今季、ホンダからドゥカティに乗り換えたマルク・マルケスが、開幕戦カタールGPをスプリント5位、決勝レース4位で終えた。ウインターテストでも、マルケスの順位はトップ5前後だったが、注目のデビュー戦もそのままの結果ということになった。

 ホンダ時代終盤に低迷する前のマルケスは、世界中のレースファンを何度も驚かせてきた。予測不可能というか予想をはるかに凌駕する走りでファンや関係者の度肝を抜き、「絶対王者」として世界の頂点に君臨してきた。そのマルケスが現在最強のドゥカティで臨んだ初レースだっただけに周囲は期待したが、意外と順当な結果に終わり、ある意味、拍子抜けの開幕戦となった。

 マルケスは予選を6番手で終えた。そして、土曜日に行われたスプリントでは序盤にポジションを落としたが、追い上げて5位でフィニッシュ。スプリントは昨年から始まったレースで、決勝の半分の距離で戦われる。こういう短期決戦的なレース、例えば悪天候などでマシンを乗り換える“フラッグ・トゥ・フラッグ”などで、従来のマルケスは圧倒的な速さを見せてきた。マシンのパフォーマンス不足に苦しんだこの数年のホンダ時代でさえ、スプリントで驚異的な走りを見せることもしばしばあった。そのマルケスが、大きな見せ場もなく5位でチェッカーを受けてしまったのだ。

全力でプッシュした

 日曜日の決勝レースでは、まずまずのスタートを切ってトップグループに加わった。中盤過ぎまでは表彰台獲得も期待させる走りだったが、後半は3位を走るホルヘ・マルティンを淡々と追撃する形で4位。ここでも「サプライズ」はなかった。

 決勝を走り終えたマルケスは、こうコメントした。

「開幕前から言っている通り、いまの自分の目標は6位以内になること。今大会も4、5人は自分より速いライダーがいた中で、スプリントでは5位、決勝レースは4位になれた。『もう少しで表彰台だったんじゃないか』と言われたが、結果に対してフラストレーションはまったく感じていない。なぜなら、スプリントも決勝も全力でプッシュしたし、それ以上に彼らは速かったからね」

 ここまでマルケスがドゥカティに乗った日数は、ウインターテストと開幕戦の3日間を含めて、わずか9日間である。それでも決勝となればマルケスらしい「サプライズ」に期待してしまうものだが、31歳になったマルケスは思いのほか慎重な走りを見せた。

 ライダーとしてピークの走りが出来る時間はそれほど多く残っていない。それだけに「もう失敗は許されない」という気持ちで今季に臨んでいるだろうことは容易に想像がつく。加えて、ルサイル・インターナショナル・サーキットで開催されるカタールGPは、MotoGPで12年目のシーズンを迎えるマルケスが、これまで一度しか優勝していない苦手なサーキットのひとつ。それを思えば、マルケスにとって開幕戦のリザルトは十分な結果だったのかも知れない。

 そんな現状をマルケスは冷静に分析した。

「まだ自分が望むような100%の状態で乗れているとは感じていないが、乗るたびに前進していることは間違いない。次のレースでどれくらい改善できるかを楽しみにしている」

型落ちマシンが抱える問題

 実際、スプリントでは、マルケスがフロントに課題を抱えていることは十分に見てとれた。現在のMotoGPクラスはイコールコンディション化し、1秒差以内で15台前後が争う大接戦があたりまえだが、そうした状況でもっとも重要になってくるのがブレーキングである。ブレーキを制するものがMotoGPを制すると言ってもいいのだが、まさにそのブレーキングでマルケスは精彩を欠いていた。

 決勝レースでもフロントに問題があり、マルケスが攻めきれなかったことは間違いない。加えて、「3位になったホルヘ(・マルティン)の方が、コーナー出口で自分よりうまい走りをしていた」と、表彰台争いをするためには、もう一歩前進する必要があるのだとも語った。

 表彰台にあと一歩に迫ったマルケスの走りを、果たしてどう評価すればいいのか。「年齢的にピークを過ぎた」「もう昔のマルクではない」と過去のライバルたちは分析するが、だからこそ「やっぱりマルケスはすごい」というサプライズを期待してしまうのは僕だけだろうか。

 カタールでのマルケスは23年型デスモセディチGP、つまり型落ちのマシンに乗り、そのベストタイムを1秒近く更新している。一方、昨季の王者フランチェスコ・バニャイアと総合2位のマルティンが「24年型はフロントの問題が解消した」と語り、最新型で大きくタイムを更新した。マシンの差はやはりブレーキング時の挙動にあるようだが、マルケスはその課題をどう解決するのだろうか。

 サテライトチームで走るここまでのマルケスは、ホンダワークス時代のように常にニューパーツをテストするわけではなく、ベストなセッティングを追求して走り込みに重点を置いている。

 それが第2戦ポルトガルGPでどんな走りにつながるのか。パドックでこんな話を聞いた。──マルケスはドゥカティ陣営に対して「自分はこう乗りたい」とリクエストしたが、「このままで乗ってほしい。その方が速いから」と言われた──本当ならば、ホンダ時代では考えられなかったチームの対応だ。

 かつての絶対王者もドゥカティ陣営に加わり、しかもサテライトチームとなれば、この扱いは当然のことかも知れない。しかし、マルケスがバニャイアやマルティンを凌ぐ走りを見せるようになったら、サポート体制にも変化が訪れるのかも知れない。

真価を発揮するのはアメリカズGP

 次戦の舞台となるアルガルベ・インターナショナル・サーキットは、アップダウンが激しく、ブラインドコーナーの多いレイアウト。本来ならマルケスの強さが際立つコースだけに、カタールGPからどれだけ進化した走りを見せてくれるのかに注目が集まる。そして第3戦アメリカズGPはマルケスが得意中の得意とするCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)での開催。マルケスがドゥカティ初優勝を遂げるとしたら、その舞台はかなりの確率でアメリカズGPだろうと僕は予想する。

 開幕戦の拍子抜けといえる結果を、僕は「これもまたマルケスのサプライズ」だと見ているのだが、元・絶対王者が真価を発揮するのはこれからの戦いである。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo