大谷翔平は、なぜこれほどまでに愛されキャラなのか。

 投打の二刀流としてメジャー史上でも類を見ないレベルで活躍し、打者に専念すれば前人未到の「50本塁打、50盗塁」という歴史的快挙を達成するなど、まるでフィクションのような世界を見せてくれる存在。加えてフィールドではゴミを拾い、打席に入るときには帽子に手を掛けて敵の監督に向かってお辞儀をし、塁に出れば敵の野手とのコミュニケーションで満面の笑みを見せる。ファンにとっても敵チームにとっても、そのすべてが愛され要素だ。

みんなは、本当のショウヘイを知らない

 だが、外から誰もが見られるそうした部分ではなく、ほとんどの人の目には触れない、球場の裏側で見せる「素の姿」に本当の大谷の魅力があると語る人々がいる。大谷とともに戦うコーチたちだ。

「みんなは、本当のショウヘイを知らない」

 そう言ったのはドジャースのディノ・イーベル三塁コーチだ。今年11月に東京ドームで行われた世界野球プレミア12のスーパーラウンドで、米国代表の三塁コーチとして来日したときのことだ。2006年から18年までエンゼルスでコーチを務め大谷のメジャー1年目をそばで見てきたイーベル・コーチは、19年からドジャースに移り、大谷がドジャースに移籍してきて再び一緒になった。

証言1)「これほど努力するとは…」

「これまで多くのスター選手を見てきた。マイク・トラウト、アルバート・プホルス、ウラジーミル・ゲレロSr.……。殿堂入りを果たした、または将来確実に殿堂入りするクラスのエリート選手たちだ。しかし、ショウヘイはそうしたスター選手とも違う。彼が毎日、どれだけのトレーニングに取り組み、ルーティーンに時間をかけ、打席に入るまでにどれほどの準備を積み重ねているかを見てきた。そして投手として復帰する来季は、ブルペンにも入り、投手としての取り組みも加わる」

 イーベル・コーチはそう話し、さらにつづけた。

「彼が毎日ウエイトルームで、驚くほどの練習量を驚くほどの熱量でこなしているのを見ていると、本当に驚愕するんだ。多くの人は、彼がどれだけのことをやっているか知らないだろう。ルーティーンは徹底しているし、一瞬も休むことなく体を動かし続けている。もちろん練習熱心な選手を挙げれば、ムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンや、他にもたくさんいる。だがショウヘイはやっぱり特別だ。メジャーで打者としても、投手としても結果を出すのは大変なことだ。その両方をやるために努力をしている彼を見るのは、私のようなコーチにとっては、衝撃的なんだ」

証言2)「なぜ59盗塁?」ウラ側

 今季までドジャースの一塁コーチを務め今オフにマーリンズ監督に就任したクレイトン・マッカロー氏も、誰も知らない大谷の別の一面を語っていた。試合中に大谷が一塁に出たとき、互いのヘルメットをコツンとぶつけ合うシーンでお馴染みのあのコーチだ。大谷が今年のスプリングトレーニングから走力アップを目指してトレーニングを積み、盗塁の数を59と大きく伸ばしたが、それをサポートしてきたのがマッカロー氏だった。マーリンズ監督就任が発表された後、米専門テレビ局MLBネットワークのインタビューで大谷と二人三脚で取り組んだシーズンを振り返っていた。

「スプリングトレーニングが始まってからすぐに、とにかく盗塁のスキルに関して今より一段レベルを上げたいという話になった。この男は本当に野球のことで頭がいっぱいなんだなと思ったね。シーズンが進むにつれて、彼と私はパートナーのような関係になった」

 走塁トレーニングに取り組む大谷をそばで見続けてきたマッカロー氏は、大谷の際限のない練習量に驚き、その洞察力や思考の深さに魅了されたという。

「走塁の練習量は、本当にすごかった。彼と一緒に作業をしていると、私が彼を手助けしているというより、彼が私をコーチとして遥かにレベルアップさせてくれていると感じたよ。彼と一緒にビデオを見ながら、投手としての彼の視点を聞くのはかなり面白かった。例えば投手が投球動作に入るときやけん制球を投げるときの体の動き、それを見分ける方法が、独特で新鮮だった。そんなショウヘイが残した2024年シーズンの成績は、彼なら当然というべきものだ」

大谷から贈られた“1枚の写真”

 1年間だったが大谷と強い絆を築き上げたマッカロー氏は、チームを去る前に、大谷から特別のギフトを受け取ったという。2人のトレードマークともなったヘルメットをコツンとしている場面の写真に大谷のサインが入った一枚だった。

「実にカッコいい写真でね。レギュラーシーズンが終わったときに、この写真にサインを入れてくれないかと彼に頼んでおいたんだ。いつまでも大事にしておきたい記念の品になった」

 マッカロー氏にとっては、大谷と築いた関係が、それほど特別なものだった。

証言3)「いつもニコニコ…気分下がらない」

 もう1人、ドジャースのGM特別補佐でコーチとして指導にもかかわっているロン・レネキー氏が、シーズン後に大谷の移籍1年目を語ってくれた。イーベル・コーチとともにプレミア12の米国代表ベンチコーチとして11月に来日していたときだ。同氏はスプリングトレーニング中に大谷が「40本塁打、40盗塁」を達成するのではないかと予想していたが、実際にシーズンを終えてみるとそれを遥かに超える54本塁打、59盗塁で「50−50」の偉業を成し遂げた。

「盗塁数をここまで伸ばしたことには正直、驚いた。数多く盗塁するというのは、簡単にできることではないんだ。彼には才能はもちろんあるけれど、どれだけ努力してきたかということ。ア・リーグでは投打の二刀流でMVPに輝き、投手と打者どちらのオオタニがより優れているかという議論も起こったが、移籍1年目で右肘手術からのリハビリをしながら打者という役割だけでMVPに輝いたことはすごいことだ。誰も知らないところで、彼はとんでもないほどの時間を練習と研究に費やしている。だから彼が何を成し遂げても驚かない」

 大谷のどこが一番好きかと聞いてみると、レネキー氏はこう答えた。

「どんなときでもニコニコしているところ。気分を下げるということがないんだ。その日の試合で思うような打撃ができなかったときでも、気持ちを切り替えて終わった試合はすぐに忘れるのがショウヘイだよ」

 人目には届かない球場の裏側の素の大谷も、やはり愛されキャラだった。

文=水次祥子

photograph by Getty Images