韓国映画初のカンヌ映画祭パルムドール受賞をはじめ、第92回アカデミー賞では作品賞・監督賞他4冠受賞の快挙を成し遂げたポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』。日本でも大ヒット上映中の本作で宣伝プロデューサーを担当した星安寿沙さんに、宣伝秘話や、近年のポン・ジュノ監督作品を連続して配給し、独自の個性を発揮するビターズ・エンドについてお話をうかがいました。また日本の様々なクリエイターたちと交流を持つポン・ジュノ監督の素顔や、6月12日から公開が始まった『パラサイト 半地下の家族』【IMAX】の見どころも明らかに。

映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子が代表を務める予告編制作会社バカ・ザ・バッカは、ビターズ・エンドとは20年ぶりの仕事となった『パラサイト』の予告編を担当。ポン・ジュノ監督の初期作『殺人の追憶』の予告も担当したことから、当時の思い出も語られます。

スクリーンの大きさと音響に注目の『パラサイト 半地下の家族』【IMAX】

――『パラサイト 半地下の家族』【モノクロver.】観に行って来ましたよ〜。面白かった〜!こんなストーリーだった?と思うほど。地下に行くドアが真っ黒で吸い込まれるようで怖かった。そして、【IMAX】も公開しましたね。このIMAX版もモノクロなんですか?

いえ、IMAX版はカラーです。私も当初、このバージョンがあることは全然知らなかったので、IMAX版があると聞いたときはビックリしました。

――IMAX版はどんなところが見どころですか?

スクリーンの大きさによる臨場感もそうですが、豪雨のシーンなどの音のダイナミックさも感じてもらえると思います。

――今回、『パラサイト』が大ヒットしたことで、この作品を配給したビターズ・エンドさんってどんな会社?って思った人もいると思うのですが、問い合わせとか多かったんじゃないですか?私は聞かれた時に「良質な映画を配給したり、製作したりしている会社なんですよ。」ってお答えしておきました。会社が出来てからどれくらい経つんですか?

今年で27年目に入りました。

――社長の定井勇二さんはポン・ジュノ監督と仲が良かったんでしたっけ?

13年ぐらい前からのお付き合いだと聞いています。最初は『TOKYO!』 (2008年)というミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノがそれぞれ東京を舞台にして撮ったオムニバス作品がありまして、弊社が製作にも入っていて配給した作品なんです。そこからポン・ジュノ監督とのお付き合いが始まって、『母なる証明』 (2009年)、『スノーピアサー』(2014年)と配給を続けてきて、『パラサイト』は2018年のトロント国際映画祭で脚本の段階で買っています。

――そうそう。アジアやヨーロッパの監督たちは、各国に企画や脚本の段階から購入してくれるプロデューサーを大事にしていますよね。

そうかもしれないですね。これは代表の定井の方針でもあるんですが、ビターズ・エンドでは、この監督は才能がある、この監督の作品を配給したいと思ったら、ずっと長く手掛けるというスタンスなんです。

――でも、監督と信頼関係が出来ていないと、いくら買い付けたいと言っても無理ですよね。

そこはうちでやりたいと熱意を伝えた部分もあったとは思うんですけど、『パラサイト』を配給できたのは、お互いに信頼関係があったということも大きいのかなと思います。

――今年、ビターズ・エンドさんはどんな作品があるんですか。

公開中の『その手に触れるまで』はダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ)の新作なんですが、これも『パラサイト』と同じ年のカンヌで監督賞を受賞した作品です。

(C) Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

『その手に触れるまで』 公式サイト: http://bitters.co.jp/sonoteni/

――ダルデンヌ兄弟の作品も、ずっと配給されてますよね。

20年以上配給し続けている監督の最新作になります。イスラム過激思想に傾倒していく少年が、先生を殺したいという欲望に駆られるんですが、多くの人たちとの関わり合いの中で、どう変わっていくのか。どうしたら、他者を受け入れることができるのかを問う普遍的な作品です。

――『今宵、212号室で』(6月19日公開)はどんな作品ですか?

これもカンヌである視点部門最優秀演技賞を受賞した作品で、マルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘のキアラ・マストロヤンニが主演です。中年夫婦が離婚の危機を迎えて、妻がアパルトマンの向かいにあるホテルの212号室に籠もるんですが、うたた寝から目を覚ますと、若い頃の自分の夫が現れる・・・という大人なファンタジーです。

(C) Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema

『今宵、212号室で』 公式サイト: http://www.bitters.co.jp/koyoi212/

――これはどこで上映されるんですか?

Bunkamuraル・シネマとシネマカリテなどで上映されます。

――邦画もありますね。

『のぼる小寺さん』という作品で、公開は7月3日になります。オリンピックでも話題のボルダリングに夢中な女子高生・小寺さんをめぐる話で、すべての頑張る人の背中を押してくれるような爽やかな青春ストーリーです。元モーニング娘。の工藤遥さんが主演で、伊藤健太郎さんなど旬なキャストがたくさん出演しています。

(C) 2020「のぼる小寺さん」製作委員会 ©珈琲/講談社

『のぼる小寺さん』 公式サイト: http://www.koterasan.jp/

映画をとおして知る世界

――では、次は星さん自身のお話を聞かせてください。どういうきっかけで映画の宣伝を始めたんですか?

2013年にビターズ・エンドに入ったんですが、その前は通信キャリアで働いていました。

――最初から映画の宣伝をしようとは思ってなかった?

学生のときに「東京学生映画祭」という学生が作った自主映画を集めて上映するイベントの運営スタッフを長らくやっていたり、映画館でアルバイトをしたり…と、漠然と作り手と見る側を繋げる仕事に将来つけたら良いなと思っていました。インターンで松竹さんの宣伝部にお邪魔したこともあったんですが、そのときに異業種から転職されてきた方も何人かいらっしゃって、大卒後はマーケティングだったり、異業種だからこそ学べる価値観だったりをまずは身に着けたいなと思ったんです。

―― 一般の会社で働いて、そこから次は映画の宣伝をやろうと思って転職したわけですか?

映画業界にすんなり転職できるとは思ってもなかったんですが、タイミングよく好きな作品が多かったビターズ・エンドの求人が載っていたので履歴書を送ったら面接をしてもらえて、入社することになりました。

――星さんは『パラサイト』や『在りし日の歌』の様なアジアの映画の宣伝を中心にやっている印象がありますね。

アジアの映画もやるのですが、弊社が配給する映画は色んな国の映画があるので、アメリカやヨーロッパ、キルギスの映画や邦画も担当したことがありますし、そうした経験が『パラサイト』の宣伝にもつながったのかもしれません。

――もともと小さい頃から映画はお好きだったんですか?

小さい頃から毎週映画館に行っていたというわけではなのですが、学生のときに比較的多く見るようになって、アメリカやヨーロッパ以外の国の作品なども見ることが増えてくると、この国の人たちはこんなことを考えて生活しているんだとか、自分が生きる社会をこんなふうに見つめている監督がいるんだということがすごく面白くて。

――それなら、ビターズ・エンドさんの配給する映画はぴったりですね。

そうかもしれないですね。その頃からビターズ・エンドが配給する映画も好きで見ていました。会社に入ると、監督が来日することも多く、身近でそうした話に触れることも多くて、本当に映画っていろんな世界を見せてくれるのが素晴らしいなと思うようになりました。

これからの映画館で映画を楽しむために

――星さんにとっては、『パラサイト』は今まで宣伝で関わった作品の中でも思い出深いものになったんじゃないですか?

本当にそうですね。こんなに長期戦になるとは私も思っていませんでした(笑)。1年間同じ作品の宣伝をすることはないので。

――そうでしょうね。こんなに大ヒットする作品に関わることができるのも、そう毎年あるわけじゃありませんものね。

人生に一回あるかないかぐらいのものだったと思うので、本当に関われたことが光栄だったんですが、そのぶん胃が痛い日々を……(笑)

――えっ、どうしてですか?

良い作品であるがゆえに、多くの方に観てもらえるよう、良い形でお届けしなければ…と、胃がキリキリしました(笑)

――ちゃんと良い形で、観客のみなさんに届いたから良かったですね。気になっていたんですが、アカデミー賞受賞後にポン・ジュノ監督が来日されたときは、どんな雰囲気でしたか?

日本でも交友がある映画監督や俳優の方たちがお祝いに駆けつけてくださいましたね。そこで、次に撮影するときにはお互いの現場に行こうと約束していたりして。刺激を受け合っていて、すごくいい関係性を築いているなと。素晴らしいことだなと思いました。

――日本では是枝裕和監督とも仲が良いんですってね?

是枝監督には、今回も対談などでご協力いただきました。ポン・ジュノ監督は漫画にも造詣が深いのですが、浦沢直樹さんや古谷実さんが大好きで。浦沢さんとは、数年前もお会いになっているんですが、今回も対談をしていただきました。自分が好きだと感じる日本のカルチャーからも刺激を受け、そこから得たものを作品に反映させているようにも感じるので、同時代に作品を生み出している方たちと交流しているのは、とても良いことだなと思いました。

――『パラサイト』は営業を再開した劇場でもまた上映されていますし、【モノクロver.】【IMAX】の上映も始まりましたし、星さんもまだ『パラサイト』の仕事が続きそうですね。ステイホーム期間中は、宣伝の仕事はどうされていたんですか?

『パラサイト』は今後パッケージの発売もあるのでそのやり取りや、『在りし日の歌』という中国映画を担当していたのですが、公開から1週間もしないうちに休映になってしまったので(今は上映が再開されています)、そうした仕事を在宅でやっていました。

――普段はお忙しいでしょうから、少しは時間に余裕ができたんじゃないですか?

そうですね。時間に少し余裕ができた分、見逃していた映画を配信などで観ていました。

――私も普段はなかなかそういう時間が取れなかったので、昔の作品を見返したりしていましたよ。ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』 (2004年)も久々に見て面白いなあと思ってましたよ。あの映画は、うちの小松が予告編を作ったんですけど、当時、試写を見せていただいたときに負けたって思ったんですね。何に負けたって日本映画負けちゃったよって思って。

本当に今見ても面白いと思います。そういう意味では、ステイホーム中は多くの方が、昔の映画にふれる期間にもなったんじゃないかと思います。配信でお気に入りの監督を見つけて、劇場に追いかけていってもらいたいですね。

――そうね。昔の映画にふれて、また劇場に行ってもらえるといいですね。今はまだ劇場へ行くのは我慢しようかなとか思う人もいると思いますが、劇場側は換気もちゃんとやってるし、座席の間も空けて座るようになってるし、いろんな対策を取っているので、やっぱり大きなスクリーンで観てほしいっていうのがありますよね。久しぶりにスクリーンで予告編を観たらドキドキしましたもの。

そうですね。映画館も安全面を考えてしっかり対策をとっていただいているので、来場する皆さんにもご協力をいただきながら、安心して足を運んで頂けると嬉しいなと思います。大きなスクリーンで予告編を観て新作を知るワクワクも劇場ならではの楽しみ方ですし、映画館に行く習慣を忘れずにいてほしいなと思います。

インタビュー/池ノ辺直子
構成・文 / 吉田伊知郎

プロフィール星 安寿沙(ほし あずさ)

ビターズ・ エンド 宣伝プロデューサー

1988年生まれ。配給会社や映画館でのインターン・アルバイト、学生映画祭運営などを経て大学卒業後、通信キャリアへ入社。その後「映画と観客を繋げる仕事がしたい」と2013年、映画配給会社ビターズ・エンドに入社。宣伝パブリシストとして『牯嶺街少年殺人事件』、『チョコレートドーナツ』、『おみおくりの作法』、『恋人たち』など約30作品を担当。宣伝プロデューサーとしては『パラサイト 半地下の家族』のほか、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』、『ある少年の告白』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、『在りし日の歌』(公開中)などを手がける。

作品情報 『パラサイト 半地下の家族』

【 IMAX】 6月12日(金)公開
【モノクロVer.】 公開中

全員失業中、“半地下住宅”で暮らす貧しいキム一家。長男ギウは、“高台の豪邸”で暮らす裕福なパク氏の家へ家庭教師の面接を受けに行く。そして兄に続き、妹ギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…。
この相反するふたつの家族の出会いは、次第に想像をはるかに超える物語へと加速していく――。
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
配給:ビターズ・エンド
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公式 HP:http://www.parasite-mv.jp/


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