新型コロナウイルスによる緊急事態宣言によって映画やドラマが撮影休止、演劇公演が上演中止や延期になり、その代わりに、次々と遠隔操作による映画やドラマ、演劇作品が短期間で作られ配信されるようになった 。

リモートドラマ、リモート映画、リモート演劇と名前がつけられたそれらは、基本、部屋に俳優がひとりいてリモートで撮影したものを配信するので、ドラマと映画と演劇の境界は限りなく曖昧になっている。

各ジャンルのオーソリティから新人まで様々な才能がリモート作品を発表する中で、WOWOWは、YouTube WOWOWオフィシャルチャンネル、WOWOWメンバーズオンデマンドにてリモートドラマを4夜連続で無料配信した(6月末まで配信中)。それが大泉洋と吉田羊ダブル主演による「2020年五月の恋」である。4日間、各話15分弱の作品が連続ものとして視ることができるので、これはやっぱり映画でもなく演劇でもなく“ドラマ”である 。

2020年 五月の恋

2020年5月、在宅ワークをしているモトオ(大泉洋)はうっかり、元妻のユキコ(吉田羊)に間違い電話をしてしまう。離婚してから4年、連絡をとっていなかったふたり。スーパーのパートから帰ってきたところで疲れているユキコは最初のうち、モトオを冷たくあしらうが、モトオは人懐っこさ全開で話を続けようとする。

お互い探り合いながらも、元夫婦という気安さも手伝って、毒舌や冗談なんかも交えながらじつに流暢におしゃべりが続き、過去の思い出をまぶしながら互いの近況を知っていく。昨今の社会情勢での労働にストレスを感じていたユキコはついついモトオに愚痴を語りだす。モトオは人の話を聞くのが上手で、ユキコの心をほぐしていくかのようだが、そんなモトオもそれなりに悩みはあって…… 。

画面の左にモトオ、右にユキコ。そのレイアウトは変わらないままだが、ふたりは時々部屋の中を移動するし、カメラもいろいろな角度から各々を映しているので、ビジュアル的に飽きることはない。この感じはなんとなく演劇的でもある。舞台の両端に互いに部屋のセットがあって、そこで各々が演技している二人芝居の雰囲気がする。

ただ、リモートなので、ふたりは同じ空間にいない。それでも大泉と吉田の息はピッタリに感じる。今回のリモート企画の発案者である吉田羊は「映像なんだけれども舞台劇のテンションでお芝居できる人」ということで大泉洋を指名したそうだ(公式サイトのインタビューより)。

間違い電話から毎日電話するようになった元夫婦。さて4日目はどうなる? というシンプルなストーリーだが、岡田惠和が書いた会話劇は軽妙で、情報と笑いが過不足なく盛り込まれ、毎回、ふたりが強がっているところと弱いところと、緩急自在の脚本と芝居で楽しめる。吉田は、大泉を「間や呼吸を読むのがうまい人」と信頼していて、そのとおり、大泉と吉田の電話ごしの会話の間合いはじつに見事であった 。

2020年 五月の恋

ユキコとモトオのあまりの息の合い方に、こんなお似合いなふたりがなぜ離婚したのだろうかなんてことも不思議に思いもするが、やはり離婚した夫婦だから完全に仲良しではなくて、どこか牽制しあっているし、何か含みも感じる。探りあう男女の心理戦の様相も呈する大泉と吉田の芝居には少しの緩みもない。でも見ているほうにはそんな緊張の圧迫感は感じさせず、軽やかに時が過ぎていく。ひたすら楽しく、ふいに泣きそうになったり、キュンとしたりしながら、ひとときも目が離せない。

タイトルに、“2020年の5月”とあるだけに、実際の2020年の社会状況下で働く人々の気持ちをダイレクトにすくいあげている台詞も多い。ユキコの抱える辛さのモトオの受け止め方がこれぞ私達の大好きな大泉洋! という感じで癒やされる。ぼやきもするが、ちょっと塩対応の元妻扱いが絶妙なのである。岡田惠和の脚本と大泉洋の演技の最高のコラボだと思う 。この企画を立ち上げた吉田羊はすばらしい(もちろん吉田の演技もすばらしい) 。

いま、この時期のリモートドラマは、見ている側(発信者側も?)の閉塞感のガス抜きと、明日はきっといいことがあるというちょっとした希望かなと思う。ちょうど、再放送中の朝ドラ「はね駒」で樹木希林が「明日はいいことあっぺ 明日はいいことあっぺ 明日のことがわからねえから人は今日一生懸命生きていかれんだ」という台詞を言うのだが(脚本:寺内小春)、まさにそんな感じのドラマである 。

「はね駒」は岡田惠和作品ではないが、岡田も朝ドラを3作も書いている。毎日15分の朝ドラを書いてきただけあって、次回への引っ張り方もじつに巧みだ。スムース過ぎてもつまらないが、いい流れをちょっと脱線させるアイデアが効いていて会話劇の見本のよう。毎回の余韻もいい。監督は、吉田の主演映画『ハナレイ・ベイ』を撮った松永大司。『トイレのピエタ』で新藤兼人賞の銀賞を受賞している才人である。

ドラマなんだけど、舞台的でもあり、映画的でもあり、コロナ禍という予想しえなかった出来事から生まれた新しいスタイルのとば口のような気もする。

文・木俣冬

放送情報 『2020年 五月の恋』

脚本:岡田惠和(「連続ドラマW そして、生きる」、連続テレビ小説「ひよっこ」、「最後から二番目の恋」)
監督:松永大司(『ハナレイ・ベイ』、『トイレのピエタ』)
出演:吉田羊 大泉洋
製作著作:WOWOW

無料配信中(6月末まで)
YouTube WOWOWオフィシャルチャンネルhttps://www.youtube.com/user/WOWOWofficial
WOWOWメンバーズオンデマンド
https://mod.wowow.co.jp/series?id=45662

7/5(日)午後1:00より WOWOWプライムにて[特別版]無料放送

公式サイト: https://www.wowow.co.jp/drama/original/gogatsunokoi/

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