「曳山(ひきやま)」とは、祭礼の際に使用する飾り物を据えた山車(だし)の一種。実際の呼び名はお祭りごとに異なる場合もありますが、飾り置かれる「飾り山(置き山)」とは違い、お祭りで実際に人々に曳かれることが特徴です。全国には豪華な曳山が披露されるお祭りがたくさんあり、楽しみにされている方も多いことでしょう。

中でも京都の「祇園祭」岐阜の「高山祭」埼玉の「秩父夜祭」は規模が大きく、いずれも国の重要文化財になっていたり、曳山行事がユネスコ無形文化遺産にも登録されていたりして、一般的に「日本三大曳山祭り」と称されています。この記事では、この3つのお祭りでの曳山の呼び名や特徴、祭りの見どころや由来などを紹介します。

(この記事は2022年に公開されたものを再編集しています。2023年11月28日 編集部更新)

祇園祭【京都府京都市】

祇園祭

祇園祭は京都八坂神社の祭礼で、日本三大祭りの1つです。毎年7月1日から31日までの1か月にわたって行われます。日本で山車を用いた祭りは祇園祭が原点であり、ここから全国各地に広まり発展していったものといわれています。

歴史は古く、1,100年以上。平安初期の貞観11年(869年)、全国で流行していた疫病を鎮めるため、京都の神泉苑で当時の国の数と同じ66本の鉾(ほこ)を立てて行われた「祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)」という祭礼が始まりとされています。

祇園祭を生んだ「祇園信仰」とは何か ― 祇園祭の主役は誰?―

祇園祭の曳山は「山鉾(やまほこ)」と呼ばれ、応仁の乱による中断が明けた室町時代以降、豪商たちが資金を投じて自分の町の山鉾の華やかさを競うようになりました。中国・インド・ペルシャなどから取り寄せた装飾品が山鉾に飾られるようになり、現在の形に近づいたのです。
今ではもう入手できない絢爛豪華な一級の芸術品で飾り立てられた山鉾は、「動く美術館」とも呼ばれています。

現在、山鉾にはいくつかの種類があります。
基本的に大型の造りで、お囃子の演奏者を乗せ、屋根の上には真木を高く伸ばし、その先に疫神を呼び寄せ祓うための金属の飾りを付けた「鉾」。中国の故事などを表現するご神体の人形が見どころの小型の「山」。船の形をした船鉾や、小さな傘鉾を曳きながら、お囃子にあわせて舞いを見せながら歩く行列もあり、これらの総称が「山鉾」です。

 

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現在、祭りに登場する山鉾は全部で34基。これらが7月17日の前祭(さきまつり)、7月24日の後祭(あとまつり)に分かれて京都の中心部を練り歩く「山鉾巡行(やまほこじゅんこう)」が、祇園祭最大の見どころで、国内外から大勢の観光客が押し寄せます。

両祭とも夕方から八坂神社のご祭神をのせたお神輿が渡御するため、山鉾巡行は神様が通る前に、町から疫病や穢れを祓い清めるために行われる催しです。巡行中の見せ場の1つである「辻廻し」は、重さ10トンを超えるという巨大な鉾が交差点の角を曲がるもので、鉾が無事に方向を変えると盛り上がりも最高潮に達します。

 

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現存する山鉾のうち29基は国の重要有形民俗文化財に、山鉾巡行は重要無形文化財に指定されています。また、2009年には山鉾行事がユネスコの無形文化遺産に指定され、祇園祭は名実ともに日本を代表する、世界に誇るお祭りといえるでしょう。

まだまだ見どころが満載の祇園祭。より詳しい祭りの様子や、初めてでも楽しみ尽くすための方法はぜひこちらをご覧ください!

祇園祭の山鉾行事を快適に観賞するには?攻略法を徹底レポート!2023年最新開催情報も!

◎直近の開催は?

コロナ禍で縮小開催が続いていた山鉾巡行が通常通りに戻り、2年間中止だった「宵山(前夜祭)」が復活したのが2022年。2023年の祇園祭は、4年ぶりに本来の姿に完全復活して、7月1日〜31日に開催されました。

祇園祭

2022年には、応仁の乱以前から巡行していたのに何度も焼失に遭い、約200年間「休み山」となっていた「鷹山」の復活が大きな話題となりましたが、もちろん2023年も後祭で巡行しました。

祇園祭「鷹山」がついに復活!休み山は他にもある!?新選組「池田屋事件」と祇園祭の関係とは?

2024年の祇園祭の詳細は未発表ですが、例年通り7月1日〜31日まで行われる予定です。最新情報や祇園祭の詳しい解説は京都観光公式サイトなどで、山鉾の詳細は祇園祭山鉾連合会のホームページなどでご確認ください。

高山祭【岐阜県高山市】

高山祭

高山祭は、岐阜県高山市で春と秋の年2回行われる祭りで、毎年4月14日・15日の日枝神社の例祭と、毎年10月9日・10日の櫻山八幡宮の例祭の総称です。春は山王祭、秋は八幡祭とも呼ばれています。
お祭りに登場する曳山は「屋台」という呼び名で、特に、絢爛で見事な彫刻が施されていることが「動く陽明門」とも呼ばれるゆえんです。

元々の祭りは、山から里に降りてくる神様を迎え、五穀豊穣と家内安全・無病息災等をお願いする神事だったといわれます。
現在のような高山祭の起源は飛騨の領国大名・金森氏の時代(1585年〜1692年)にあり、屋台の起こりは1718年頃なのだそう。飛騨の匠の流れを汲む工匠たちにより屋台が製作され、巧みな人形が演技を披露するからくり奉納なども加え高山祭を盛り上げました。これが現代の形に繋がっています。

▼春の高山祭(山王祭)▼

▼秋の高山祭(八幡祭)▼

 

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高山祭の最大の見どころである豪華な屋台は、春は12台、秋は11台が一か所に曳き揃えられます。これは年に2回、青空の下で美しい彫刻や装飾品、構造の細部までじっくりと鑑賞できる貴重な機会。多くの人々が屋台を取り囲み感嘆の声があがります。

1日に数回行われる、屋台に据えられたからくり奉納も人気の催しです。綱さばきによる動きとは思えない、人形の精巧な動きと演技に魅了されるでしょう。

また、夕方から始まる夜祭(宵祭)では、約100個の提灯を灯した屋台が町を巡りとても幻想的。伝統的な曳き別れ歌「高い山」を歌いながら各屋台蔵へ帰ります。

なお、秋祭では4台の屋台が町を巡行する「屋台曳き回し」が行われ、仕掛けを施した第五の車輪「戻し車」を使った方向転換など見どころもたっぷりです。

 

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高山祭の屋台は国の重要有形民俗文化財、屋台行事は重要無形民俗文化財に指定されています。さらに2016年には、高山祭の屋台行事としてユネスコの無形文化遺産にも登録されました。

オマツリジャパンには、春の高山祭のレポートや高山祭を含めた高山市内の見どころを紹介した記事がありますのでぜひあわせてご覧ください!

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岐阜県高山市の日本三大「美祭」!秋の「高山祭」と飛騨高山を楽しめるスポットをご紹介!

◎直近の開催は?

2023年の春の高山祭(山王祭)は4月14日(金)〜15日(土)に行われました。秋の高山祭(八幡祭)は10月9日(月)〜10日(火)に無事に開催を終えました。

次は春の高山祭が2024年4月14日〜15日に開催予定です。詳しくは飛騨高山観光公式サイトの 春の高山祭(山王祭)のページ、秋の高山祭(八幡祭)のページにてご確認ください。

秩父夜祭【埼玉県秩父市】

秩父夜祭

秩父夜祭は、秩父神社の例大祭として毎年12月2日〜3日に行われる、秩父地域最大のお祭りです。例年2日間で20万もの人々が訪れ、「屋台」と呼ばれる曳山4台、「笠鉾」と呼ばれる曳山2台の豪華な曳山6台が勇壮に練り歩きます。

祭りが現代のように盛大になったのは江戸時代中期から明治・大正時代にかけて。秩父が絹織物で経済発展を遂げると、秩父神社周辺に立っていた「絹大市」も規模を拡大。元々は神社の神事に付随する「付けまつり」として催されていた民間行事が、華々しく盛んに行われるようになりました。

また、12月3日(旧暦では11月3日)という祭りの開催日に関しては、面白い言い伝えがあります。秩父神社に祀られた、北極星や北斗七星を神格化した妙見菩薩と、秩父神社の神体山である武甲山の龍神は相思相愛の仲。しかし、龍神の正妻が近隣の諏訪神社に鎮まる神様のため、せめて一年に一度だけ、この日だけはお諏訪さまの許しが得られるので御旅所で出逢うというものです。

 

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12月2日の宵宮はいわば前夜祭で、4台の屋台が巡行します。前夜祭とはいえ、迫力ある屋台の曳き回しはもちろん、屋台上での踊りや芝居も披露され、夜には花火も上がるため見どころ満載です。

また、3日の本祭と比べれば交通規制が厳しくないため、屋台の近くでゆっくり観覧でき、往時の雰囲気を感じられるというメリットも。ちなみに、夜の光景が特に美しいため「夜祭」という名前になっていますが、お祭りは昼間から開催されています。

屋台は祇園祭の山鉾と同様に、釘を1本も使わず縄や部材の組み込みだけという匠の技で組み上げられています。極彩色の繊細な彫刻や金糸の刺繍に彩られ、息を呑むほどの美しさ。屋台の後ろ半分は幕で覆われていて、お囃子の演奏者はこの中から軽快なお囃子を響かせます。前半分が踊りや芝居を行う舞台です。

芝居は、その年の当番になっている屋台が歌舞伎の演目を披露します。屋台の両側に張出舞台を付け、芸座を組み立てて上演するのは、全国的にも珍しい様式。これも秩父夜祭の特徴の一つです。

さらに、宵宮でしか見られない一本道での「屋台同士のすれ違い」も見逃せません。すき間がわずか数センチメートルという緊迫の場面では、曳き手たちの掛け声もヒートアップ。無事にすれ違ったとき、周辺には安堵の声と歓声があふれます。

秩父夜祭

初日の宵宮だけでもたくさんの見どころがある秩父夜祭。詳しい様子がわかる過去の現地レポートはコチラ!

秩父夜祭、初日の宵宮で楽しむ迫力の屋台!そして秩父の人々のお祭りへの熱い思いに触れる。前編


秩父夜祭、初日の宵宮で楽しむ迫力の屋台!そして秩父の人々のお祭りへの熱い思いに触れる。後編

本祭となる12月3日の大祭では、早朝から深夜まで秩父屋台囃子のリズムに合わせ、秩父神社を中心に6台の屋台と笠鉾が市内を曳き回され、市街地はお祭りの熱気に包まれます。

笠鉾は、本来は花飾りが放射状に垂れる三層の笠が印象的な、独特の形をした屋台。しかし、笠鉾の巡行路上に明治・大正期に電話線や電線が架設されたため、本来の姿での曳行ができなくなり夜祭当日には屋形姿で巡行します。

 

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交差点などでは、最大20トンにもなる屋台をテコの原理で傾かせ、回転台を差し入れて方向転換させる「ギリ廻し」と呼ばれる迫力満点の技も見られます。

こうして熱狂に包まれた2日間の祭りのフィナーレを飾るのが大きな花火です。
春に芝桜がじゅうたんのように咲き誇ることで有名な羊山から打ち上がる花火は、絢爛豪華な屋台・笠鉾にも負けないほどの迫力と美しさ。秩父屋台囃子の音色を聴きながら、眼前に心が震える感動の光景が広がります。

秩父夜祭

秩父夜祭の笠鉾・屋台は国の重要有形民俗文化財に、屋台行事と神楽は重要無形民俗文化財に指定されています。そして、2016年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。
オマツリジャパンでは、12月3日の大祭の賑わいも現地から詳しくレポート!ぜひこちらもご覧ください。

「秩父夜祭」、ユネスコ無形文化遺産に登録され日本の伝統文化を国内外に発信

◎直近の開催は?

いよいよ今週末に開催が迫る秩父夜祭。2023年も12月2日(土)に宵宮、3日(日)に本祭が行われます。
2日の宵宮では、朝から屋台4基が曳きまわされ、日中は綱を曳くことができる場合も。19:00から単発花火の打上げが始まり20:00で祭りは終了となります。

3日の本祭では、笠鉾・屋台の6基が早朝から深夜まで巡行します。19:30〜22:00の花火大会の時間帯は、華やかで壮大な打ち上げ花火と屋台の曳き回しの共演が見られ、祭りはクライマックスに!花火が終わると屋台は曳き別れていき、秩父夜祭は終わりを告げます。

今年の開催詳細や最新情報は秩父観光協会公式サイトなどでご確認ください。また、秩父夜祭の詳細は秩父神社の公式サイト、屋台や笠鉾の詳細は秩父まつり会館のホームページでもご確認いただけます。

まとめ

今回は、祭りごとに山鉾、屋台などと呼ばれる、美しく豪華な曳山が登場する「日本三大曳山祭り」をご紹介しました。

3つの祭りの中に、滋賀県長浜市で毎年4月9日から17日まで行われる「長浜曳山祭」をあげる説もあります。絢爛豪華な13基の曳山のうち毎年5基が祭りに登場。舞台を備えた4基の上で、華やかな衣装を着た子どもたちが歌舞伎を演じる「子ども歌舞伎」が有名です。

他にも全国では様々な曳山の祭りが開催されており、華やかで個性的な曳山の数々は、いくら見ていても飽きません。各地のお祭りに赴き、地域の特色や技術、想いが詰まった曳山を、ぜひ見てみてはいかがでしょうか。