11日より開催された「コミックマーケット92」。すでに熱狂の坩堝と化している同イベントだが、ここ数年のコミケでは、二次元キャラになりきるコスプレイヤーたちの間で、刀剣を携えたキャラが人気だ。そうした“刀剣女子”と呼ばれるファンは、キャラへの愛情はもちろんのこと、刀剣に対する並々ならぬ知識を持っている。

 正宗、虎徹、菊一文字、陸奥守吉行、これらが刀剣の名称だと知っている人は多いだろう。では、へし切長谷部、鶴丸国永、鳴狐、歌仙兼定はどうか。この刀剣の読みや逸話をそらんじられる人は、かなりの歴史通か、『刀剣乱舞』のファンではないだろうか。

 2015年にスタートしたPCブラウザゲーム『刀剣乱舞』は、日本の歴史に登場する刀剣を擬人化させた“刀剣男子”たちが活躍。その人気は今なお衰えを知らず、アニメ化や舞台化が繰り返され、刀剣が展示されている美術館にファンが押し寄せる、そんな状況が続いている。

 室町時代より続く刀匠で、靖国神社や熱田神宮などに刀を奉納している“二十六代藤原兼房”氏も、昨今の刀剣ブームを実感しているひとり。「月に一度、関鍛冶伝承館で行われている公開錬があるのですが、以前と比べて見に来られる女性の方が増えました。女性ひとりで見学に来られる方もいるほどです」(藤原氏)

■刀匠の卵たちが臨む、5年に渡る過酷な修行期間
 
 しかし、華やかな一面がクローズアップされる『刀剣ブーム』の裏側で、“深刻な問題”がある、と語るのは『一般社団法人全日本刀匠会事業部』理事の坪内氏。
 「問題となっているのは刀匠の減少です。平成元年に刀匠会に登録していたのはおよそ300人でしたが、今では188人に。しかも超高齢化が進んでいます」と現状を吐露。では、文化の担い手となる若手の育成はというと、そこは“刀匠”という伝統文化ゆえの障壁があると言う。
 「刀匠になるには、刀鍛冶のもとで5年以上の修行が必要となり、しかも完全な無給。なので、一度社会に出てお金を貯めるなり、家族のサポートがないと修行を続けるのは難しい」と坪内氏。また、刀匠は国家資格であり、年に1回、8日間かけて行われる試験に合格する必要がある。さらに、それらを突破した後も独立開業して仕事場をもたなければならず、職場を準備するだけでも1千万円以上はかかるとも。「昨今、刀剣ブームで刀匠への入門希望者も増えています。しかし、修行を続けられる人は非常に少ない」と坪内氏。
 
■ヱヴァンゲリヲンや魔法少女ともコラボも! 二次元と伝統文化の融合

 そして、もうひとつの問題は、“購入者の育成”である。

 坪内氏によれば、刀は一振り数十万から数百万するため、いかに刀剣ブームが盛り上がろうとも、なかなか購入には結びつかない現実も。
 「次世代の刀匠を育てるのと同じくらい、刀を“買う人”を育てないといけない。そのため、若い人をこの世界にいかに呼び込み、どうやって育てるかが重要。この業界の前の世代は、そこをおろそかにしていた」と自戒を込めて坪内氏は語った。
 
 そこで、少しでも若者に興味を持ってもらおうと『全日本刀匠会』がHPに掲載しているのが、漫画『魔法の刀匠 鍛冶屋☆シスターズ』だ…!? この漫画、刀剣好きの女性3人が世界を救うため魔法の力を与えられる、というストーリー。魔法少女は強くなるために刀匠の知識を学ぶ必要があるため、漫画を読む人も、刀匠の世界を自然と学ぶことができるというツボを押さえた力作。ぜひ一読してほしい。
 
 いま、こうした2次元との融合は刀匠界では幅広く実施されている。“全国の刀匠たちが挑んだヱヴァンゲリヲンの世界!”と銘打ち実施されている『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』はすでに5年に渡って全国を巡回し、今後2年間の実施も決まっている。また、二十六代藤原兼房氏は、『二次元 VS 日本刀展』でイラストレーター・夢路キリコ氏とコラボしたファンタジー剣を製作。刀剣ファンの間でその完成度が話題となった。さらに、藤原氏は今年の4月、岐阜県と関市が主催のミラノ・サローネ「CASA GIFU II」に、ヨーロッパで著名なスイスのインテリアデザイナー・パトリック氏とコラボするなど、刀剣文化の普及に尽力している。

■ブームの陰で刀匠界の課題は山積み…しかし光明も

 刀匠の後継者問題や、刀剣の原材料となる玉鋼や木炭の供給が不安定であるなど、課題が山積している刀匠界。しかし、将来の買い手となる刀剣ファンの普及については、少しずつ身を結びつつあると坪内氏。
 「刀剣ファンは確実に育っています。特に30代の女性は行動力もあって頼もしい限り。将来は、そうした方に“刀剣の購入”に興味を持っていただければ」と同氏。以前は、父親が刀を買おうとしても家族に止められたが、今後、母親や娘の理解があれば、刀剣をより購入しやすくなるはず。「高い刀を買わせることが目的ではありません。かつて日本には、出産のお祝いや、嫁入り道具として“お守り刀”を贈る文化がありました。そうした文化の継承のためにも、まずは刀剣への理解者を増やすことが重要です」(坪内氏)