歌舞伎俳優の坂東玉三郎(71)が1日、都内で行われたシネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』の取材会に参加した。

 作家・三島由紀夫が残した「三島歌舞伎」の一つであり、室町時代の「御伽草子」が題材。2009年1月に、歌舞伎座さよなら公演にて上演され、12年に亡くなった十八世中村勘三郎さんが演じるおちゃめでユーモラスな鰯賣猿源氏と、坂東玉三郎が演じる秘密をかかえた美しい傾城蛍火が織りなす恋模様を描いた名舞台。二人の息の合った掛け合いから愛嬌あふれる花道の引っ込みまで、おとぎ話のようなハッピーエンディングの物語。この度、新作シネマ歌舞伎としてよみがえる。

 猿源氏は、十八世の中村勘三郎さんの当たり役。思い出を問われると玉三郎は「相談はあまりしない。相手に合わせて、向こうも合わせる」と振り返る。回数を重ねても変えた部分は少なかったそうだが「最後の時に、観音様をいただく時に哲明ちゃん(勘三郎さん)が『丁寧にいただいて、お礼を言って帰りたいんだよね』って言うから『それでいいんじゃない』と。お客様にもお礼の気持ちがあるっていうのが印象的ですね」と懐かしんでいた。勘三郎さんも『鰯賣』が好きだったそう。「まさかこんなに早くいなくなっちゃうとは思っていなかった。そういう意味では、撮っておいてよかった。シネマとして見られてよかった」としみじみと口にした。

 また、歌舞伎を知らない人にもメッセージ。「勘三郎さんが、どういう人か楽しんで見ることができる。それと、三島由紀夫先生の作品の中に、こんなに幸せになれる物語がある」と語った。

 歌舞伎鑑賞への思いも。「歌舞伎って支離滅裂なこともあると思う。それをつなげて観ようと思わないこと。演劇って基本的に飛躍しているもの。その飛躍を楽しめるか、どうか。『ロミオとジュリエット』で仮死状態になる薬を牧師さんからどうやってもらうの?(笑)。『ハムレット』のお父さんらしい亡霊が言ったことを信じてよく敵討ちできる? シェイクスピアだって飛んでいる。そこに宿る魂を感じられたら、それでいいんじゃない? シェイクスピア好きな人に『歌舞伎はわからない』って言われてもシェイクスピアだってわからない。演劇ってそういうもの」と呼びかけていた。

 シネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』は6月4日から公開。