ニルス・ニールセン新監督が就任した新生なでしこジャパンが米国で開催されたシービリーブスカップ優勝で選手たちが手に入れた収穫と、覚醒の気配を感じさせる証言とは。〈全3回の3回目/第2回も〉

 なでしこジャパン、シービリーブスカップ数日後に実施されたオンライン取材で、DF北川ひかる――表彰式後には長谷川唯に後ろから抱きつかれながら、優勝カップを手に笑顔だった――が、新監督ニルス・ニールセンの印象について問われると、こう話した。

「非常にポジティブな会話ができていて。個人的にも今後、よりいい選手になるためにこうしていかなきゃいけない……とモチベーションが上がるものでもありました」

「勇敢に主導権を」とともに興味深いチーム構築

 昨夏からのスウェーデンでの日々や今大会を振り返るとともに、テーマとなったのはニルス監督がどんな人となりか、である。冒頭の北川の言葉から汲み取れるのは、前向きな声掛けと積極的な関与。それは、大会期間中の取材に応じた選手たちの声と通じるものだった。

「“自分を信じてプレーする”というところをすごく言われていました」(宝田沙織)
「すごく積極的にコミュニケーションを取ってくれます」(谷川萌々子)

 今大会のなでしこジャパンは3試合通じてニールセン監督が繰り返し表現する「勇敢に戦う」、「主導権を握る」スタイルを貫いた。左サイドバックとしてプレーした北川も、高い位置を取って攻撃的な姿勢を見せるシーンが多かったのは象徴的な現象である。

 それと同時に興味深いのは、新監督のチームビルディングについて。新体制立ち上げからハッキリと可視化できる、興味深い映像として残っているからだ。

貴女たちはタフなので他のみんなより…

「I know……」(貴女のことは知っているよ)

 こんな言葉とともに、なでしこジャパンの宿泊先のホテルで待ち受けていたのは、新監督のニルス・ニールセンだった。

 JFAの公式チャンネルがYouTubeにアップロードする「Team Cam」では各代表の活動の様子が配信されているが、久々の優勝を果たすことになるシービリーブスカップでの代表活動開始時、ニールセン監督はWEリーグ所属の日本勢やヨーロッパ各国から合流した選手たちを迎え入れる様子を配信していた。高橋はなや長谷川唯といった選手はもちろん、コーチのリア・ブレイニーらと1人ずつ笑顔で握手を交わし、声をかけていく。

 そんな紳士的な笑顔ののち、初の屋外トレーニング前のミーティングで、先に合流した数人の選手に対してデンマーク人指揮官はこう声をかけた。

「貴女たちは全員タフなので、(合流タイミングが後発だった)みんなより1回トレーニングが多いです」

 この言葉に、自然と選手たちは「フーッ!」と湧き立った。

ホワイトボードに記された、ぎこちない〈ようこそ〉

 さらに練習後のチームミーティングでのこと。

「Welcome to everybody!」

 そんな英語を口にするととも、にホワイトボードには――ぎこちない手つきで書かれた、ひらがな4文字が。

〈ようこそ〉

「ここに書いてあること分かりますか? 頑張って日本語を練習しているところです」

 いわゆるアイスブレイクから入りつつ、次のターゲットとして「再び女子W杯を優勝する」こと、「チームにその能力が秘められている」こと。そのためには「お互い、私たちを信じあうこと」を強調した。

 ここで再び、北川の言葉である。パリ五輪までとこれまでの違いについて問われると、「自分たちがやることを変えたっていうのは、すごい変わったっていうわけでもなくて」と前置きしつつ、このように話している。

「相手をリスペクトするんですけど、自分たちは自信をさらに持って勇敢にプレーしよう。そのような監督のメンタル面に対するサポートは、個人的にはとても大きいのかなと感じています。試合前も含めて常々、勇敢に戦うこと、自分たちの強みは素晴らしいんだ、というところを常々伝えてくれています」

北川「『IDP』という形でこれから…」

 主導権を握るためにミスを恐れず積極的にプレーすること、信頼し合うこと。それに加えて、新生なでしこジャパンの今後を見ていくにあたっての興味深いワードは、もう1つある。

 北川は最後に、このような話をしていた。

「今回から『IDP(Individual Development Plan)』という形で、個人個人の戦術をしっかり伸ばしていこうと。それぞれ課題は与えられているというか……これから与えられる形なんですが。自分たちのクラブでやっている時も、しっかりと継続してトレーニングしてほしいということです」

 戦術と言えばポゼッションの仕組みや最終ライン統率など、チーム全体やポジションごとのユニットについて着目されることが多い。ただW杯出場に王手をかけている男子日本代表を見てわかる通り、最終的に局面を打開するのは三笘薫や久保建英、遠藤航らヨーロッパ各国のクラブで個人戦術に磨きをかけつつ、自分のストロングポイントを出している選手である。

 なでしこジャパンの中核メンバーはマンチェスター・シティを筆頭に、イングランド、ドイツ、アメリカなど各国の名の通ったクラブに所属している。その上でJFAの『Japan's Way』にも記されている「IDP=個人育成プラン」を導入することによって、各所属クラブで課題改善に臨むようだ。

2015年以来のトップ5入りを果たしたことで

 シービリーブスカップ優勝を受けて、なでしこジャパンは2015年以来となるFIFAランキングトップ5返り咲きを果たした。「チャレンジせずに、失敗しないっていうのはダメだと伝えられた」とは第1回などで触れた古賀塔子の言葉だが――53歳のデンマーク人指揮官とともに歩む新たなアプローチは、日本サッカーの新たな実験と言えるかもしれない。〈第1回からつづく〉

文=NumberWeb編集部

photograph by JFA/AFLO