ロシアによるウクライナ侵攻を巡り国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)は、戦争犯罪の容疑でロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。

 ウクライナから違法に子どもたちが連れ去られたことに関与した疑いがある、としている。

 国連で最も重要な役割を担う安全保障理事会常任理事国の元首に対して、国際刑事裁判機関から、逮捕状が出るというのは前代未聞のことだ。

 別の言い方をすれば、国際秩序の崩壊を象徴するような、本来あってはならない出来事だとも言える。

 ロシアはICCに加盟していない。ペスコフ大統領報道官は「言語道断」「ロシアはICCの司法権を認めておらず、決定に法的な意味はない」と強く反発する。

 ロシアが身柄引き渡しを拒否するのは確実で、本人を出廷させ公判を開くのは極めて難しい。かといって実質的な効果が何もないかといえば、そうではない。

 仮にプーチン氏が日本などのICC加盟国を訪問すれば逮捕される可能性がある。今後の行動は大きく制約され、国際的な信用もガタ落ちだ。

 ウクライナ側は、身元が特定されただけで1万6千人余の子どもたちがロシア国内に連れ去られ、違法な養子縁組や国籍変更などが行われている、と指摘する。

 一方、ロシア側は「子どもたちを軍事作戦が続く地域に放置せず、良い環境下に移動させた」と真っ向から反論する。両者の主張は対立したままだ。

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 ロシアのウクライナ侵攻は、国連が機能不全に陥っている現実をまざまざと浮かび上がらせた。

 ここで注目したいのは、もう一つの側面である。

 国連人権理事会が設置した調査委員会は、報告書を公表し、民間人への攻撃や子どもの連れ去り、拷問や強姦(ごうかん)などの戦争犯罪に該当する多数の行為がロシアによって行われたと認定した。

 古谷修一・早稲田大学教授によると、ICCが今回のように素早く動いた例は過去になく、人権理事会の調査委員会が集めた資料は最終的にICCに渡されるという(2022年10月18日朝日新聞デジタル)。

 SNSによる情報発信や、連日テレビから流れる現場の映像によって、この戦争は「国と国との戦いという抽象的なレベルではなく、もっと身近なもの」として受け止められるようになったと強調する。

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 沖縄戦を体験した人々がウクライナの被害の惨状に心を動かされ、さまざまな形で支援を続けているのも、この戦争を被害者の人権や個人の尊厳の問題として受け止めているからだろう。

 人権や個人の尊厳が重視されるからこそ、身につまされて、迫ってくるのだ。

 古谷氏の指摘は、これまでの戦況報道にはない重要な視点である。

 中国の習近平国家主席は、ウクライナ侵攻後初めて、ロシアを訪問する。習主席はこの状況でプーチン氏に何を語るのだろうか。