この記事は『超弩級高性能ロードカー!7台だけ存在したフォードGT40の「ロードゴーイングバージョン」』の続きです。

フォード GT40 Mk.Ⅲの特徴であるクラシカルなボラーニ・ワイアーホイールに三つ角のスピンナー、クロームのリアビューミラー、サイドウィンドーのカット、ドアハンドル、そしてバンパーガードなども含め、すべてがこの車を上品に仕立て、そして公道に馴染ませようとしているかのようだ。
 
ドアパネルに埋め込まれたドアハンドルを親指で押して開けると、ルーフの半分くらいのボリュームとともに、立体的で大きなドアが開く。ドアはさながら大きな二枚貝のようで狭いガレージでは理想的な形状ではないが、タイトな運転席へ収まるためには最善の方法だろう。肉厚で仰向けに寝そべった2脚のシートは車の中央よりに並び、両側には広いシャシーのサイドメンバーが前後に延びている。クロススティッチを施した革張りのシートにはクローム縁取りを持つ通気口が配されている。このタイトな空間で、トゥアーオートのような長く厳しいラリーを戦うドライバーとナビゲーターはどうしているのだろうか。

【写真6点】生半可なものではない・・?ロードカーの皮を被った究極のスポーツカーに試乗!

GT40にスムーズかつエレガントに乗ろうとすれば、まず太いサイドシルを跨いでシートの上に足を置き、そのままステアリングホイール下に滑り込むように入ればいい。一旦座ってしまえば、寝そべっているかのようなシートは心地よく、目の前には、中央にシンプルなFord GTと、Formula GT Britainロゴが刻まれたステアリングが待ち構えている。写真をご覧になればお分かりになるが、ステアリングはコンペティション・モデルと同じでポジションは右側だが、Mk.IIIではシフトレバーは右から中央に移動されているので、乗り降りの際にもシフトレバーは邪魔にはならない。



そのシフトノブは木製だ。また中央にはパーキングブレーキのレバーがあるが、これはおそらくBMCミニ・モークのもので、左肘に当たることがある。お世辞にも高級とはいえないプラスチック製のダッシュボードには、ドライバーの正面にスミス製レヴカウンターがあり、その左にスピードメーターがある。嬉しいことに、ダッシュボードの中央にはクーリングファンのスイッチがあり、吹き出し口のアイボールが両側に設置されている。
 
GT40のV型8気筒302cu-in(4948cc)エンジンを始動するのは容易だった。イグニッションキーを回し、ペダルを踏み込んでホーレイ製の4チョークキャブレターにガソリンを送り込めば、いとも簡単に、かつ大きな音を発しながら目覚める。やがてファストアイドルが終わると、通常のアイドルの音に落ち着く。Mk.Ⅲではデチューンされてはいるが、スロットルの反応は素早い。クラッチアクションは普通だが、ストロークは短めで、小径のレース仕様ツインプレート・クラッチであることは覚えておく必要があるだろう。

"くの字" に屈曲したZF製の5段式5DSギアボックスを操作するシフトはチャレンジングだ。後端に置かれたギアボックスは長いリンケージシャフトを介するため、ギアシフトはなかなか難しい。だが、幸いなことにシフトミスを防ぐためにセミシーケンシャル機構が備えられているので、故意にギアを飛ばしてシフトすることはできないが、順を追ってギアを上げ下げできるのだが、話はそう簡単ではなかった。 



車輌総重量は1061㎏と軽く、およそ300lb-ft(約41.5kgm)ものトルクが低回転域から得られるので、GT40のスタートは容易だ。だがステアリングはめっぽう重く、低い視点からの運転にも慣れる必要がある。フロントフェンダーの峯は視界の中にあるが、ノーズの位置はまったく確認できず、後方に関しては3/4の視界もない。

ギアをゆっくり変え、イギリスの細い田舎道を走っていると、フォードの温和なエンジンにも助けられ、次第にリラックスしてくる。ただし、対向車線の死角からレンジローバーでも出現すれば、その巨大な姿に圧倒されよう。
 
なかなか難しいギアシフトと視界が充分でないことから、GT40のドライビングには適度な集中力を必要とする。しかし、道が開けてきたらなら、本当に気を引き締めなければならない。3速にシフトダウンし、スロットルペダルを踏み込んで行くと、この車の血統が俄に姿を現してくる。ラック・アンド・ピニオンの重いステアリングは、温まってきたダンロップLセクション・レーシングタイヤ(前輪:5.50×15、後輪:7.00×15)と、ダブルウィッシュボーン・サスペンションとの間でなにが起こっているのかを正確に伝え始める。また、Mk.Ⅲに備わるブレーキサーボ付きディスクブレーキは強力で、信頼感がぐっと増す。
 
5リッターのプッシュロッドV8エンジンは大人しく、マナーもいいので扱いやすい。パワーは306bhpと発表されているが、実感としては正味250bhpくらいではないかと思われた。強大なトルクゆえに、頻繁にギアチェンジする必要はないが、練習を積んでコツを掴むとギアチェンジはだいぶ楽になった。GT40に慣れてくると、実際にはこれが荒々しい野獣ではないことが分かってきた。野獣と呼ぶにはシャシーとパワートレインが洗練されすぎており、次第にミッドエンジンの車を大きなレーシングカートのように運転できるようになった。対向車の大きさに慣れてきた頃には、軽量で反応の良いGT40でのハイスピード・コーナリングが快感になり、短いストレートでも速度を急速に上げてしまった。このオリジナルで稀なMk.Ⅲは極めて高価だから(数百万ドルはするだろう)、あまり調子に乗ってはならないのだが。
 
ベンチレーターが全開でファンが力強く回っていれば、温暖な気候なら車内も快適だ。しかし、ミドシップのエンジンから前方のラジエターへと送られる冷却水パイプがセンタートンネルとバルクヘッドを通るため、エンジンが暖まると、車内が猛烈に暑くなることで知られている。エアコンを搭載したMk.Ⅲもあるというから、朝方の爽快な時間帯以外にも乗ろうという場合には、検討してもよいかもしれない。
 
GT40 Mk.Ⅲは、コンペティションカーを公道上でも使いたいというコンセプトにおいては、フェラーリF40の先駆者である。ツインターボチャージャーを備え、遙かに設計年時が新しいF40ほど激しくはないが、同期のランボルギーニ・ミウラよりも遥かにエキサイティングだ。GT40はロードカーの皮を被ったレーシングカーであり、F40やミウラは純粋なロードカーであるから、比較することには無理があるのだが。