岡山の劇団「OiBokkeShi(オイ・ボッケ・シ)」。役者は95歳の看板俳優をはじめ12人。人とうまく話せないことに悩む若者や、認知症を患う主婦、脳性麻痺と闘う女性など、何かしら“生きづらさ”を抱えた人たちだ。“ひとりひとりの個性そのまま”に、従来の演劇にはない舞台を作りだそうとしている。

◆舞台で輝く“エキストラ”たち◆

3月20日、いよいよ本番。会場は保育園だった施設を借りることになった。開演前、劇団「OiBokkeShi」を主宰する菅原直樹さん(38)は、俳優たちにこう語りかけた。

(主宰・菅原直樹さん)
「緊張すると思いますが、だいぶ稽古したので自信持ってしてもらえたら。ミスしても大丈夫ですから。途中で止めたりしながら、和気あいあいと公開稽古ができたらいいかなと思っています」

「えいえいおう!」

「エキストラの宴」の幕が開いた。

他人とコミュニケーションをとるのが苦手で重度の人見知りの中島清廉くん(21)。民宿で掃除のアルバイトをする青年、“マイケル”の役だ。

(清廉くんセリフ)「僕、岡谷さんに指導されていまして。演技なんですけど」
(共演者セリフ)「もしかしてエキストラの会の方ですか?」
(清廉くんセリフ)「そうです。つい最近…入らされました」(笑)

清廉くんは堂々と“マイケル”を演じ切った。客席には恩師の姿も。

(恩師)「出番が多かったね」
(清廉くん)「何回もあったので、覚えるのに時間がかかったけど、何とかいけました」
(恩師)「上手いわ。主役級だったね」

脳性まひのため左足が思うように動かない西春華さん(28)。軽い知的障害もある。好きなのは絵を描くこと。舞台には、思いが詰まった春華さんの絵があった。

(清廉くんセリフ)「なにこれ…すげぇ。めっちゃいい」
(春華さんセリフ)「ほんまに思ってる?毎回同じこと言っているから」

(西春華さん)
「初めての長いせりふで緊張したけど、楽しくできて良かった」

認知症を患う主婦、竹上恵美子さん(70)は、いつも介護してくれる夫の康成さん(68)と登場。脚本を覚えることができないため、恵美子さんは問いかけに答えればいいようになっている。

(共演者セリフ)「恵美子さんとは農協のスーパーや役場であっているかもしれませんなぁ」

・・・恵美子さんは、笑顔で自由に演じる。ここで95歳の看板俳優、“おかじい”こと岡田忠雄さんが登場する。
 
(夫・康成さんセリフ)「知らない人ですよ」
(恵美子さんセリフ)「知らない人?…こらー!」

客席から笑い声。菅原さんも笑顔だ。

(恵美子さん)
「どうでしたか?(自分では)わかりません」
(夫・康成さん)
「良かったな、頑張ったもんな・・・これが狙いの一つですから。笑顔になるのがいい」

公開稽古は無事終わった。

(菅原さん)「温かくなったら本公演をしようと思いますので。きょうはどうもありがとうございました」

終演後、菅原さんは俳優たちに感謝を伝えた。

(菅原さん)「すごくいい発表会、公演になりましたね。僕も見ていて何カ所も感動するところがありました。台本が出来ていないで発表会ができるのかと思ったけど、何とかなるものですね。皆さんの力を借りてできたような感じがします。こういう空気でもできるんじゃないかと、皆さんと作り上げたものだと思っています」

すると、95歳の看板俳優、“おかじい”は…

(岡田忠雄さん)「今後ともよろしく、この死にそうなじいさんをお引き立てください。お願いします」

(菅原さん)「みなさんありがとうございます。また稽古場であえるの楽しみにしています。ありがとうございました」

◆晴れ舞台を終えて…それぞれの道へ◆

公開稽古から1週間。竹上恵美子さん(70)の認知症は悪化していた。

恵美子さんは、施設にいた。急に空きが出たことや、家族からの説得もあって、夫の康成さんは入居を決心したという。

(康成さん)「久しぶりじゃな」
(恵美子さん)「うれしいわ」
(康成さん)「座って座って。可愛いの着とるな…みんな会いたがっとるけんな。また皆と一緒に劇をしよう、お母さん」
(恵美子さん)「うん」

(竹上康成さん)
「新しい場面に変わってきたのでお互い対応していかないといけないと思う。(Q、恵美子さん忘れていなかったですね)忘れてないな…それが嬉しい反面つらいな。忘れてくれた方が気が楽じゃな…こっちに色々思いが残っているだけに…ごめん(涙)」

康成さんは、恵美子さんが再び舞台に立つ日を信じて演劇を続けることにした。

西春華さん(28)は、演劇のセリフをすらすら言えるようにと、中島清廉くん(21)を誘って即興芝居の練習中。公開稽古の経験は2人を少し積極的にしたようだ。

(清廉くんセリフ)「新作?」

春華さんは清廉くんに絵を見せる。

(春華さんセリフ)「そう新作。このネコちゃんいいやろ。新キャラってやつ」

(春華さんの母・昌子さん)
「(春華さんが)“ケアされる側”ではなく、“感動を与える側”になれるのはすごいこと。それを今、菅原さんがしている。すごく期待しているし、娘がこれから私の想像を超えたことをしてくれるのが楽しみ」

劇団「OiBokkeShi」は、夏の本公演に向けて再出発した。

(主宰・菅原直樹さん)
「認知症の方、介護している方、若者たち、いろんな方々に関わって演劇をしてもらった。目指すところは“多様な人々との共生”なのではないかと思う。それは舞台の上で目指すものでもあるし、実際に演劇を通して、知らず知らずのうちに実現できたことだったんじゃないかと思う」

私たちは誰でもエキストラになれる。エキストラとして別の人生を生きることができる。人生という宴で、生きづらさを抱えた時、演劇は本当に居場所になれるのか。菅原さんの挑戦は始まったばかりだ。

(おわり)