1985年に北条司が「週刊少年ジャンプ」にて連載を開始し、コミックスの発行部数は全世界で5,000万部を超え、今なお世界中で絶大な人気を誇る「シティーハンター」。

テレビアニメ放送開始から35年を迎えた今年2023年、「シティーハンター」の代名詞でもある、TM NETWORKによるエンディングテーマ「Get Wild」のリリースからちょうど35年が経った2022年4月8日に、待望の新作劇場版の制作が発表された。

そして本日9月8日に公開された『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』。本作は、昨年大ヒットを記録した『トップガン マーヴェリック』に負けず劣らず、往年のファン納得の内容だ。

シティーハンターといえば新宿 

法で裁けぬ悪と闘う「シティーハンター」こと冴羽獠。超一流の射撃の腕をもつ、裏社会No.1の始末屋(スイーパー)。彼に仕事を依頼するときは、JR新宿駅の伝言掲示板に「XYZ(もう後がないの意)」と書くのが決まりだ。

本作で掲示板でのコンタクトを取ってきたのは、謎めいた美人YouTuberアンジー。

実社会でのJR新宿駅には伝言掲示板は存在しない(本作公開を記念して、9月10日までJR新宿東口に掲示板が設置)。しかし、劇中では警視庁特捜科の刑事である野上冴子の計らいで、JR新宿駅南口のNeWoman前あたりに設置されている。

そう、現代の新宿を舞台にシティーハンターの世界が広がっている。新宿の花園神社、吉本興業本社のような廃校で、お台場温泉、海ほたるで銃撃戦が繰り広げられる。そしてこの劇場版はテレビアニメのようにオープニングとエンディングが存在する。その背景のひとつひとつが今の新宿の背景だ。細かい演出がなんとも心憎い。

また冴羽獠は、新宿観光振興協会公認で新宿観光アンバサダーに就任。新宿観光案内所には等身大フィギアが設置され、数量限定で、特別名刺を配り広報活動に従事している。また、歌舞伎町タワー内のカフェには、冴羽と海坊主のコラボメニューが登場し、「天下一品 歌舞伎町店」は、9月18日まで、店内の壁やテーブルなどが「シティーハンター」一色に染まる。新宿は街をあげてシティーハンターを盛り上げている。

シティーハンターといえば”もっこり”と遊び心

コラボといえば、本編中では冴羽のパートナー槇村香がサッポロ黒ラベルを飲み、彼らを付け狙う暗殺チームが、エースコックの「飲み干す一杯 鴨だし中華そば」を美味いとすする。

また、各キャラクターの愛車にも企業コラボがあったように思われる。冴羽はお馴染みの赤いMINI(ナンバーは新宿300 あ19−19)、野上冴子も同様にポルシェ930ターボ。しかし、海坊主の愛車は、テレビアニメ版ではトヨタのランドクルーザーに乗っていたが、本作はそうではない。フロントグリルの形状から推察するに、先日発表された新型レクサスLX600ではないだろうか。同じトヨタ車ということからあり得ない話ではないだろう。

本編中の現代っぽさで付け加えると、無類の女好きである冴羽は、”もっこり獠ちゃん”という名前で、マッチングアプリでナンパするようになった。昭和世代のアニメファンには、相変わらずで嬉しい限りだが、コンプライアンスが声高に叫ばれる現在、こちらが心配になるくらい”もっこり”を連発する。これにはきちんと意味がある。物語終盤、あんな悲しい”もっこり”があるなんて‥‥。

アニメ放送当時そのままの遊び心がふんだんに盛り込まれているのは、前作『劇場版シティーハンター <新宿プライベートアイズ>』に続き、こだま兼詞が総監督を務め、「シティーハンター」のアニメ作品を手がけたサンライズが制作、と「シティーハンター」に関わりの深いスタッフが本作にも携わっているからに他ならない。

シティーハンターといえばTM NETWORK

テレビアニメ版「シティーハンター」のアンセムと言えるTM NETWORKの「Get Wild」。近年、“会社のドアを開けると同時に聴くといい仕事をした気分に浸れる“という「Get Wild退勤」が、Twitterを中心に話題となった。大人になった今も、多くのシティーハンターファンが、この楽曲を愛している証だろう。前作にあたる2019年2月8日に公開された『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』では、テレビアニメ版「シティーハンター2」のエンディング曲「STILL LOVE HER」が挿入歌・エンディングテーマとして使われたように、シティーハンターとTM NETWORKは共にある。

本作でもその関係性は健在。むしろ強固になっている。オープニングには、9月6日に発売されたTM NETWORKの新曲「Whatever Comes」が流れる。いい意味で懐かしいサウンドの作詞を手掛けたのは、小室みつ子だ。 

小室みつ子といえば、TM NETWORK初期、「Get Wild」を始め「吸血鬼ハンターD」の「YOUR SONG」、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のテーマ曲「BETOGETER BEYOND THE TIME」、『僕らの七日間戦争』の「SEVEN DAYS WAR」など数々の名曲を手がけた作詞家である。このクレジットを見ただけで歓喜するファンは少なくない。 

TM NETWORKは、2024年4月21日にデビュー40年を迎える。
そのスターティング・プロダクツの第一弾として、2023年6月14日に発売されたアルバム「DEVOTION」から「DEVOTION」「君の空を見ている」が挿入歌として採用。くわえて、テレビアニメ版「シティーハンター3」のオープニング曲「Running to Horizon」に、彼らの記念すべきデビューシングル「金曜日のライオン(Take it to the lucky)」も劇中に流れる。

ともに長い月日を歩んできたアニメと楽曲が周年を祝うようで堪らない。耳から入るあの音で一気に「シティーハンター」の世界へ引き込まれてしまう。

シティーハンターといえばエンディング

本編中、香が冴羽を折檻する100tハンマーに「続編希望!まだまだいけます」とあるように、アニメ放送開始から35年、節目を迎えた今も、我々ファンをまだまだ熱くさせる。ここで、ファン垂涎の胸熱ポイントを紹介したい。

レジェンド声優たちが演じるメインキャストのほか、シティーハンターに関連性のある別作品の超有名キャラクターが多くカメオ出演する。過去作からの繋がりを考えるとまた違った楽しみができる。

最終章と銘打っているように、冴羽の育ての親で、「シティーハンター」のラスボス・海原神(「キャッツアイ」にも登場するのは同姓同名の別人)が登場する。
海原をトップとする犯罪組織が、冴羽の元パートナーで槇村香の兄・槇村秀幸を殺害したのだが、この組織がテレビアニメ版では「赤いペガサス」で、原作マンガでは「ユニオン・テオーぺ」と異なっていた。本作で「赤いペガサス」の上位組織が「ユニオン・テオーぺ」ということが明かされ、長年のモヤモヤがすっと解消される。

ルパン三世のワルサーP38とならび、昭和世代の男児が憧れた、冴羽の愛銃コルトパイソン357マグナムが、本作では2丁登場する。もうひとつは一体、どんな人物が使用するのか、そこにどんな想いがあるのか。

また、本作が往年のレジェンド声優同窓会といっただけじゃなく、新キャストも負けていないところが素晴らしい。暗殺者ピラルクー役・関智一の情感こもった演技に、謎めいた美人依頼人アンジーの沢城みゆきの熱演に涙する。特に物語後半の長尺パートの沢城みゆきが圧巻で、その演技に観客は震えることだろう。

ファンならずとも、劇場版アニメとしての魅力が盛りだくさん。物語が収束し、冴羽獠が過去と対峙する次作の展開を匂わせたラストシーンにカットインで流れるのは、ファンなら誰もが脳内再生できる、あのエンディング! もちろんエンディングテーマは「Get Wild」! もう言うことなし!! 鑑賞後は颯爽と夜の街に繰り出したくなるはずだ。アニメをリアルタイムで観ていた世代は、会社を早退してでも劇場に運んでほしい。

文 / 小倉靖史

作品情報 映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』

法で裁けぬ悪と闘う超一流の始末屋(スイーパー)・冴羽獠とそのパートナー槇村香が様々な依頼を受け事件を解決していく物語。現代の東京を舞台にそのストーリーは冴羽獠の過去、そしてパートナーであった槇村秀幸の死の核心に迫っていく。原作で重要な役割をもつ「エンジェルダスト」をタイトルに冠する今作で『シティーハンター』は新たな局面に突入する。追憶の彼方にあるものは、愛か、憎しみか。「天使の涙(エンジェルダスト)」が意味するものとは‥‥。『シティーハンター』は遂に「最終章〈ファイナルチャプター〉」へ。

総監督:こだま兼嗣

原作:北条 司

出演:神谷 明、伊倉一恵、一龍斎春水、玄田哲章、小山茉美

配給:アニプレックス

©︎北条司/コアミックス・「2023 劇場版シティーハンター」製作委員会

公開中

公式サイト cityhunter-movie.com