大谷翔平の去就に日米から大きな注目が集まる中、米国では大谷の契約交渉スタイルを巡って批判が噴出する異常事態となっている。

 MLBではオフシーズン最大のイベント「ウインターミーティング」が12月4日から4日間、テネシー州ナッシュビルで開催され、その期間中に大谷の契約が決まるのではないかと期待されたが、結局決まらずに閉幕した。昨年の同時期はアーロン・ジャッジのFA情報が飛び交っていただけに、過去にないほど突出した注目度の大谷の場合、スクープが飛び交う“お祭り騒ぎ”になることが予想されていた。だが、大谷と代理人ネズ・バレロ氏は交渉過程の詳細を漏らさず、隠密行動。争奪戦に加わる球団に対しては、交渉経過をリークしないようにとかん口令を敷いているとも伝えられた。

相次ぐ悲鳴「4ヵ月、何もしゃべっていない」

「ほとんど情報が出てこない」

 数週間前から何人もの米野球記者がそんな嘆きの声を漏らしていた。ウインターミーティングのあまりの静けさに、溜まっていた記者たちの鬱憤が一気に噴き出したのだろう。

 米スポーツ専門テレビ局ESPNでベテランの敏腕として知られるバスター・オルニー記者は5日付の電子版記事で「誰かショウヘイ・オオタニに、実に素朴な質問をしてくれないか。この秘密主義に何の意味があるのかと」と疑問を投げかけた。

「秘密主義というのはもちろん、オオタニがこの4ヵ月、何もしゃべっていないことを指している。この沈黙は、オオタニが望んだことかもしれない。もしくは、誰かが彼に実に最悪なアドバイスをした結果かもしれない。しかしこの歴史的FA劇が、あまりにもつまらないものになっている。オオタニのプレースタイルとはまるで正反対になってしまっている」

 オルニー記者の批判は、大谷が2度目のMVP受賞の際に米専門テレビ局MLBネットワークの発表番組でお披露目した愛らしいコーイケルホンディエにまで及んだ。

「あれを見たとき、何という名前のワンちゃんなのだろうという素朴な興味が当然湧く。それを確かめようと番組が問い合わせをしたら、オオタニ側から犬の名前を公表する準備はできていませんという回答がきた。恐らくオオタニは変なアドバイスを受けているのだろう。しかしあまりにもばかげている」

米記者たちの言い分「野球界にとっても良くない」

 これまで数々のスクープをものにしてきた敏腕のケン・ローゼンタール記者は米スポーツメディア「ジ・アスレチック」の6日付記事で、FA市場の目玉である大谷の契約が決まらないため他のFA選手も身動きが取れない状況であることを指摘。「ショウヘイ・ディレイ(停滞)状態のウインターミーティングは途方もなくつまらない。野球界最大のスターの契約は、世界中をざわつかせるほどの注目を集めるはずだっただけに、大きな損失だ」と嘆いた。バレロ氏の秘密主義については「契約交渉を有利に進めるために、そのような方針を取っている。情報漏洩を嫌う代理人は何もバレロだけではない。もしかしたら選手側の意向を汲もうとするあまり、極端に走り過ぎているのかもしれない」と理解を示しながらも「野球界は、このつまらないウインターミーティングをどうにかするべきだ」と主張した。

 ニューヨーク・ポスト紙のベテランコラムニスト、ジョエル・シャーマン記者も5日付の記事で批判。「オオタニがこんなにわびしくギスギスした契約交渉の中心にいるなんて、彼自身のためにも良くない。そして大人たちがこんなばかげたことにつき合わされているなんて、野球界にとっても良くない」と指摘している。

「流石にやり過ぎ」過激コメントで炎上も

 テレビやラジオのコメンテーターはさらに手厳しい。

 米スポーツ専門テレビ局ESPNのトーク番組「ファースト・テーク」で辛口ご意見番として知られるスティーブン・A・スミス氏は「オオタニの秘密主義はやり過ぎ。こんなふうに行動する選手に価値はない」と言及。同氏は2年前にも大谷について「英語が話せない選手が野球界の顔にはなれない」と発言するなど、たびたび大谷に辛辣な言葉を浴びせて物議をかもしてきたが、今回もやはり批判的だった。

 さらに過激だったのは、同じトーク番組に出演している“マッド・ドッグ”ことクリス・ルッソ氏だ。

「こんな話をすることさえばかげている。オオタニはMVPに選ばれたときに犬の名前さえ明かさなかった。オオタニに6億ドルを出す球団のヤツは、頭を診てもらった方がいい。いいか、言わせてくれ。オオタニを擁するエンゼルスが9月にペナント争いをしたことは何度あったんだ? エンゼルスは今季73勝しかしていないし、オオタニは最後の25試合を休んだよね? 何をそんなに秘密にしなければならないのか? FAじゃないか。6球団と交渉しているんだろ。何なんだ。原爆か何か? 我々に知られてはいけないのか? 何ともばかげている。オオタニと朝食をともにしたことをバラしたら、アウトだなんてね」

 この「原爆」のくだりについては、よりによって世界で唯一原爆を落とされた国の出身選手に対してあまりに無神経だと、米国でも批判が殺到し炎上している。

 スミス氏もルッソ氏も、いつも過激な発言をする「炎上系コメンテーター」として米国では昔から有名で、彼らにとっては非難を浴びてなんぼ。よく知っている野球ファンにとっては想定内の発言でもある。原爆のたとえは流石にやり過ぎだが、ルッソ氏はこの後こう続けている。

「何でオオタニのFA劇を第二次世界大戦のテヘラン会談のように見守らなければならないのか。ばかげているにもほどがある。スターリンとルーズベルトとチャーチルが集まったあの会談だよ。気になって眠れないだろうが!」

批判の理由は「スクープ記者たちの焦り」か

 それだけ大谷の去就が注目の的であり、影響力を持つということ。オルニー記者やローゼンタール記者のように情報を得てスクープを発信することで名を成してきたジャーナリストにとっては、大谷の秘密主義が死活問題にもなるため批判したくなるのもわかる。ただし米国では「人生最大の決断になるのだから、静かに見守ればいいじゃない」といった野球ファンの声も多かった。大谷の交渉は水面下で静かに進められたが、この米メディアの大騒ぎは十分に賑やかで、エンターテイメントだといえる。

 ちなみに大谷の犬の名前について、MLBネットワークの司会者グレッグ・アムシンガー氏は6日の放送の中で「事情通から聞いた話だが、オオタニの犬の名前は契約する球団と関係している可能性がある」と話していた。それが本当なら、名前を非公表にしたのも納得である。

文=水次祥子

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