相当なマニアもニッコリする茨城県の常総きぬ川花火大会。ここに花火を見に来るなら「ちゃんと」見るのをお勧めしたい。もちろん人それぞれ観覧スタイルは自由なのはわかったうえで、ああ、それでもなお「ちゃんと」見るのをどうしてもおススメしたい。

花火魅力度ランキング上位、茨城県

とあるコンサルティング会社が出している「都道府県魅力度ランキング」というものがある。名前は聞いたことがある人もいるのではないだろうか。中身には疎いのだが、どうやら茨城県のランクが低いらしい。

さてまったく話は変わるのだが(笑)、都道府県花火魅力度ランキングなるものがあったらどうなるか。花火の何で判断するかによって話が変わるとは思うものの、何をやっても上位に来そうなのが茨城県。まず現代の名工、野村社長率いる野村花火工業を筆頭に有名な花火屋さんがあり、日本三大花火の一角、土浦全国花火競技大会をはじめビッグな花火大会が複数ある。

そんな茨城県の花火の魅力を高めるのに一役買っている「常総きぬ川花火大会」についてレポートしたい。

安心と信頼、常総きぬ川花火大会

今年で第56回となる常総きぬ川花火大会は、非常に完成された・洗練された花火大会である。そもそも開催されるだけで素晴らしいこのご時世にあって、ここに行っておけば大丈夫、絶対にいいものが見られると花火ファンから絶大な信頼を得ているのだ。

今年は10月28日の開催だったが、それまでは毎年8月11日の祝日固定開催だった。来年どうなるかはまだ発表はない。

まずは会場をご紹介。最寄り駅は関東鉄道の水海道駅または北水海道駅。そこから徒歩で鬼怒川の河川敷へ出ると川の両側に観覧スペースが設けられている。

いわゆる表会場通称、表側の会場。この写真で右手が打ち上げ場所。野球の高いフェンスがあるところは避けて観覧。

駅から近い川の東側の席が水海道第二球場側。通称は表。野球場の中は桟敷席になっていて、毎年早々に売り切れる。後方の土手斜面は有料自由席で、比較的遅くまで買える。土手斜面の一番上はカメラマン席として別枠で販売されており、瞬間蒸発するものすごい人気席。

いわゆる裏会場通称、裏側の会場。写真に向かって右側が打ち上げ場所。

川の西側の席が豊岡球場側。通称は裏。整備されて売り出されるようになってからまだ日が浅く、争奪戦とはならなかったようだ。こちらは野球場の中が自由席になっていて、写真の奥側にはテーブルとイスの席がある。さらに土手の上のアスファルトがマス席。言ってみればまだまだ開拓の余地があるエリア。今年だけかもしれないが、豊岡球場側(裏側)の方がキッチンカー等は充実しているように見えた。

ナイアガラ設営風景豊岡球場側(裏側)から花火打ち上げ方向をのぞむ。富士山スタイルのナイアガラ花火がクレーンに吊られている

このほかに無料で観覧できるエリアも存在する。しかし当然ながら、有料席からの方が良く見えるし音もよく聞こえる。音楽シンクロ花火がたくさんあるのでこの差は大きい。

有名花火師のエキシビションマッチ

常総きぬ川花火大会の花火ってどんな花火?そう聞かれたら私はこう答える。オリンピックのフィギュアスケートで最後にエキシビションがあるでしょう、あれですよアレ、と。例えば大曲や土浦でやっているのは競技花火すなわちコンテストで、規定もあれば審査もあるので、技術的には鼻血がでるほどすごいけれど、少し窮屈なところもある。

そんな競技会でしばしば目にするあの花火屋さんが、競技レギュレーションの縛りをほどいて、なおかつ真剣に打ち上げる花火がここで見られるのだ。ざっと振り返ろう。まずオープニングは山﨑煙火製造所(茨城県)。久々に見るこの光景にリピーターは感動しちゃったのでは?

オープニングカウントダウンからの8号玉とナイアガラ。今年の初弾は実に高く上がった。

全てのコーナーは紹介しきれないので個人的に気に入ったもの(だいたい全部)からピックアップすると、次はメッセージ花火。メッセージに乗せて単発花火を打ち上げるのだが、それなりの金額を納めて特別にお願いすると特別な花火玉が上がるらしい。

メッセージ花火花火ファンなら絶対に見たことがある名作。いや何かが違う。あとでよく見たら特注カラー!?

山﨑煙火製造所はオープニング以外にも中盤のプログラムも担当している。Adoの「唱」にシンクロしてハイペースで打ち上げられる楽しいプログラム。これ、パッと1枚載せているけども、見せびらかしたい場面が多すぎてめちゃくちゃ悩む。

ワイドスターマイン大玉がバツーンと上がってる派手派手な場面の写真を泣きながらボツにして、あえて、あえてのこのシーン。色彩の広さ、明暗のコントラスト、緩急、どれもナイス。

紅屋青木煙火店(長野県)の大型プログラムもあった。Official髭男dism「ホワイトノイズ」に合わせた打ち上げ。

ワイドスターマインパッと見るとよくある金色の花火の連打に見えるが、上の大玉と下の扇の色の層がキッチリ揃ってるのよ。こういう細かいのが好きな人にはたまりません。あと青木さんは上中下の空間を埋めたり空けたりのあんばいが素晴らしく…(この後しばらくしゃべり続ける)

一般には馴染みがないかもしれないが花火界隈で有名な花火屋さんばかり登場しており、たいていの花火好きはその会社のスターマインを複数回見聞きしている。で、今日ここ常総で見られるそれは、どれも実にその花火屋さんらしい選曲と、その花火屋さんらしい演出。そして多分、みんないつも以上に気合入ってる。

音楽つきスターマイン以外にも、単発の銘玉を楽しむコーナーもあってここはコンテスト形式。といっても審査は観客ひとりひとりが気に入ったものを選んで投票、それだけ。判断基準も自由!でも上がってる玉はエエ所の玉を主催者が取り寄せてくれている。つまり詳しくなくても楽しめる。

コンテスト今年は前半、後半の2パートに分けて打ち上げられた。全20社。毎度おなじみの玉もあるが、条件が違えば見え方も変わる。

ここまで読んでくれてどうもありがとう。まだ続くんかい!と思われるかもしれないが、まだ続くのである。

お次はスーパースターマインの競演と題して、ややコンパクトな音楽スターマインをポンポンとテンポよく披露。トップバッターは(たぶん)常総きぬ川花火大会に初登場の北日本花火興業(秋田県)。作品「クレオパトラ」「ジェネシス」等はすでに高い評価を得ている。ここでは「ユートピア」がお披露目された。ジェネシスとの違い?いや私もよく分からないけど(笑)、見せ場で中央に上がる魅せ玉が違うかな。

そうなのよ見せ場の作り方がめちゃくちゃ上手いのよ。それを知っているから、早く!早く来て!頼む終わる前にもう1回来て!と、虚空に手を伸ばしてしまうのである。

北日本花火興業コンパクトと説明には書いたものの、巨大な扇にびっくりしてゲラゲラ笑ってしまった。

続けて伊那火工堀内煙火店(長野県)、マルゴー(山梨県)が登場。熱烈なファンを抱える花火屋さんで、その魅力は私の過去レポート「神明の花火」「桑名水郷花火大会」でもいろいろ書かせていただいた。

マルゴーと伊那火工堀内煙火店左が伊那火工堀内煙火店「炎舞と輪舞」、右がマルゴー「Paradise on Free」。堀内さんはほんとに輪舞を踊っているようだし、マルゴーさんは(使用曲の)東京スカパラダイスオーケストラのメンバーとして演奏しているみたいだった。

そして私の記憶では割と以前からのレギュラーメンバー篠原煙火店(長野県)。今年の常総ではこれが白眉という人もいた。ウンウン分かる分かるよその気持ち。秋から冬への情景の移り変わりを表現していて、特に晩秋から雪が降り始めるシーンチェンジが圧巻だった。

篠原煙火店左のシーンから右のシーンへ。右の雪が降ってくるところもゾワゾワっと来るけれど、左の落葉のタメを作った表現が素晴らしい。すごく余談だけど写真の上半分で縦筋になって落ちてくる花火は葉落(ようらく)。

いよいよ真打登場。フィナーレは茨城県、いや日本が誇る野村花火工業(茨城県)。この記事冒頭のパステルカラーの花火も野村花火工業の作品だけれども、これが一部には綺麗、一部には可愛いと評判。キレイ系とカワイイ系を両立しているのだ。まだ現物を見てなければぜひ見てほしい。

もちろんすごいのはそれだけではない。だいたい6分間ぐらいの長いフィナーレだったのだが、前半はしっとり系で野村ワールドに引きこまれる。

野村花火工業その1しっとり系×野村花火はカチカチの鉄板。なお常総きぬ川花火大会は、土地の制約により大玉は中央ではなく横から上がる。アンシンメトリー花火。

フィナーレにふさわしくウワーっと頭の中をかき回すような錦冠(にしきかむろ)連打もやってくれる。

野村花火工業その2上げる玉、上げる玉がどれも最高なのでじっくり見せてくれることが多いが、ドカドカ打ちの需要にも応えてくれた。

楽しめる仕掛けいろいろ

花火が最高なことをおわかりいただけただろうか。でもまだ言いたいことがある。常総きぬ川花火大会は、花火大会としても群を抜いている。快適で楽しい。その仕掛けも紹介しよう。

まずは花火が始まるまでの待ち時間。定時雷といってある時間ごとにドンドンと音のする花火が上がる会場は多いだろう。ちょうどそこで、常総では「昼花火」を見ることができる。

昼花火昼花火そのものがなかなかお目にかかれない。太陽を背にして順光で見たほうがきれい。

もう少しで花火が始まる夕暮れ時には、数十秒間隔でゆっくりとプロローグ花火が上がるので、待っている間も退屈しない。ここでスポンサーの読み上げなども行われており、無駄がないスムーズな運営が行われている。

プロローグ花火プロローグ花火。これから始まる花火への期待を高めてくれる。カメラマンはこれを見ながらいろいろと調整に忙しい。

土手の斜面が観覧場所と紹介したが、斜めの場所でも座りやすいイスつきのチケットも売っている。これがあると本当に快適なのでぜひ買おう。

段ボールイス画期的アイテム、常総段ボールイス。組み立てると左上のように座ることができる。紙製だが多少の湿気もなんのその、花火終了後でもしっかり強度を保っている。

お楽しみはグランドフィナーレ後にも続く。観覧客が一斉に家路につくその時におまけのエンディング花火が打ち上がる。これを見ていれば自然に時差退場になるわけだ。合理的によく考えられていてしかも楽しい。

降り注ぐ花火の星フィナーレが終わったらエンディング花火が満天の星のように頭上から降り注ぐ。自然に時差退場を促す流れ。

私がすごいと思ったことがあった。花火開始直後のことだ。照明の向きがたまたま悪くて、一部の観客から花火が見えにくくなっていた。これがあっという間に是正されたのだ。こんなに行き届いた運営があるだろうか。いや無い。普通は放置されますよ。さすが常総。さすがだなあ。

時代は確かに変わる、常総花火の未来

しかし、なぜ常総きぬ川花火大会はこんな洗練されていて、いい花火がたくさん上がるのだろう?その答えの一端は、というか大部分は主催者側の花火に対する熱意であろうと推察する。実はここの主催者さん、過去にTVなどのメディアにも登場した有名人。花火に対する造詣も深ければ、花火大会に対する造詣も深い。そりゃ花火屋さんも手抜きしないわ。

私は花火大会を主催したことはないが、観客の立場で言えば常総きぬ川花火大会は全国の花火大会のお手本になりうると思う。この水準がスタンダードになれば日本の花火事情は嬉しいものになる。

さて、そんな常総に新しい花火大会が昨年誕生した。その名は「常総新花火」という。常総青年会議所が実行委員会を組織して昨年第1回が開催されたのだが、当然、常総きぬ川花火大会をお手本にしたのだろう。第1回目とは思えない素晴らしい花火大会だった。

今年は本家(?)常総きぬ川花火大会がコロナ明けで復活し、来年からはダブル開催になる見込みだ。常総新花火はクラウドファンディングにも挑戦中。花火大会ではちょっと前例がない金額を目標にしているが、出資者へのリターンも、座席はもちろん「ミュージックスターマイン音楽選曲権」のようにぐぬぬ…なかなか高い、でもやってみたい!ユニークなものがあるのでぜひCAMPFIREの常総新花火のプロジェクトをチェックしてほしい。

常総新花火、次回は2024年4月20日。常総きぬ川花火大会同様、お会いできる日を楽しみに。