東京を出発して三重県志摩市へ。距離およそ500kmをともにするのに選んだのはポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモ。初代970に続く2代目として発表された971のステーションワゴンタイプだ。目的地はアマネム。ともに2016年を誕生年とし、成熟期を迎えつつある両者をあらためて振り返ると、誕生の頃の鮮烈な印象の裏に隠れていた本当の魅力に気づかされた。

観光案内にはしばしば"伊勢志摩"として紹介されているものの、伊勢志摩は伊勢と志摩という、歴史的にも地理的にも文化さえまったく異なるふたつの地区を指している。むしろこの地域の魅力は異なる二つの文化と風土が楽しめることにあるのだそうだ。
 
広大な伊勢平野の南端に位置し、外に対して開いた地である伊勢地区に対して、志摩地区は伊勢神宮の奥の院と称される朝熊山などの山々に隔てられた、山と海の地である。当然地域が果たす役割も大きく違い、神宮を中心に観光都市として発展したのが伊勢地区とすると、温暖な気候とリアス式海岸がもたらす豊富な食材で伊勢の参詣者の胃袋を満たす役割を担ってきたのが志摩地区といえる。



さらにこの地は美しい・美味しいを意味する「うまし国」とも評され、海の幸・山の幸に恵まれた、美食の地としても広く知られているが、この「うまし国」が指すのが志摩地区と言えるだろう。とはいえ、観光地としての伊勢と、食材提供地としての志摩を比べると、伊勢に陽の目が当たるのは致し方のないこと。昭和40 年代の国内観光ブーム時には、隣接する鳥羽地区とともに滞在型リゾートとしてにわかに注目を浴び、別荘地としても注目されたようだが、以降特筆する話題もないままの時間が長く続いたように思われる。

志摩地区があらためて現代の滞在型ラグジュアリー・リゾート地としての存在感を示すようになるきっかけは2016年のアマネムの開業だろう。アマンが欲したのは日本を象徴する歴史と風土、豊かな自然と、そこで獲れる食材を使った食文化だった。おそらくそんなアマンをして、伊勢神宮の深い森と山の背後に位置し、法的に守られた自然があり、日本でも有数の豊かな食文化が残る志摩は理想の地であったに違いない。



そういう意味では(現在でこそ当たり前とされながら)新しいラグジュアリー・リゾートの定義を作り上げてきたアマンによって、志摩の魅力は再発見されたとも言えるだろう。ともかく、伊勢志摩国立公園内に位置し、英虞(あご)湾を望む自然豊かな地での開業は、まさにアマン・ジャーニーを体現するホテルとして話題となり、以降日本のラグジュアリー・リゾートのベンチマークとして、国内外のゲストを惹きつけ、予約の取れないホテルとして人気を博してきたのは周知の通りだ。


 
取材当日は九州地方を北上する台風がもたらした散り散りながらも巨大な雨雲による強烈な雨と、突如戻ってくる晩夏の日差しが交互に訪れる騒がしい日だった。雨の中をアマネムに到着し、印象的なレセプションに車を横付けすると、幸いにも日差しが戻ってきた。故ケリー・ヒルによる屋根2:開口部1という平屋造りのこの建物群にとっては、むしろ雨上がりのしっとりとした佇まいが相応しい。ケリー・ヒルが手掛けた多くのアマンの建築同様に、すべての棟は自然のなかに溶け込むように設計され、また多くの日本家屋がそうであるように直接的な光よりも影を生かした間接光を生かすように作られている。だからだろうか、アマネムは雨の滴でさえも日本の四季を楽しむための装置と感じさせてくれる。このレセプションエリア500kmに及ぶグランドツーリングの先にある理想の「癒し」とも言えそうだ。


 
そんなアマネムにこの春、今回の旅の目的のひとつである新たなヴィラ「ツキヴィラ」がオープンした。アマネムは現在24 室のスイートに加え、英虞湾を借景にした「ナギヴィラ」、主に常緑樹の庭と海をともに楽しめる「ソラヴィラ」、国立公園の緑の中に包まれる「モリヴィラ」があり、この「ツキヴィラ」によって4種のヴィラを有することになる。ヴィラの基本レイアウトはどれもほぼ統一されており、リビングダイニングとキッチンを中央部に、両側対称に2ベッドルームに2バスルーム。それぞれのヴィラの違いはおもに庭の広さと借景によって変えられている。中でも「ツキヴィラ」は敷地面積が1586㎡、延床面積381㎡と施設最大の広さとなり、その他のヴィラと比してさらに広く、東屋に露天風呂と内風呂を付帯させた「Onsen HANARE 」という「ツキヴィラ」にしかない施設も併設されている。アマネムはその施設に巨大なアマン・スパと呼ばれる温泉のあるウエルネスセラピー施設をもち、「パーソナル ウエルネス イマージョン」と呼ばれる、アマンのなかでも限られたリゾートでしか提供していないプログラムを実施している。



これはゲストひとりひとりの心身の状態に合わせて食事の管理からトリートメントやメディテーション、フィジカルトレーニングを一貫して行うというもので、基本的には3泊4日で組み立てられるのだが、この「ツキヴィラ」に宿泊すれば中、外、そしてスパと、温泉による究極のリラクゼーションが体現できるというわけだ。
 


このように包括的ウエルネスリゾートとしての側面をもちながら、地産地消を徹底させた食事の数々が素晴らしい。メニューは季節によって変わるものの、参考までにとご用意いただいた"伊勢志摩盛り"は伊勢海老、鮑、サザエ、カツオなどから地元でも逸品とされる答志島のトロサワラなど、伊勢志摩近郊の海の幸で贅の限りを尽くした盛り合わせ。他にも料理長こだわりの陶器にのせ、地元産の炭で焼いた雲丹とトリュフと松坂牛の3品炭火焼きなど、地域と連携した食材で「うまし国」のもてなしだ。



伊勢神宮のお膝元でいただくことを念頭にした朝食は"和箱朝食" と命名され、特製の白木の小箱に納められ静謐な面持ち。松坂牛のしぐれ煮、酸味の少ない伊勢たくあん、真珠貝(あこや貝)の貝柱のあぶり、嬉野町の豆乳を使った豆腐料理などなど。釜炊きの熊野古道米と戻り鰹のたたきのお茶漬けをいただく頃にはすでに腹九分を超えているほど。ところで今回は撮影用にヴィラならではの特別なサービスも用意していただいた。今までも隣接するネムリゾートとの連携のもと、海辺でのランチサービスなどゲストの要望に応えてきたが、これからの季節は広大な中庭で秋風とともに楽しむ「ガーデンピクニック」がオススメだそうだ。



アマネムのゲストの9割以上が車による来訪だという。そのため連泊されるゲストの大半は近隣のドライブルートやアクティビティを積極的に楽しむ傾向にあるそうで、アマネムでも伊勢神宮への特別参拝やユネスコ世界遺産にも指定された熊野古道案内、現役海女さんの休憩所である海女小屋での食事体験など様々に地域と連携したアクティビティを紹介している。純粋にドライブや景色を楽しみたいというゲストには、海沿いの海岸道路を伝いながら今も昭和初期の漁港の名残を残す大王崎へと向かうルートと、観光道路として整備された海を見下ろしながら山間を鳥羽・二見エリアに抜けるルートなど、地元在住のスタッフだから知りうるルートを紹介してくれる。


 
午前中の雨はすっかり遠のき、晩夏の強い日差しが戻ってきている。コンシェルジュに伺うと近隣に海水浴場があり、そこは地区では唯一砂浜に車を乗り入れることができるという。アマネムからは車で20数分の場所だ。他にも志摩の独特の海岸を一望できる横山展望台、そこから地元ではよく知られたパールロードというワインディングも車好きには人気のルートだという。この様子は掲載写真のとおりだ。
 
ポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモで走った距離は1083kmになった。1泊2日としては十分走った方だろうと思うが、結論から言えば、この車を選択したことは間違いなかった。例えばこのスポーツツーリスモならではのリヤハッチの使い勝手は本当によかった。今回の撮影でフォトグラファーは大きなふたつのバッグと三脚の乗降を繰り返したが、ハッチの空きシロ、間口の広さともに、ストレスなく使用できた。走りに関しては高速道路ではノンターボエンジンによるゆったりとしたクルージング感が際立った。発表当初は少々気になった脚回りの硬さはまったく消え失せ、しなやかさが際立った。ステアリングやシートには嫌な微振動も一切なく、間接的な走行ストレスは皆無。運転支援システムはほぼすべての支援機能を搭載、加減速にブレーキなどはまったく問題ないものの、レーンキーピングアシスト機能だけはもう少しレーン中央をキープしてほしいと思った。ただ、この車にネガティブファクターを探すのは難しいかもしれない。


 
開業から4年が過ぎたアマネムはヴィラほか施設の充実を計りながら、地域との連携などによるアクティビティも充足しつつあるようだ。撮影に立ち会ってくれた副総支配人はそれでも「まだまだ植栽が細いですね、あと5年はかかります」と謙遜する。

ポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモはグランドツアラーとしての完成度の高さを思い知った。これは都内を縫うように走っていてもその真価は体感できない「走る」ための車だ。去る8月末にワールドプレミアされた改良新型モデルは、さらに魅力を増しているだろう。伊勢志摩の魅力も然り。文化も風土も時間をかけて育まれていくものだとするならば、そこに作られる場、そこを訪ねる道具もやはり、時間をかけて作り込まれていくものが相応しいことは間違いない。



ポルシェ・パナメーラ GTS スポーツツーリスモ
ボディサイズ:5050×1935×1420mm 重量:2080kg
駆動方式:フロントエンジン4輪駆動 変速機:8速PDK
エンジン:V型8気筒ツインターボ 排気量:3996cc
最高出力:460ps/ 6000 - 6500rpm 最大トルク:620Nm/1800-4500rpm
車両価格:1988万円(オプション装着参考:2846万円)
URL:https://www.porsche.com/japan/jp/


アマネム
〒517-0403 三重県志摩市浜島町迫子2165
TEL:0599 - 52 - 5000 FAX:0599 - 52 - 5001
MAIL:amanemu.res@aman.com
URL:https://www.aman.com/ja-jp/resorts/amanemu