奇祭とは即ち、未知との遭遇。どうも。奇祭ハンターのまっくです。
今回の長野県で奇祭旅も28県目。「野生の天狗ニキが完全に獣の呼吸!」と噂の長野県辰野町の「天狗祭り(お船祭り)」を紹介。天狗と獅子の間に隠された神話時代にまで遡る因縁とは?さぁ、それでは早速行ってみよう。

天狗の棲む山は実在するっ!

新宿バスタから高速バスで3時間。伊那バスターミナルで降りて伊那市駅から乗り継ぎ、最寄りの羽場駅に到着。

飯テロかっ! 「みんなを応援したい」という気持ちからどんどん大きくなったという「かつ丼家 まつくぼ」名物のビックなかつ丼。重さは何と300g以上。

羽場駅から会場までは徒歩20分。お船祭りに天狗が登場するのは13時半〜というから、それまでしばしの腹ごしらえだ。

神明神社が鎮座する神明山のふもとに到着するなり、いきなりの注意喚起。天狗の実在を主張する看板がお出迎えだ。

ここからは聖域。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。入ってはいけない場所に足を踏み入れるようなサスペンスを感じさせる。

ふもとの大鳥居には秋祭りらしい飾りつけが。この手作り感とカラーリングがなかなかに良き。

ほっこりしているのも束の間。神社への参道は杉の社叢に囲まれた、勾配が急な石段の一本道を上がらなければならない。こ、これは心臓破りというもの。

無事に山頂の神明神社に到着。少々空模様が心配だが、カートゥーン調の天狗のイラストがいい味を出している。

神社本殿の背後にはいかにも霊験あらたかそうな巨石も。

船形や獅子がばっちこいとスタンバイ!

祭り開始の13時半頃。葉の茂った青竹で作られたお船が、お船道を通って運ばれて来た。

笠鉾を先頭に太鼓の音と勇ましい掛け声で会場入り。写真では伝わらないだろうが、船の中からは「キェェェェェ!!!」という鵺(ぬえ)のような得体の知れない奇声が聞こえてくる。まさかすでに中に赤いニキ(兄貴)がスタンバイしているというのか。

お堂の前には既に大勢の見物客が集まり、今か今かと熱い視線を送る。

天狗を待ち構えるように4体の獅子が出てきた。く。一癖ありそうな、いい面構えをしていやがる。獅子に嚙まれると体が丈夫になり、無病息災のご利益があるとのこと。定番だね。

天狗ニキと獅子の間の深い因縁とは?

生まれたての赤子のような態勢で一番天狗が登場。クシャクシャの髪といい、何やらおどろおどろしい。「墓場の鬼太郎」かよっ!

いきなり登場した異形ニキの存在に少し引き気味の観客たち。「あれって本物?」「馬鹿、中身はただのおじさんだよ」という地元の子どもたちのやり取りがほほえましい。

天狗ニキの前に立ちはだかる獅子。両者の間にただならぬ緊張感が漂う理由とは一体?

それでは解説しよう。祭りの明確な起源は不明だが、少なくとも長治元年(1104年)、神社の再建時にはすでに行われていた記録が文献にあるらしい。

祭りの由来は「悪魔払いの儀式」とも「国譲りの和議のひとこま」とも言われ、土地に伝わる神話を再現しているのだとか。何でも大昔、船に乗って獅子が渡来し、上陸しようと天狗に相談。天狗は土地の神々を参拝し、住民とも相談したが協議は難航。天狗は参拝と相談をくり返し、三番天狗でようやく話がまとまったのだという。こうして無事に獅子は上陸。その時、獅子は踊りまわって住民にかみつき、無病息災・悪魔祓い・雨乞いなどの祈願が叶えられたという。

素人解釈だが、この神話、古代の渡来人が先住民の有力者三人と交渉して移住を認めてもらい、お礼に大陸の便利な新技術を伝えたという話にも聞こえる。バンカラVSハイカラ、天狗(先住民)ニキと獅子(よそ者)の間の独特の緊張感の理由は、そういうことだったのか。ということは天狗ニキは我々の始祖的な立ち位置でもあり、荒ぶる山の神でもあるわけだ。

台本ナシの天狗ニキの暴れっぷりがすごい!

視界が悪いのを補うためかそういう慣例なのか、天狗は基本、あまり二足歩行をしない。本殿に続く階段もはって上がる。まるで赤子かケモノか。暗黒舞踏めいた聖性と獣性を同時に感じさせる。

見てのとおり天狗は裸足。祭りの開催の前には、天狗がケガをしないようにみんなで境内や山の中を綺麗に掃除するのだとか。ヤダ何かエモい。

祈っていたかと思うと、転ぶ、転がる。そう。どういう理由かこの天狗、頻繁に転ぶのだ。

参拝が終わると、ホーホーと奇声を上げながら観客に向かって猪突猛進!次に何を始めるのか読めない行動が無軌道過ぎて、観客も困惑している様子だ。もう完全に獣の呼吸。

観客に向かってタックルするように突撃し、やっぱり転ぶ。このお馴染みの技は、地元の小学生によって「デス・ローリング」と呼称されていた(笑)。

赤いマフラー(?)はヒーローの証なんよ。日本人の仮面ヒーロー好きの原風景はこういう所にあるのかもしれない。時折、世話役のおじさんが後ろから「観客に突っ込め」、「もっと声出せ!」と真の黒幕めいた指示を出していたような気がするが、うん、きっと気のせいだ。

山の斜面も何のそので転がり落ちていくから「デス・ローリング」は筋金入り。体を張ったその行動に思わず拍手喝采が出るほどだった。天狗は一番天狗、二番天狗と続いて全部で三体登場。後にいくほど気性が激しく、暴れっぷりが激しくなっていくという。

ふっ、やはりラスボスは最後に降臨ということか。まぁ俺は始めから見抜いていたけどね。

ついに最も暴れっぷりが激しいとされる三番天狗が登場。三体目は船から派手に飛び降りるというのが、通例らしい。地元の子どもが叫ぶ。「ま、まさかあの伝説のフライイング・デス・ローリングをやるというのか!」

三体目も暴れっぷりは激しく、舞台にまでかけ上がる始末。

わんぱくぶりでは天狗フォロワーの子どもたちも負けてはいない。最早プロレスかっ!

おっと、三体目。ここで天狗といえばおなじみの「天狗の神隠し」を発動。手近な子どもを捕まえ、船の中に連れ去るという暴挙に出た。こ、これは小さい子には本当にトラウマになりそうなやつ!

ヒーロー見参。会場の空気は完全に一つとなり、何だかんだ大人気の天狗。丘の斜面を転がり回るなどの体を張った本気の挙動に、始めは「中身はただのおじさんだよ」と斜に構えていた子どもたちからもいつしか拍手が巻き起こっていた。これぞ魂の喝采。

天狗の中の人(最前列)もいっしょに、最後は関係者一同で記念撮影をパシャリ。本当にお疲れ様でした。

暴れ天狗による決死の「デス・ローリング」をしっかりと動画で確認されたし。とにかく天狗が転がる、転がる。

辰野町の天狗祭りは毎年10月第3日曜に開催。今回の祭りはいかがだったろう?これはまさに演芸の起源。「型」としての踊りや演目が発生する以前の原初のマツリはきっとこういう形態だったんだろうなと、正直度肝を抜かれて圧倒されっぱなしの今回だった。改めて感じた奇祭の凄味というかね。
それではまた次の奇祭でお会いしましょう。

今回のオサケノジャパン

祭りの開催地である辰野町の小野酒造店が醸した秋酒「夜明け前 生一本 ひやおろし」をセレクト。純米吟醸の華やかな香りとほのかな甘み、旨みが秋口に心地よい一本だ。

今回は伊那市の渋い風情がギンギンに漂い過ぎている「伊那まち はしば」にお邪魔したゾ。築70年の元歯科医院をリノベーションしたレトロな居酒屋で、長野の地酒だけでなく日本酒好きをもうならせる珠玉のラインナップがそろう。