北九州を拠点に全国の空港へ就航するスターフライヤーは、コロナ禍を経て、大きな変革を遂げた。同社はコロナ禍前に国際線の拡大を目指していたが、緊急事態宣言による運航制限で大きな打撃を受けた。しかし、状況は一変し、緊急事態宣言解除後、利用客が急増。特に国内線の需要が大きく回復し、黒字転換を達成したという。さらに、ペットと飼い主が一緒に機内で旅行できるサービス「FLY WITH PET!」を、2024年1月に全路線に拡大させ、大きなニュースとなった。

広報担当の岸上雄一郎さんによると、このサービスはペットを家族の一員と考える人々のニーズに応えるために生まれ、ペットとともに旅行することの難しさを解消。より多くの人々に快適な飛行体験を提供するために路線拡大へと踏み切った。今回は、スターフライヤーのコロナ禍からの赤字脱却ストーリーと、ペットの飼い主から熱い視線が注がれる「FLY WITH PET!」について話を伺った。

■コロナ禍の運休から黒字化へ!スターフライヤーの劇的回復物語
ーースターフライヤーという航空会社について教えてください。
【岸上雄一郎】弊社は北九州に拠点を置く航空会社です。真っ黒な機材を使っており、機内のインテリアも黒で統一したシックな客室空間が特徴です。ゆったりとした座り心地のレザーシートには、個人モニターと電源を全席に装備(※一部機材を除く)。他社の同型機で180席ある座席数を150〜162席に絞り、「快適なシートピッチでくつろげる」とお客様から好評を得ています。上質なサービスをリーズナブルにご提供するというコンセプトで、就航を開始して18年経ちました。これまでいろいろと困難な状況を乗り越えながら飛行機を飛ばし続け、いよいよ国際線にも力を注いでいこうとしていた矢先にコロナ禍がやってきました。

ーーコロナ禍前とコロナ禍で、利用者はどう変わっていきましたか?
【岸上雄一郎】コロナ禍以前は、北九州から韓国の釜山、名古屋・北九州から台湾の台北というように海外にも就航させて、しっかりと収益をあげていく次のフェーズに入ったところだったのですが、残念ながら2020年以降、コロナ禍の影響で緊急事態宣言が発令され、飛行機の運航が制限されました。その結果、お客様の移動がほとんどなくなり、需要が急減。飛行機を運航するたびに燃料費がかかるため、経費を抑制する必要に迫られました。そこで当時は、定期便の運休や自社保有機の売却などで機数を減らし、固定費削減の一環として人件費やリース料も見直しています。一時的に休業や出向などで人件費を削減するといった対策を講じながら、厳しい状況を凌いできたという状況ですね。お客様に興味を持っていただける企画など、航空事業以外の部分でさまざまな取り組みにも力を入れて頑張っていました。

【岸上雄一郎】ところが事態は一変するんです。昨年(2023年)の5月に緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類に移行すると、お客様の数が急激に増加し、黒字に転換したんです。

ーー黒字転換はコロナの収束やインバウンドの回復が要因ですか?
【岸上雄一郎】まさに、人の動きが戻ってきたことが最大の要因です。現在では2019年度と比較して8割程度まで回復しています。特に一部の路線や便では、コロナ禍前よりもさらに利用が増えているケースもあるんです。まさにアフターコロナバブルとも言える状況になっているので、お客様の回帰が進んでいると感じられますね。ただインバウンドについては、まだ国際定期便を再開していないため要因とは言えないところがあります。黒字転換は主に国内の需要の増加が大きく影響しています。国内の流動性の高まりが、私たちのビジネスにとっても大きな追い風となっています。

ーーコロナ禍の間に、スターフライヤーという飛行機自体が世の中の人に知れ渡ったっていうことなんですかね?
【岸上雄一郎】そうであると、我々としてもすごくうれしいですよ(笑)。分析すると、これまでビジネス利用が中心だったお客様に加え、レジャー利用の方々も増えてきました。特に、コロナ禍での反動から旅行を楽しむ流れが見られますね。国内外問わず、乗り継ぎで東京へ行く動きも活発化しています。たとえば福岡発着の場合でいうと、ビジネス利用とレジャー利用の双方で回復の兆しを見せているという状況です。

ーーでは、この勢いで残りの2割が戻ってくれば、すごいことになりそうですね。
【岸上雄一郎】本当にそうですよね。ただ、各路線には特徴があり福岡と北九州では状況が違うんです。たとえば、羽田ー福岡線は観光やビジネスで多くのお客様が利用しますが、羽田ー北九州線はビジネスの中心地として大企業のリーダーが集まる場所と位置付けています。なぜなら北九州にはTOTOや安川電機、日本製鉄などの大手企業がありますからね。これら企業の関係者は、これまで月に1回の頻度で会議で出張をしていましたが、コロナ禍でリモート対応が増え、需要が変わりました。

【岸上雄一郎】福岡はビジネス交流の場としての重要性が変わらずですが、北九州の需要は完全には戻っていないんです。ですから、残り2割の需要は主に北九州のビジネス利用層ですね。ここをどう取り戻すかが、現在の課題です。

■ペットと一緒に飛行機に!スターフライヤーの新サービス「FLY WITH PET!」が話題
ーー今注目を浴びている「FLY WITH PET!」は、コロナ禍にスタートしたサービスですよね?
【岸上雄一郎】そうですね。もともと弊社には、大手航空会社と比べて、社員が「やりたい」と考えたアイデアを実現しやすい環境があるんです。それで実現させたのが、このペットと一緒に客室内に搭乗し旅行できるサービス「FLY WITH PET!」になります。

【岸上雄一郎】このプロジェクトをスタートさせるきっかけは、社内の同僚がペットを飼い始めたことでした。その話の中で「ペットを飼うと転勤が難しい」という話題が出たんです。そこで、「なぜ日本ではペットを客室で一緒に連れて行けないのか?」という疑問が生まれました。また、昨年の4月に別の社員が東京から福岡へ転勤する際、猫を連れて車で移動したんです。そこで理由を聞くと、「飛行機に乗りたいが、預けるのも心配だし、ペットと一緒に座りたい」という悩みを打ち明けられたので、これを解決するための模索が始まりました。現状を改善してペットと同乗できる新しいアプローチのための調査がスタートしました。

【岸上雄一郎】そして、調査を進めるうちに、海外ではペットの持ち込みが認められているにも関わらず、日本国内の空港や国内線のターミナルビル、国内線の飛行機だけがその対象外であることが判明しました。一番ネックだったのは、航空法の中で施設を管理する部分に関する規定です。具体的には、空港管理規則の第十八条に記載されている、空港で行ってはならない行為の中に「動物を連れてターミナル・ビル及び制限区域に立ち入ること」という文言があるんです。これに関しては、航空局に「この規定がどのような概念に基づいているのか?」と直接問い合わせました。

【岸上雄一郎】すると、実は「連れて入ってはならない」という規定が、リードをして歩かせることを禁止している意味合いであることが判明したんです。ケージに入れて持ち運ぶ場合は、あくまで荷物として扱われるとの返答でした。そこで「荷物ならば、ケージに入れたままならば、航空機の客室に立ち入ることはできるんですよね?」と再確認を取りました。このような誤解を一つひとつ解きほぐす作業を経て、ついに「FLY WITH PET!」サービスを開始することができたんです。

ーーそのプロジェクトを進めるのに、どのくらいの時間がかかったんですか?
【岸上雄一郎】実は、当初は前任者が担当していたのですが、プロジェクトは一度頓挫したんですよ。その後、その前任者が部署移動になり、上司から「もう一度トライしてみよう」と言われ、私が担当することになったんです。私は以前、アメリカの航空会社でチェックイン手続きなどの経験があり、ペットと一緒に旅行するお客様をよく見ていたので、特に違和感はありませんでした。そこからあらためて調査を始め、説得を進めたので1年くらい時間がかかりました。

ーー番大変だった部分はどこだったんですか?
【岸上雄一郎】 一番大変だったのは、航空局との解釈の確認と、空港ビルとの交渉、それに社内での説得ですね。特に、動物に対する考え方の違いが大きな障害でした。日本では、犬を飼う文化が昔は番犬として外での飼育が主流で、ペットに対する意識が海外とは異なっていました。猫も昔は半野良のような形で飼われることが多かったですよね。しかし、海外ではペットを飼うことがステータスとされています。日本でも最近は室内で犬や猫を飼う家庭が増えてきています。ペットオーナーのコミュニティも形成され、ペットを飼うことに対する考え方が変わってきました。コロナ禍でペットを飼う人が一気に増え、実はペットの数は日本人の15歳以下の人口よりも多いんですよ!

【岸上雄一郎】この市場の大きさに着目して、ペットにかける金額の調査を進めました。驚いたのは、ペットに対する支出が子どもへの支出と同等か、それ以上だということです。そこで、ペットオーナーの層や金額設定を考慮しながら、サービスの制度設計を行いました。しかし社内からもまだ反対の声はありました。弊社はビジネス需要が高いため、「今まで乗ってきてくださったお客様が逃げちゃうんじゃないか?」という先入観から、ペット同乗に反対する意見が根強く残っていました。また、「今までやったことがない」という施設管理上の問題もありました。これらの先入観やハードルを超えることが、一番大変だったと思います。

ーーこの「FLY WITH PET!」の価格はいくらですか?
【岸上雄一郎】現在は、1匹片道5万円と設定しています。高いと感じるかもしれませんが、この金額には理由があります。ペットを飼っている方は、そのペットに際限なくお金を使う傾向にあるそうなんです。「金額に比例して、ペットのしつけのレベルが高くなる」というアドバイスを受けたんです。ということは、安い価格設定の場合、しつけが十分でないペットが客室内に同乗するリスクがあります。そうなると、ほかのお客様への影響やクレームが発生する可能性もあるため、最初はやや高めに設定しました。価格を下げるのは簡単ですが、逆に上げるのは難しいので、まずはこの価格でスタートしました。それでも、お客様からは利用いただいており、現状では妥当な価格設定だと思っています。ただ、ペットと一緒に旅行しやすいようにするためには、将来的に価格を下げたいなと、個人的には思っています。

ーーちなみに5万円はどの路線に適用されるのですか?
【岸上雄一郎】まず北九州と羽田を結ぶ路線で始めました。初めは便数を限定して、1日4便で、それぞれ1匹ずつ受け入れる形でスタートしました。朝2便、夜2便、合計で4往復です。クレームやほかのお客様からの意見を取り入れながら徐々に増やしていく予定でしたが、実際には全くクレームがなかったんです。そのため、半年後には北九州と羽田空港を結ぶ便のすべてを対象にし、1便あたり2匹まで拡大して、約1年間続けました。そしてついに2024年の1月15日から、弊社が運航するすべての路線に一律5万円でこのサービスを拡大することができました。

ーー文字通り、ペットと一緒に全国へ飛べる飛行機になりましたね。拡大したということは反響が大きかったからですか?
【岸上雄一郎】そうですね。北九州の路線だけでも年間約200件の利用がありました。それだけで約1000万円の収入になります。北九州の路線でこの利用があるので、福岡などほかの路線でも増加が期待できます。もちろん、福岡の路線を始めると北九州のお客様が若干減るかもしれませんが、それでも全体的には増加するでしょう。また、なぜ最初に北九州で始めたかというと、羽田と北九州の空港でのチェックイン手続きを弊社のスタッフが直接行っているためです。ほかの空港では全日空のグループ会社に手続きを委託しているため、自社で完全にコントロールできる北九州でまず実績を作り、「大丈夫ですよ」ということをほかの空港に示してから、展開したかったんです。

ーー5万円という料金には、早割りなどのプランは用意されていないんですか?
【岸上雄一郎】早割りや便による割引を適用することは難しいんです。今回のサービスは、航空局との議論の中で、ペット料金は大型の手荷物料金と同様の解釈になりました。たとえば、大きな楽器やお相撲さんが追加の席を必要とする場合、通常のチケット料金プラス特別料金で対応するのが一般的です。しかし、ペットに関しては便による波動をつけることができず、特別なペット持ち込み料金として一定額の料金設定になりました。この点は将来の課題と考えています。

ーー将来的に料金を安くする可能性もあるわけですね。
【岸上雄一郎】 たとえば、航空券とホテルをセットにしたパッケージ商品にペット料金を含めるような方法ですね。ペット料金自体は5万円で変わらないですが、航空券やホテルの部分でディスカウントを提供し、全体の価格を調整することは可能です。そういった販売戦略も検討していきたいと考えています。

ーーそれはおもしろい取り組みですね。ペットと一緒に旅行するという新しい市場を開拓したということですね。
【岸上雄一郎】ええ、まさにそうです。過去には、人気リゾートホテルさんと協力して、ペットと一緒に旅行し宿泊できるツアーを企画しました。そのときに、ペットという切り口で、いろいろな他業種とも連携ができるんだなと気が付きました。実は、「FLY WITH PET!」のプレスリリース発表後にも、そのリゾートホテルさんから問い合わせがありました。ですから、このようなサービスが他業種の企業さんと手を組んで展開できれば、ペットを飼っている方々にもっとリーズナブルな旅行の選択肢を提供できると考えています。

【岸上雄一郎】ペットと旅行するオプションがまだ少ないなか、ペットのオーナーさんたちの中で、長期間や遠くへの旅行が難しいという不満があることが調査結果でもわかっています。そんな背景もあって、ペット可のホテルなどが徐々に増えてきているようですね。北九州でのサービス開始時には、JR九州のグループホテルさんに相談したところ、ペットが泊まれる部屋を用意してもらうことができました。驚いたことに、ホテル側が私たちよりも先にペットオーナー向けの商品を作り、ペットが泊まれる部屋を先に提供し始められたんです。コロナ禍だったので、それだけ期待度が大きかったんですね。このように、少しずつペットと一緒に旅行するためにご協力していただけるサービスや施設が広がっているって感じですね。

ーー日本のほかの航空会社では、ペットと一緒に機内に乗ることはまだ実施されていないんですか?
【岸上雄一郎】そうですね。過去に他の航空会社がチャーター便でペットとの旅行ツアーを企画したことはありますが、スターフライヤーのように定期便でペットと一緒に機内に乗るサービスは他社では実施されていません。

■ペット&飼い主と一般客も快適な空の旅を!スターフライヤーの安心対策
ーーこれからは「ペットと旅行するならスターフライヤー」というイメージが定着するかもしれませんね。
【岸上雄一郎】実際、このサービス開始時にはSNSでかなり話題になりました。賛否両論はありましたが、サービスを利用してくださるお客様は多く、ビジネスをはじめとする一般利用客の搭乗率低下やクレームは特にありませんでした。そもそもペットは飼い主と一緒にいると大人しいんですよ。ですから、ほかの乗客も気付かないことが多いんです。空港内でペットが鳴いているのは、飼い主から離れて不安になるからなんですが、「FLY WITH PET!」の機内では飼い主のそばにいるため、そのような問題は起きていません。

ーーペットは飼い主がそばにいたら安心ですもんね。
【岸上雄一郎】はい、まさにそうです。ペットは飼い主のそばにいると安心しておとなしくしています。特に訓練された犬などは、狭いスペースで静かに待つことに慣れているので、長時間のフライトでも問題なく対応できます。

ーーアレルギー対策など、サービス実施に向けてどんな工夫をされていますか?
【岸上雄一郎】まず、機内にご搭乗いただく際は、ペットとその飼い主は最初に機内に入り、最後に降りるようにして、ほかの乗客との接触を最小限に抑えています。また、ペットは最後列の窓側の席に置き、飼い主は隣に座ります。ペットのケージは座席の上に置かれますが、シートカバーを使用し、ペットとその飼い主が降りたあとにその座席を消毒して徹底的に清掃し、次のお客様にも安心してご利用いただけるようにしています。さらに、ペット用ケージの網で抜け毛が飛散しやすくなるので、メッシュタイプのクレートをお貸し出ししてペットの毛の飛散を防止しています。

【岸上雄一郎】ですから、アレルギー反応に関しては、今のところ報告されたケースはありません。もちろん、予約や搭乗手続き時に一般のお客様には、ペットが搭乗する可能性があることを注意事項としてお伝えしています。さらに、ペットに近い座席については、事前のオンラインチェックインや空港の自動チェックイン機で指定できないようにシステム設定しており、後方の座席を利用する場合は、お客様にペットの存在を伝え確認を取っています。こうして、できるだけお客様が「知らなかった」という状況にならないように工夫しています。

ーーそういう配慮があるからこそ、誰もが安心してスターフライヤーを利用できるわけですね。お話、ありがとうござました!

機材の調整や経費を見直しつつ、主要事業以外のアイデアを積極的に採用し、コロナ禍を乗り切ってきたスターフライヤー。厄介な航空法の解釈を打ち破り実現した「FLY WITH PET!」は、ペットの飼い主たちにとって待望の選択肢となったことは間違いないだろう。さらに、ペットとの旅行市場に新たな可能性を見出しただけでなく、日本の航空業界にも新たな価値を提供することになった。きっと、そのほかの航空会社もその動向に注視しているはず。海外では当たり前のサービスが、日本でも当たり前になる日が、近いのかもしれない。

取材=大庭かおり、取材・文=北村康行