夏がやってきました。沖縄の海を彩るサンゴは、たくさんの生き物たちのすみかにも、えさにもなる、大事な存在です。そんな沖縄のサンゴの多くが今、死んでしまったり弱ったりして大変です。「白化」と呼ばれる現象です。白化はなぜ、どのようにして起こるのでしょう? サンゴの元気は取り戻せるのでしょうか? サンゴの生態に詳しい琉球大学理学部准教授の中村崇さんに教えてもらいました。白化したサンゴ ◆サンゴの色、実は透明琉球大学の中村先生 元気なサンゴの枝の表面を顕微鏡で見ると、茶色い粒がたくさん見えます。サンゴの色ではなく、サンゴの体内に多くすむ「共生藻(褐虫藻)」という小さな生き物の色です。サンゴそのものの体の色は、実はほとんど透明です。 共生藻は、サンゴがはき出す二酸化炭素やアンモニアを取り込み、太陽の光を使って酸素や脂質、アミノ酸に変えます。「光合成」です。サンゴは共生藻が作った酸素やエネルギーを利用して成長します。サンゴと共生藻は、自分に不要な物を相手に必要な物にリサイクルする「共生」の関係です。 海水の栄養分が少なく、豊富な太陽光が注ぐ暖かい海で生きるために、サンゴが生んだ秘策です。中村さんは「サンゴが元気でいるためには、共生藻が元気でないといけません」と話します。共生藻とサンゴ白化の仕組み ◆海水温の上昇が引き金白化したサンゴ礁 共生藻がサンゴの体内からほとんどいなくなり、透明なサンゴの体の奥の白い骨が透けて見える過程が「白化」です。海水温が30度を超える状態が数週間続くと、沖縄にすむサンゴの多くから共生藻が減り始めます。 中村さんの実験では、サンゴに害のない水温26度でも強い光を浴び続けると、サンゴは次第に触手を引っ込め、口から共生藻をはき出します。30度を上回ると弱い光でもこうなり、5日後はすっかり白くなります。 白化したサンゴは、共生藻の激減で酸素やエネルギーを十分得られず、栄養失調状態になります。その結果、死んだり、生き延びても成長が遅く、元気な卵や精子を作れなくなります。 ◆ストレスで被害拡大も 陸の人間の活動がサンゴにストレスとなり、白化の被害を大きくします。赤土などが降り積もってサンゴが窒息するほか、農業用の除草剤が流れ込んで、共生藻が光合成をしにくくなります。こうして弱ったサンゴに、普段よりほんの数度だけ温度が高くなった海水や、何日も続く夏の強い日差しがとどめを刺します。白化する前のサンゴ礁白化した後のサンゴ礁  サンゴが大規模に白化して多くが死ぬとサンゴ礁の景観が回復するのに10年以上かかることがあり、これには陸での活動が影響します。生活や畜産の排水、農業の肥料がそのままサンゴがすむ海に流れ込むと、海水中の栄養分が増え過ぎ、海藻類などが海底を覆うほどに広がり、サンゴがすんでいた場所が奪われます。 中村さんは「海底に茂った海藻類は、何とかそこに流れ着いたサンゴの赤ちゃんたちにとって巨大な競争相手のようなもの。運良く海底にくっつけても太刀打ちできず、成長できず死ぬこともあります」と話します。 ◆台風がないと大変台風 海水温が異常に高まる主な理由は地球の温暖化です。世界のサンゴの白化は過去30年で急増中で、「このままだと2030年代以降は2年に1回のペースで大規模な白化が起きるかもしれません」と危ぶみます。 沖縄の近くの海水の温度を上がりにくくするのが台風です。夏の間、太陽の熱で海の浅いところは暖かくなりがちですが、深いところは冷たいままです。適度な強さの台風は、海水をかき混ぜて水温を下げ、厚い雲がしばらく強い日射をさえぎるので、サンゴのストレスを和らげます。心配なのは最近、世界中で異常気象が多くなり、台風の発生場所や進路が変わって、沖縄の近くを通らない年があることです。 サンゴ礁の保全を目指す国際科学技術協力プログラムのプロジェクトリーダーの中村さんは、海水の温度は今後も異常に高くなりうると予測し「その時に被害を抑えながら、多くのサンゴがすぐ回復できるような環境を整えることが大事。そのためには繊細なサンゴが生き残りやすいように、目に見えにくい水質の悪化などを防がないといけません」と強調します。