世界スーパーバンタム級4冠王者・井上尚弥(大橋)に挑む“韓国からの刺客”はいったいどんなボクサーなのか。負傷で出場が叶わなくなったサム・グッドマン(豪州)に代わり、1月24日、有明アリーナで“モンスター”と対戦する代役挑戦者はWBO同級11位のキム・イェジュン。“トラブルメイカー”の異名を持つ32歳は21勝(13KO)2敗2分という戦績を積み上げてきた。
約2週間前に慌ただしく決まった世界初挑戦にもかかわらず、キムは世紀の大番狂わせに向けて意欲満々。日本時間1月20日に行った電話インタビューでも、全階級を通じて最高級の評価を得る王者に挑戦できる喜びと自信を静かに語ってくれた。
日本人ボクサーは戦いやすい
――井上戦の決定後は忙しかったと思いますが、今の調子はいかがでしょう? スーパーバンタム級の規定体重を作るためのウェイトコントロールはうまくいっていますか?
キム・イェジュン(以下、YK)調子はとてもいいですよ。コンディションはよく、いい気分でトレーニングを締めくくれました。あとはリング上で力を出すだけです。もともと1月24日のアンダーカードに出場する予定だったので、考えていた通りに体重も落とせています。100%、スーパーバンタム級のリミットは守れます。計量に関しては心配はいりません。
――あなたは過去に日本でも2戦を行っていますが、来日は何度目なのでしょう?
YK もう日本は何度も訪れています。これで7、8回目だったと思います。ご存じの通り、日本リングで試合もこなしてきましたし、トレーニング、スパーリングのために来日したこともあります。
――日本人ボクサーに対して7戦全勝というあなたの戦績は注目されています。自身を“日本人キラー”たらしめている理由をどう説明しますか?
YK 日本人のボクサーは皆、よく似たスタイルで戦うことが大きいのだと思います。ほとんどの日本人ボクサーはアマチュアの影響を感じさせる少し突っ立ったスタイル。それでいて好戦的でもあるので、私の戦い方とうまくフィットするのでしょう。日本人のファイトスタイルは私には戦いやすいんです。
――井上は日本人ボクサーの中でも突出した実績を残してきました。井上の映像も見てきたと思いますが、その素晴らしさとはどこにあるのでしょうか?
YK 井上のスタイルも他の日本人選手たちと同じだというのが私の認識です。ただ、彼はすごいパワーを持っていますね。フィジカルが強いし、パワーは飛び抜けています。先ほども言ったように、日本人ボクサーはアマチュアで仕込まれた突っ立ち気味のスタイルですが、井上の場合はそれにパワーがプラスされるのです。それでも私の方がよりパワーはあり、その点がこの試合の鍵だと思っています。
――もともとオーソドックススタンスですが、今ではスイッチヒッター、主にサウスポーとして戦っています。トップボクサーの中でもかなりの異例のこの変化の経緯を改めて話してもらえますか?
YK もともと右利きなので、依然としてオーソドックススタンスでも自信を持って戦えます。ただ、これまで話してきた通り、2021年に右肩腱板の手術を受けた後、スタンスを変える決断をしたんです。今ではサウスポーとして快適に戦っています。
――井上相手にもサウスポーで戦うつもりでしょうか?
YK その通りです。
井上尚弥に勝つにはKOが必要
2012年2月にプロデビューしたキムは、2戦目で早くも黒星を喫し、最初の7戦を終えたところで4勝(1KO)1敗2分。アマキャリアもないゆえに無名であり続けたが、それでも地道に力を蓄えてきた。特に2022年以降はメキシコ、アメリカ、オーストラリア、タイと転戦し、ここで日本でのビッグファイトに漕ぎ着けた。
国外での試合経験も豊富とあって、英語力はコミュニケーションを取るには十分。来日後のメディアイベントは通訳を同伴していたが、今回のインタビューは通訳なしで直接対応してくれた。さまざまな意味でたくましさを感じさせる叩き上げのコリアンファイター。世界レベルの力を持っているかはまだ未知数ではあるものの、少なくとも敵地での大舞台でも臆することなく力を出せることは間違いないのだろう。
――今回、日本のリングで日本のスーパースターと戦うことになりました。井上に勝つにはKOが必要だと考えていますか?
YK 私が勝つには井上をKOしなければならないでしょう。それが今戦における私の目標であり、勝利のためのプランでもあります。
――細かいファイトプランはここでは明かせないとは思いますが、どう戦うつもりかのイメージを話していただけますか?
YK アグレッシブに攻めるつもりです。井上の正面に立ち、真っ向から打ち合います。激闘(War)と呼べる戦いになるでしょう。井上の試合は間違いなく激闘になるだろうと私は感じています。
――両親がおらず、孤児として施設で育ったというあなたの人生は日本のファンにも知られるようになりました。その中でなぜボクシングを始めようと思ったのですか?
YK シンプルに強くなりたかったからです。両親がいなかった私は施設で育ち、子供の頃、身体が小さかったがために他の生徒たちにいじめられたことがありました。そんな経緯から、19歳で施設を出た後、ボクシングを始めたんです。(注:他のインタビューでは「お金を稼ぎたかった」とも話しているが、ここでは「強さ」への渇望だけを強調していた)
――幼少期に好きだった選手は?
YK マニー・パッキャオです。
――映像などをよく見るボクサーはいますか?
YK 現在のフェイバリット・ファイターはテレンス・クロフォードです。彼もスイッチヒッターですからね。だからクロフォードの映像はよく見ます。試合だけでなく、トレーニング、キャンプの様子、スパーリングでの姿など、クロフォードのビデオは何でも見てきました。
目標は「韓国初の3階級制覇」
――ボクサーとしての最終目標は?
YK これまで世界王者を目標に戦い続けてきました。夢を叶えて世界王者になったとしたら、その後はフェザー級、スーパーフェザー級も制したいです。過去に3階級を制した韓国人ボクサーはいません。だから私は母国初の3階級制覇を成し遂げ、韓国ボクシングの歴史を塗り替えたいんです。
――韓国では世界王者がしばらく生まれていません。母国のボクシング人気をもっと上げたいという思いはあるのでしょうか?
YK 私が世界王者になれば、韓国でもボクシングはもっと人気になるはずです。特に井上のような世界王者に勝ったとなれば、それはなおさらです。
◆前編では、スパーリングパートナーとしてキム・イェジュンと対峙したジェイソン・モロニーのインタビューを掲載中。井上尚弥とも対戦経験がある実力者の言葉は、“ナゾの韓国人ボクサー”を知る上で貴重な証言となっている。
文=杉浦大介
photograph by Mike Altamura


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