは4試合連続ゴールを記録し、チームを浮上させる原動力となった。横浜FC戦でも相手CBと激しいバトルを演じ、攻守に存在感を発揮している。今季13ゴールの大橋は、率直な思いを明かした。

「苦しい時期もありましたけれど、何とかみんなで戦って、このクラブがいなければいけないJ1というポジションを確保できたことは、ホントに良かったかなと思います。率直に嬉しかったですし、ホッとしています」

 大量失点が続いていた守備陣には、鹿島アントラーズからCBキム・ミンテを期限付き移籍で補強した。中盤にはベルギーのコルトレイクへ期限付き移籍していたMF田中聡が戻ってきた。GKソン・ボムグンと大橋に加え、キム・ミンテが3バックの中央に、田中がアンカーに入ることで、センターラインが一気に引き締まった。

 J1の複数クラブでプレーしてきたキム・ミンテは、「最下位だったときから、自分に任せろ、やってやると言っていました。そうやって自分にプレッシャーをかけていたのですが、結果に表わすことができて良かったです」と安堵の表情を浮かべた。

 今シーズンの湘南はリーグで4番目に多い55失点を許しているが、彼が出場した11試合は11失点に抑えている。クリーンシートは5試合を数える。試合翌日に30歳を迎えた韓国人CBの加入によって、守備の安定感が高まったのは間違いない。

 キム・ミンテと同じように田中も、「残留させるという思いでやってきました」と話す。2022年のシーズン中にヨーロッパへ移籍した経緯を踏まえ、「恩返しをする」との思いを胸に秘めていた。ボール際の力強さを増した21歳は、パリ五輪を目ざすチームへの定着も期待される。

「毎年同じことを繰り返していたらいけない」

 29節のC大阪戦から横浜FC戦まで5試合連続負けなしを記録したことで、湘南はJ1残留をつかみ取った。ただ、実は昨年もシーズン終盤に勝点を積み上げている。ラスト10試合で4勝4分2敗の成績を残したことで、混戦から抜け出して12位でフィニッシュしたのだった。

 22年シーズン途中から在籍する阿部は、横浜FC戦後に「ホッとしましたね」と素直な胸中を吐露しつつ、クラブの未来に触れた。チームトップのアシストを記録している34歳は、これまで所属した3クラブでタイトルをつかんでいる。

「毎年同じことを繰り返していたらいけないし、来年はもっとやらなきゃいけない。今回の残留を通過点として、チームとしても個としてもさらにレベルアップしていかないと」

 J1残留争いではなく、中位から上位を狙っていくために。FC東京をホームに迎える最終節が、新シーズンへの第一歩となる。

「どういう終わり方をするのか。J1に残留してホッとするのではなくて、ひとつの試合に懸ける思いというのは、この数試合から学んでいることなので、そこは大事にしたいと思います」

 横浜FC戦後、山口監督はこう話した。何か大きなものを得るための試合ではないが、だからこそ、ホームでしっかりと勝つ。勝点3を取る。プレッシャーも重圧もかからない試合に、圧倒的なまでの熱量を注ぐ。そうした姿勢を磨いていくことが、これからの湘南には必要なのだろう。

文=戸塚啓

photograph by Etsuo Hara/Getty Images