毎年実施される南極観測。2020年度も南極観測隊員と物資を載せた南極観測船「しらせ」が日本と南極を往復します。その時、持ち帰ってくるのが南極の氷。「南極のお土産」として広報事業や研究に活用される以外に、実は重要な役割を果たしているのです。

 2020年の第62次南極地域観測では、11月20日に横須賀を出港した南極観測船しらせ。新型コロナウイルスの持ち込みを防ぐため、出発前に14日間の隔離(洋上停留)をしたほか、例年補給と観測隊員搭乗のため寄港するオーストラリアのフリーマントルに寄らず、横須賀から全員が乗り込んだ上、無寄港で日本と南極を往復する予定です。

 しらせは12月中旬に南極圏へ突入。氷海を進みつつ、12月20日から搭載航空機のCH-101を使用した優先物資の空輸作業も始まりました。


 年が明けた2021年1月18日には越冬交代式が開催され、日本への帰途へつく南極観測船しらせ。この時、廃棄物や持ち帰り物資の一部として「南極の氷」を一定量積み込みます。

 南極の氷は降り積もった雪が圧縮され、氷結したもの。内部には雪が降った当時の大気や物質が含まれるため、当時の気候や南極で起こった現象を読み解くタイムカプセルのような存在です。

 もちろん、極地研究のために活用される分もあるものの、多くは広報用として「南極の石」とともに、一般の人に見て触ってもらうのが「南極の氷」の役割。日本中で展示するため、どんどん溶けてなくなってしまいますが、なぜこれほど多く持ち帰るのでしょうか。

 それは「重り」としての役目。日本を出発する際は、越冬隊が1年間に消費する食料や燃料といった消耗品を満載していくしらせですが、帰りは廃棄物や乗組員用の食料など搭載物資は多くありません。これが南極からの脱出を困難にさせてしまうのです。

 しらせは運用する海上自衛隊での呼称を「砕氷艦」といいます。文字通り、極地の海氷を砕きながら進む艦艇ということですが、その方法は「艦首を海氷上に載せ、船全体の重みで押し割る」というもの。船の重量が軽いと、その分砕氷能力が低下してしまいます。


 このため、持ち帰り物資と一緒に「南極の氷」を多めに積み込み、しらせを重くして出発するのです。氷を採取する場所は決められており、そして重量をかせぐ必要な分だけしか積載は認められていません。

 氷を積み込んでも、しらせの搭載物資は往路の約1050トンに比べ、南極からの復路は約520トンと半分。それだけ食料や燃料などの消耗品が多いということが分かりますね。

 復路の時期は夏真っ盛りとなるので、比較的海氷の状態も良いそうですが、それでも場合によっては立ち往生してしまうこともあるとか。その際は少し後退し、勢いをつけて海氷の上に突入する「ラミング(体当たり)」という方法で進路を開きます。

 南極観測隊を乗せたしらせが母港の横須賀に帰ってくるのは、2021年2月22日の予定。今回は無寄港での往復となるので、艦長以下乗組員の緊張も大きいでしょう。無事に帰ってくることを祈りたいですね。

<出典・引用>
海上自衛隊ホームページ「第62次南極地域観測協力」
Image:海上自衛隊/咲村珠樹

(咲村珠樹)