6年前、50歳を目前に筆者はサラリーマン生活に終止符を打った。漠然とした将来への不安と引き換えに手に入れたものは色々あるけれど、やはり最大のメリットは時間を自由に使えるようになったことだ。

「車検が上がったよ」と白根自動車さんから連絡が入ってから数日、筆者はいつ取りに行こうかと少々悩んだ。最大の懸念は暑さである。

【車検が終わった2CVを引き取って帰る際にも珍事は起きる】(写真10点)

そこで今回は「自由業」のメリットを最大限に活用して、8月のとある平日の夕方に埼玉県行田市へと向かうことにした。大きな自由を手に入れた割には小さな使い道のような気もするが、この手の自由な時間の小さな積み重ねがQOLに大きく影響するのだ!(笑)

仕事の打ち合わせを終えて渋谷から湘南新宿ラインで熊谷へ向かう。1000円を奮発してグリーン車をチョイスしたのは大正解だった。2階建て車両からの眺めは良いし、シートはリクライニングするし、乗っている人は少ないし、オリンピック期間の首都高の個人利用で1000円払うことより数倍も価値がある。

熊谷からは秩父鉄道に乗り換えだ。やってきた車両に見覚えがあるなと思って後で調べたら、やはり筆者の地元の東急で走っていた車両だった。鉄道車両の寿命が長いことはなんとなく知ってはいたが、こいつは製造から40年前後経った昭和生まれの車両である。車内の扇風機が懐かしい。うちの2CVは平成生まれでまだ31年。しかも毎日働いている電車と違って、たまにしか動かない道楽モノだ。まだまだ頑張ってもらおう。

無人の最寄り駅から真夏の夕陽に当たりながら10数分歩いて白根自動車に着いた。今回の車検では24ヶ月点検に加えて、懸案だったヒーターの切り替えワイヤーの張り替えとホイールキャップの取り替え、そして、だいぶ前から自分でやろうと思って棚上げしていた室内灯の交換作業もお願いした。そして白根自動車の判断でフロントブレーキパッドの交換が追加された。

修理は人任せがモットーの筆者としては「気になること」がほとんど片付いて実に満足度の高い内容だ。それでいて法定費用なども含めた総費用は約10万円で収まった。2CVが偉いのか、白根自動車さんがすごいのか。いずれにしても31年目の車検費用としてはとてもお安いのは間違いないだろう。

しかし、「異変」は帰り道に突然起きた。今回の記事用に行田が誇る忍城とのカットを撮影しようと2CVを走らせていたら、なんと右足がつったのである!異変と聞いて「2CVの異変」を期待された方には大変申し訳ない(笑)。暑さのせいか、最近のテレワークのせいか、新しく買った全車速対応ACC付きの車ばかり乗っていたせいか、それとも先ほど乗った電車よりも古い筆者の老朽化が原因なのか。いずれにしても自動車メディアに関わるモノとしては情けない事態だ。仕方ないのでストレッチしながら慎重に走り、行田の隣町にあるみんなで借りているガレージで少し休むことにした。

平日の夕方なので誰もいないかなと思ったら、FBMのクランク掛け競争の「掛からない芸」で有名な(?)Kシワギちゃんがいた。なんでいるんだよ(笑)。まあKシワギちゃんも「自由業」仲間だし、元々バンドマン上がりなので色々な意味で自由な人だ。一方で春に行田で行われている「フレンチピクニック」(今年から「埼玉イタフラピクニック」と名前を変えて年数回開催予定らしい)を長年主催するなど、時々、人の役にも立っている。

同い年だけどKシワギちゃんと自分とでは自動車以外の趣味趣向がずいぶん違う。車の話、例えばピニンファリーナよりもジウジアーロやガンディーニが好きだ!なんて話題では盛り上がるが、音楽やファッションで意見の一致を見ることは困難だ。だけど、それが楽しい。

シトロエン2CVを買った1990年の夏、30年後も自分が2CVを持っているとは想像していなかった。50歳を前にサラリーマンを辞めて「自由業」についている自分がいるとも思っていなかった。まあ、2CVを買わなくても自由業になっていたかもしれないが、2CVを買っていなかったら平日の夕方に北関東のガレージで、バンドマン上がりの変な人(失礼!)と車談義に花を咲かせることもなかっただろう。

小一時間ほど話し込んでいるうちに北関東の暑い空気も緩んできた。自分の右足が回復したことも確かめて帰路についた。


文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI