経済学の教授に聞いた!日本でのベーシックインカム制度導入の実現性フィンランドのベーシックインカム実験についてご存知だろうか。コロナ禍の日本でも、政府が国民に対し最低限の所得を保障するベーシックインカム制度の導入論が議論されているが、皆さんはどうお考えだろう。「教えて!goo」にも、「国はベーシックインカムをやってくれるのでしょうか?」
という投稿があり、その関心度の高まりがうかがえる。そこで今回は、名古屋工業大学大学院教授の徳丸宜穂さんに、日本でのベーシックインカム制度導入の実現性について話を聞いた。

■フィンランドのベーシックインカム実験

ベーシックインカムとは「政府が無条件ですべての国民に対し、生活に最低限必要な現金を毎月支給する制度」のことである。まずは、フィンランドで行われた実験について教えてもらった。

「フィンランドのベーシックインカム実験は、2017年1月から2年間に渡って行われました。失業者からランダムに選ばれた2,000名に月額560ユーロを無条件で給付し、その効果を検証するという試みです」(徳丸さん)

どのような目的があったのか。

「フィンランドは、世界で最も充実した社会保障制度の仕組みを持つ国の一つですが、社会経済的に非常に厳しい状況にあることも無視できません。他の北欧諸国と比べ、経済停滞や失業率が高い状況でした。追い討ちをかけるように少子高齢化が進んでいたことから、当時の右派連立政権は、財政支出と失業率の圧縮を実現する手段の一つとして、社会実験を提起しました。無条件の給付であるベーシックインカムなら、給付対象者の選別や、給付を行うための予算、人員を削減できるという算段もありました」(徳丸さん)

主にベーシックインカム受給者の求職行動への影響を検証することが、実験の目的だったようだ。

「従来の失業給付金は、就業時に打ち切られるため、失業者が就業をためらい、結果的に高失業率を招く原因となっていました。就業しても給付が打ち切られないベーシックインカムの受給により、失業者の求職行動は促されると期待されましたが、実際はそうなりませんでした。とはいえ、受給者の起業事例も見られ、生活満足度は上昇したという結果になりました」(徳丸さん)

実験の規模や趣旨が限定的だったため、フィンランド国内では批判の声もあったようだ。日本での注目度はいかに、また世論はどう反応したのだろうか。

「日本でもこの社会実験に対する関心は高く、『フィンランドでベーシックインカムが導入された』という誤報も多く見られました。この社会実験の社会経済的背景や、控えめな実験だったという事実があまり顧みられず、その意義を過大評価する論調が目立っていた印象です」(徳丸さん)

コロナ禍の経済情勢も関係したのか、「無条件の現金給付」に魅力を感じる日本人は少なくなかったようだ。

■日本でベーシックインカム制度の実現性はあるか

コロナ禍の日本で、貧困や格差問題の解決策としてのベーシックインカム導入は有り得るのか。

「フィンランドの実験結果から見ても、ベーシックインカムが人々の生活を保障するための盤石な手段とは言い切れません。フィンランドでは、ヘルスケア分野において民間サービスへの依存が高くなってきており、利用できる所得階層の人々の費用負担も増えています。一方、公的サービスのほうは、質、量ともに問題視されています。ベーシックインカムが導入されても、公的サービスの後退が続くなら、利用者の受ける福祉水準が低下する可能性は否めません」(徳丸さん)

所得をベーシックインカムで補うだけでなく、公的サービスの質や量を保証した上で、費用負担の増加抑制が追求されるべきなのだ。それは日本も似たような状況のようだ。

「日本は、北欧諸国に比べて税負担が軽い代わりに、公的サービス給付も手薄です。高等学校以降の教育費が有償であることはその典型的な例であり、家計による民間サービスへの支出は年々増えています。この状態のままベーシックインカムを導入しても、多くの福祉水準の低下を食い止められません。また、財政状況を考えると、他の社会保障制度の削減なしにベーシックインカムの導入実現は難しそうです」(徳丸さん)

日本は、「ベーシックインカム導入より先にやるべきことがたくさんある」というのが現状だろう。まだまだ、導入までには道のりがありそうだ。今回のお話で、「現金給付と引き換えに生じる負担」についても考えるよい機会になったのではないだろうか。

●専門家プロフィール:徳丸 宜穂
名古屋工業大学大学院工学研究科教授(経済学)。日本と同様の問題を抱えている北欧諸国が、どのように異なる対策を行っているのか研究している。ベーシックインカムに関する研究もある。

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)