毎日乗るラグジュアリー・クーペ。
「フェラーリ・ローマに乗ってみませんか?」『イタリアの美の遺伝子』の記事を書いて直ぐにオファーをいただいた。

2つ返事でOKした。なんといっても、「世界最強ブランド」のフェラーリが2019年にリリースした最新モデルのラグジュアリー・クーペなのだ。イタリア大統領が視察したほどなのだから、同社の自信もうかがえる。

とはいえ、一抹の不安もあった。ファンタスティックとは言えない自分の運転スキルに、仕事や買い物の街乗りが多いライフスタイル。今回は試乗だ。「運転好きのための高性能GT」をレポートするにあたり、いささか躊躇があった。



ところが、フェラーリ・ローマは、そんな懸念を抱いている人こそが日常的に乗るクーペとしてデザインされたという。さらに運転に長けたベテラン編集者のKさんがガイドしてくれるから大丈夫、今回は女性からの目線でのレポートをそのままくださいと後押しされて、当日を迎えた。

結果、たった3時間のドライブで懸念は完全に吹き飛ばされた!フェラーリ・ローマは、私の中の眠れる跳ね馬を揺り起こした。街乗りもグランツーリズモもシームレスに楽しめる「スポーティなドライビング」に目覚めてしまったのだ。


「いい感じ!」第一印象は常に正しい。
昼間の東京・港区、六本木。間近で見るフェラーリ・ローマは、街に溶け込んでいた。装飾を思い切って省いたクリーンな姿からは、ただならぬ気品が漂っている。低めのボンネット、ロングノーズからテールまでの流れるようなラインは、ミロのヴィーナスかミケランジェロのダビデ像のような断固とした存在感だが、つい触りたくなるようなセクシーな柔らかさを兼ね備えている。これこそ、イタリア・美の遺伝子である。

イタリア・美の遺伝子 フェラーリ・ローマ

62年にパリでデビューした250GTベルリネッタ・ルッソなどフェラーリのグランツーリズモを知る人ならば、新たに生まれ変わったクラシックに乗ってみたい好奇心を抑えられないだろう。エクステリアと同様、メカニックも伝統を踏襲しながら最先端にパワフルだ。3.9L・V8ツインターボエンジンをフロントミドに積んだ後輪駆動。

そして、今日の試乗車はロッソ(赤)!知らず知らずのうちに、テンションが上がる。一見フェラーリとわからない抑制のきいたスタイリングに人知れずほくそ笑む塩梅が程よい。

プッシュ式のドアが、軽やかに開いた。途端にローマと自分の周波数が自然に合ってくるのを感じる。デュアルコックピットに滑り込むと、レザーシートにしっくりと体がはまった。自分のサイズに合わせたオートクチュールのスーツに包まれたかのような一体感だ。

「いい感じ!」

人も自動車も第一印象が常に正しい。予感はすぐに確信に変わった。

優雅に流せる街乗り。
いざ、スタータースイッチにタッチしてV8エンジンを起動し、東京タワーへ向かおう。車で混み合った東京都心では、高性能GTのパワーを享受する機会はまるでない。ところが、ラヴェルの『ボレロ』を聴いてるかのようなV8の音をBGMに、ゆったり走る景色も悪くない。ローマは街乗りのために作られたかのように流せる。

感覚に慣れてきたところで、一路、首都高から東名に乗り、青葉台の「寺家ふるさと村」に向かった。晩秋の田舎道をローマと一緒に走りたい。そんな肌馴染みを覚え始めていたのだ。


パートナーやバディと運転を互いにするも良し。
高速をベテランKさんに運転を任せて助手席に座ると、また新しいローマの顔が見えてきた。いつものフェラーリのドライバー優先設計とは異なり、ローマの運転席と助手席空間は、ほぼ均等に設計されている。つまり、体験は二等分。これが思いの外、いい。

具体的に見ていこう。ローマの運転席はまるで宇宙船の司令室だ。最新フェラーリらしくフルデジタル化されている。液晶ディスプレイメーター、ステアリングホイール、ダッシュボード中央に縦型ディスプレイ、目を落としてコンソールにはシフトスイッチと、多様な情報を迷うことなく操作できる工夫が著しい。

一方、助手席にも8.8インチ・フルHDタッチスクリーン(オプション)があり、ドライビングインフォメーションを共有できる。運転してるとなかなか気づかないが、これは面白い。パートナーやバディと互いに運転をし合えば、対等に会話も弾みそうだ。

ちなみに、リアにある+2シートは子供向けのサイズで大人は厳しい。荷物を置くかバックレストを倒して使うことを想定していた方が勝手が良いだろう。

「運転していて、まったく怖くない」
そんなことを考えながら、ぼーっとしているうちにスポーティな走りに移行するローマ。データによると、0-100km/h加速:3.4秒、0-200km/h加速:9.3秒。最高速度:320km/h。サーキットでもなければ、十分すぎるスペックだ。

「運転していて、まったく怖くない。だからこそ気を付けるんですけど」とベテランKさんが呟いた。助手席でもまったく同じ感覚。ドライバーの身体が拡張したかのように操作と動きの一体感がある。スポーツカーとしても、グランドツーリングカーとしても、ドライバーの意思で自在にコントロールできる。そして、この調子なら東京⇆名古屋は軽く行けそうなほど快適だった。

運転モード「マネッティーノ」は、ポルトフィーノでは3種類だが、ローマでは5モード(ウェット、コンフォート、スポーツ、レース、ESC=横滑り防止装置オフ)が選択可能。

このスペックをあえて普段使いするのはもったいないと思っていたが、どうやらローマはそこも慎ましやかに受け容れてくれる車らしい。


いつの間にかいつも一緒にいたくなってしまう。 都心からわずか30分なのに、「寺家ふるさと村」は誰もが懐かしく思う風景だった。最近、あまりにも気忙しくし過ぎていたかも知れない。ローマに乗って、澄んだ空気と美しい里山に来る。それだけで、こんなに気持ちが変わるのか。スポーティなドライビングって楽しい。いつの間にかそう思っていた。

光と闇を行き来して揺れ動く心をローマは抱きとめてくれるようだ。乗ってみて本当に思った。美しさと機能の両立を当たり前のように感じさせてくれる控えめさ。一緒にいるうちに、いつの間にか存在感を残して、いつも一緒にいたくなってしまうローマ。その時間を誰かと分かち合うのもまた楽しきかな。最初のスポーツカーにも、乗り尽くしてきた最後のスポーツカーにも勧めたい。大統領が見にきただけのことはある。フェラーリ・ローマとはそんな車だ。


梅澤さやか
ムーサの芸術研究会 https://moikalab.com/
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