2024年シーズンがマレーシア・セパンで幕を開けた。2月6日から3日間のテストを終えて、最終リザルトを見れば昨年の順位と大きな変化はなく、この数年圧倒的強さを誇っているドゥカティが上位4位までを独占。その4台ともに、セパン・インターナショナル・サーキットで初めて1分56秒台に入るという驚速ぶりだった。

 トップタイムをマークしたのは、ドゥカティワークスで2年連続チャンピオンを獲得したフランチェスコ・バニャイアで、自身のもつオールタイムレコード(1分57秒491)を1秒近く短縮するスーパーラップを刻んだ。それを追いかけるように、昨年、バニャイアと熾烈なタイトル争いを繰り広げたホルヘ・マルティン、そして、バニャイアのチームメートで昨年の怪我から完全復帰をアピールしたエネア・バスティアニーニが続く。4番手では、グレッシーニ・レーシングで2年目を迎えるアレックス・マルケスが1分57秒の壁を破った。

 タイトルを獲得した過去2年、圧倒的な強さを誇ってきたドゥカティは、次々にニューアイテムを投入して大きな注目を集めてきた。まさに現在のMotoGPクラスの空力戦争の火付け役であり、ライバル陣営もドゥカティの快進撃に刺激を受けて追随してきた。今年は「おっと、これは何?」というニューパーツこそ登場しなかったが、1分56秒台を次々マークしたドゥカティの実力は、ライバル陣営にとって驚き以外の何ものでもなかった。

緊迫のタイムアタック合戦

 今回のテストは午前10時から午後6時までの8時間で行われた。熱帯の国マレーシアでは、午後になると30℃を超える猛暑になるため、タイムを出しやすいのは午前10時から11時前後まで。新品タイヤ(スリック)の割り当てが3日間で6セットに決められていることもあり、この時間帯に新品を装着してアタックするというのが常識となっている。

 セッション開始から1時間ほど続く緊張のアタック合戦。これが1日の最大の見どころとなり、そのあとで通常のテストに入るというのが、ブリヂストン(2009年〜15年)、ミシュランと続いてきたタイヤの1社供給時代の常識となっている。

 今回のテストでは、初日、2日目と24年型デスモセディチGPのセットアップに集中してきたバニャイアが3日目に初のアタックに挑み、MotoGPクラスでは初めてセパンで1分56秒台に突入するライダーとなった。「まだテストだから」と謙遜しつつもバニャイアは次のように語った。

「今日の午前中は、24年型のバイクで初めてのタイムアタックを試みたが、本当にすばらしかった。56.6秒というタイムは信じられなかった。とても満足しているが、正直に言えば、これはテストにすぎない。でも、この3日間のテストには満足しているし、23年型に比べて大きな進歩を遂げた24年型のパフォーマンスにも満足している。パワー的にはまだまだ余裕があるので、カタールテストではその領域を試してみたい」

 バニャイアが初めてタイトルを獲得した22年シーズンは、ニューパーツのテストに明け暮れたこともあり、前半戦で厳しい戦いを強いられた。しかし、この年の後半戦からバイクがまとまり、圧倒的なアドバンテージを築いた。23年はドゥカティを走らせるチームが4チームとなってデータ量も豊富になり、マシンの開発はさらに進んだ。

 今回のテストで最新型はワークスチームとナンバー2チームのプラマックに供給され、上位3位までを最新スペックが独占。4番手のアレックス・マルケスと6番手のマルク・マルケスの兄弟は、23年型のチャンピオンマシンで続いた。

王者ドゥカティの進化のポイント

 24年型が大きく進化したのはブレーキングの安定性で、バニャイアは、23年型から大きく進歩した部分だと語る。その進化を最大限に生かして、鋭いブレーキングから深くバンクし、マシンを起こして加速する。しかし、テスト1日目、2日目は、随所で攻めの走りを見せながら、ワンラップでアタックをするということはなかった。そのため、1日のテストを終えての順位では「どうしたのだろう?」という声も上がっていたが、コーナーでの切り返しの速さなどでは24年型のドゥカティ・デスモセディチGPを誰よりも早く乗りこなしていることを感じさせた。

 やはり注目を集めたのは、ホンダからドゥカティに移籍したマルク・マルケス。初日9番手、2日目14番手と、終日、丁寧なライディングに努め、最終日3日目のアタックで一気に1分57秒270をマークして6番手に浮上した。アタックしたのはこの1回だけで、マルケスは再びセットアップを続けた。

 無理をしないブレーキング、本気走りではないことを物語るバンク角。しかし、そこからの立ち上がりではさすがの走りを見せてタイムを上げていく。初日の走行を終えたときに「フロントの安定性が十分ではなかった」と語っていたが、これは23年型デスモセディチGPのウイークポイントがフロントの安定性だったと語るバニャイアの言葉と一致する。しかし、タイムを追わず、着実にセットアップを進めたマルケスの走りは、開幕戦カタールGP以降に焦点を当てていることを感じさせるものだった。

 2020年の大怪我とホンダのマシンの低迷で、4年間タイトル争いとは無縁だったマルケスは、2月17日には31歳を迎える。最高峰クラス7回目のタイトルを獲得するための移籍という決断は、最高の走りが出来る時間が残り少なくなってきていることを自身も感じているからだろう。テストの舞台となったセパンは過去に優勝が2回だけという、絶対王者が苦手としてきたサーキットのひとつ。開幕戦カタールGPの舞台となるルサイルも優勝1回と苦手とするだけに、序盤は確実に走る作戦なのだろう。マルケスは2日目には参加ライダー中最多の72ラップを刻み、3日間で計173ラップを走行。さらにスプリント、決勝のレースシミュレーションもこなした。

 黙々と走るマルケス。怪我から復帰して思うように走れないとき、愛する祖父に「もういいんじゃないか」と引退を勧められた。そのときにマルケスは「おじいちゃん、もう1回だけチャンスをください」と語ったというが、その熱い思いがグレッシーニへの移籍という決断につながった。そして、猛暑の中を汗みどろになって走る姿からは、これまで通算8回のタイトルを獲得してきたライダーの底力が伝わってきた。

当初の目標は5位以内

「ホンダに乗っていたこの数年は例えば2回の走行で限界に達していたが、ドゥカティではもっと周回が必要だと感じている。ガレージにいては上達することは出来ないし、前進するためにも、たくさん走りたいと思った。疲れるし、暑いときはタイムもあがらない。でも、ラインを変えてみたり、いろいろ試してみることはあるからね」

 過去2年、勝利から遠ざかっているマルケスは、「周囲の自分への期待はわかっているが、いまタイトル争いを考えてスタートするのは現実的ではない。ペッコ(バニャイア)とホルヘ(マルティン)はとても速いし、彼らから学ぶことはたくさんある。まずは5位以内を目標に走る」と語る。

 だが、昨年のバレンシアテストを含め、ドゥカティに乗ってまだ4日目のマルケスの速さに、ライバルたちが脅威を感じていることは間違いない。

 今季初のマレーシアテストを終えて、今年は空力戦争が一段と過熱していることを感じた。ドゥカティに追いつけ追い越せと全力を注ぐアプリリアとKTM陣営は、F1で採用されている技術を投入して話題を集めている。そして、リザルト低迷で優遇措置を与えられているホンダとヤマハは、これまで以上にマシン開発に熱が入っているように感じた。

 3年連続タイトルを狙うドゥカティは正常進化という形だが、絶対王者マルケスの加入が、なによりの起爆剤となることは間違いない。次回のテストは開幕戦の舞台となるカタール。その結果が楽しみである。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo