アジア人で初となるMLB殿堂入りが決まったイチロー氏。現役引退後、高校生など若い世代への啓発にも力を入れている同氏が昨年指導に訪れたのが、大阪の府立大冠高校だ。レジェンドとの交流の中で、選手たちは何を学んだのだろうか。《NumberWebインタビュー全2回の1回目/つづきを読む》

 2020年から始まったイチロー氏による高校野球訪問指導。最初に訪問した智弁和歌山に始まり、北は北海道、南は沖縄まで公立高校や私立高校など多くの高校を渡り、“イチロー節”も交え、身振り手振りで指導に当たる姿は、ニュースが流れるたびに話題となっている。

 そして5年目となった2024年。11月にイチロー氏が訪問したのは大阪・大冠高校だった。

 大冠高校は17年夏の大阪大会の決勝で大阪桐蔭を終盤までジワジワと追い詰めるも、あと一歩届かず準優勝に終わった。だが、その戦いで見せつけた力強いスイングに大きな注目が集まった府立屈指の実力校だ。

イチロー氏が指導に訪れたいきさつは?

 電撃指導が実現した経緯を97年から同校の指導にあたる東山宏司監督はこう明かす。

「2023年の12月にウチと何度も練習試合をしている沖縄の宮古高校にイチローさんが指導に行かれたことを知って、監督にその経緯を電話で聞いたんです。まず、選手が手紙を出して実現したということで、手紙の送り先なども教えてもらって。昨年度の1、2年生で手紙を書いて出して、1年くらいしてから実現しました」。

 手紙の内容は「大阪の公立でも本気で甲子園を目指したい」。ただ、手紙を出したからといって100%指導に来てもらえる訳ではなく、そこに至るまでは関係者とのやり取りやチームの状況を見てもらうのだが「その本気度を厳しい目で見たい」というイチロー氏側の思いが判断の決め手になったという。

 11月9日、10日と2日間にわたるイチロー氏による指導は実に濃密な時間だった。

 1日目は実技がメイン。下半身の使い方や股関節の使い方などをイチロー氏が選手たちに自身の動作を見せ、細かく説いていく。

「走る時も守備でのスタートやバッティングも、股関節の動きが元になっていると。股関節が一番重要だと言い続けていました。野球の理屈からしたらそうですよね」

 今年で63歳になるベテランの東山監督も、イチロー氏の一挙一動に目が釘付けになったという。

「イチロー氏のボールは最後まで伸びていましたし、どれだけ投げてもバテていなかった。見ていても下(半身)を使ってちゃんと投げているのが分かる投げ方で。51歳でも飛距離はまだ伸びているそうです。さすがです」

 イチロー氏がオリックス、マリナーズなど国内外で躍動した映像はリアルタイムでは見ていないが、主将の加藤日向もやはりイチロー氏の存在感に圧倒されていた。

「普通なら手が届かない存在の方が僕たちに指導してくれるのかと、最初は半信半疑でした。イチローさんは僕のお父さんと同じくらいの年なのに、動きが全く違っていて。バッティングではスイングの強さがすごくて、51歳には見えませんでした。

 身体の使い方など、イチローさんからは色んなことを教えていただきました。いつも監督さんから股関節を使うことの大事さを言われていましたが、イチローさんからも同じことを言われて、気づかされることも多かったです。下半身に重点を置いて投げる、打つことを徹底するようになって、球の伸びが変わりましたし、今までは球が垂れていたのに垂れなくなったんです」

大冠ナインの心に刺さった「金言」

 実技以外にもイチロー氏との“ミーティング”の時間もあった。

 選手側からの質問事項を事前に整理し、イチロー氏に問いかけた。その中でやはり球児たちの心に刺さったのは、心構えについての金言の数々だった。

<次回へつづく>

文=沢井史

photograph by JIJI PRESS