ファッションのほか、インダストリアルデザインやカッティングエッジなテクノロジーの最前線であるイタリア・ミラノで、SUVやアドベンチャースタイルのバイクは、依然として人気が高い。身の回りにあるすべてのモノやコトで、自らのアイデンティティを表現する彼らにとって、デザインにおいても、テクノロジーにおいても、それらを統合したパフォーマンスにおいても、SUVやアドベンチャーバイクはうってつけのアイテムなのだ。

日本同様、慢性的な渋滞と駐車場&駐輪場問題を抱えるミラノにおいても、彼らはビジネスにもフォーマルにも、臆することなくそれらを使う。しかしそのスタイルはいたってカジュアルで、SUVやアドベンチャーバイクの起源である、オフロードでの逞しさや荒々しさを、見事に中和している。

そのイタリアと同様に、デザインとカルチャーを醸造し続けるイギリスにおいて生まれたこのトライアンフ・スクランブラー1200XEも、そのアドベンチャーバイクのDNAを持つモデルだ。いや正確には、アドベンチャーモデルの先祖である”スクランブラー”というカテゴリーを現代解釈したモデル、と表現した方が良いだろう。

バイクらしいシンプルなデザインは、街にもよく馴染む。過酷なラリーにも堪えるポテンシャルを持ちながら、カジュアルなスタイルのライダーとの相性も良い。


オンとオフを繋ぐ存在がスクランブラーだった
かつてバイクには、オフロードとオンロードというカテゴリー別けが存在しなかった。バイクが道を走り始めたときに舗装路はなく、都市部に舗装路が普及し始めてからも、郊外には依然として未舗装路が多くあった。そこを走るバイクは、エンジンやフレームといった車体の基本骨格を共有しながら、マフラーの位置やサスペンションの性能、ハンドル形状やシート形状を変更することで、オンロード寄りのモデルとオフロード寄りのモデルと、そのキャラクターを分けたのである。そのオフロード向けモデルが”スクランブラー”と呼ばれた。このオンロードとオフロードが絶妙にリンクするスクランブラーモデルこそ、アドベンチャーモデルの祖というワケだ。

等間隔爆発だった旧型トライアンフ2気筒エンジンから不等間隔爆発エンジンへと変更することで、エンジン内のパワーロスを解消。歯切れの良い排気音とともに、オフロードにおいてもオンロードにおいても、タイヤが路面をしっかりと掴む感覚を強めている。

ユニークなのは、スクランブラーモデルはその後発展し、オフロードでの走破性をさらに高めるため、長いサスペンションや大径ホイールなどオフロードバイク専用パーツを数多く採用し”オフロード専用モデル”が生まれる。そのオフロードモデルがさらに発展し、電子制御技術などの進化によってオフロードでの高い走破性に加え、オンロードでのスポーツ走行性能や長距離走行における快適性を高めたモデルがアドベンチャーモデル。要するにオフロードバイクは、進化によって先祖返りしたのである。

シート高は870mm。身長170cmのライダーが跨がれば、両方のつま先が着く程度。身長180cmなら両足のカカトが少し浮くくらいの足つき性。車体のバランスが良く、車体の押し引きは227kgという乾燥重量以上に軽く感じる。





そしてクラシックとハイテクが融合した1台へ
ただしトライアンフ・スクランブラー1200XEは、さらにその先を行く。進化によって鍛え上げた車体から、最先端の電子制御技術はそのままに、大げさなカウル類を取り払ったのである。そのスタイリングは、フレームとエンジン、タンクとシート、そしてヘッドライトと前後ホイールという、最低限の機能部品と外装部品のみによって構成されている。現在、二輪界にはネオクラシックという流行が吹き荒れているが、このトライアンフ・スクランブラー1200XEはまさに、クラシカルなスタイルとハイテクノロジーが共存するネオクラシックなのである。

木々のなかを走るときや転倒時などに、ライダーの手やレバーを守るブッシュガードは、ハンドル回りにデザイン的なインパクトを与え、車体に逞しいイメージをプラスしている。この角度からも、タンク&シートと2本出しサイレンサーの高いシンクロ率を感じることができる。

このスタイルは、ハードボイルドなレザーの上下や、ハイテクファブリックを駆使したライディングジャケットはもちろん、デニムにスニーカー、シングルライダースやマウンテンパーカーなどカジュアルなスタイルのライダーも受け入れる。いやむしろ、最先端のテクノロジーで開発された車体は、混雑した街中や繁雑な裏路地を苦にせず、まさに普段着感覚でライディングを楽しむことができる。カジュアルなマインドでのライディングこそが、スクランブラー1200XEの真骨頂なのかもしれない。

出力特性が異なる5つのライディングモードはボタン操作で瞬時に変更。エンジンのキャラクターを変えることができる。また今回試乗したXEモデルには車体の傾きや加速/減速など、走行中の車体の状態を感知するIMU(慣性計測装置)を装備し、トラクションコントロールやABSをより細かく制御。ライダーを強力にサポートしている。

「メキシカン1000」で鍛えられた本物の性能
しかしそのオフロード性能は極めて高く、トライアンフは2019年にスクランブラー1200XEで「メキシカン1000」という約1000マイル(1600km)を5日間掛けて走る、世界有数のオフロードレースに参戦。長距離オフロードレース専用に開発された軽量な450ccマシンが並ぶなか、ほとんどスタンダード状態のスクランブラー1200XEで、見事完走を果たしている。その事実からもスクランブラー1200XEのポテンシャルを伺い知ることが出来る。

スクランブラー1200XEは、トライアンフの伝統的なエンジン形式であるバーチカルツインを採用している。2つのシリンダーが直立して並ぶことから”Vertical(バーチカル)=直立”ツインと呼ばれるエンジンは水冷化されているが、空冷エンジンが採用する美しい冷却フィンを持つ。

もうひとつ、スクランブラー1200XEのポテンシャルを知るエピソードがある。それは映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でのアクションシーンだ。そのシリーズ最新作では、石灰岩をくりぬいて作られた街として知られるイタリア・マテーナを舞台に、つづらおりの細い通路で豪快にジャンプして上の階層まで飛び上がるアクションが披露されている。そのベースマシンスクランブラー1200XEであり、そのアクションは1000ccオーバーの大型車としては驚異的だ。余談だが、その劇中で使用されたマシンをベースにした007シリーズ初のオフィシャルなジェームス・ボンドモデル/スクランブラー1200ボンド・エディションも発売されている。

背中を丸めたネイキッドモデル的な乗り方ではなく、背筋を伸ばし少し肘を張る、オフロードバイク的なライディングスタイルがしっくりとくる。視界も広がり、ハンドル操作にも余裕が生まれることから、こんな細い路地でも余裕を持って車体を操作できる。





ジェームズ・ボンドでの勇姿が待ち遠しい
すでに公開されているその予告映像を見て、映画ファンやトライアンフの愛好家は映画「大脱走」の有名なバイクアクションシーンを思い出すだろう。スティーヴ・マックイーンが、ミリタリーグリーンにカスタムされたトライアンフで、有刺鉄線の柵を跳び越えようとするアレだ。007とスクランブラー1200XEの組み合わせは、その歴史的なシーンへのオマージュではないか。思わずそう感じてしまうほど、トライアンフと映画の相性は良い。

オフロードバイクは悪路での走破性を高め、また軽快なハンドリングを作り上げるため、フロントに直径21インチのホイール&タイヤを装着する。やや細見のこのホイール&タイヤによって、舗装路での走行では穏やかな特性となり、細かな切り返しや荒れた路面が続く街中での走行でも神経質になることはない。


街中を流せる気軽さ。オフロードレースにも挑むことができる堅牢さと俊敏さ。そして映画のストーリーや出演者を彩る個性と時代性。スクランブラー1200XEは、そのすべてを持ち合わせている希有なモデルといえるだろう。

 
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【諸元】
サイズ:全長×全幅×全高=2325×905×1250mm(ミラーを含まず)
シート高:870mm
ホイールベース:1570mm
乾燥重量:227kg
タンク容量:16L
燃費:4.9L/100km
排気量:1200cc
タイプ:水冷4ストローク直列2気筒 SOHC 8バルブ
最高出力:90ps(66.2kW)/7400rpm
最大トルク:110Nm(11.2kgm)/3950rpm
トランスミッション:6段MT
価格:205万6400円(税別)
試乗モデル:+オプションエクストリームインスピレーションキット 42万1443円(税込)

※取付工賃別途必要

ヘルメット協力:SHOEI https://www.shoei.com


文:河野正士 写真:高柳健
Words:Tadashi KONO Photography:Ken TAKAYANAGI