『インデペンデンス・デイ』のドイツ人監督ローランド・エメリッヒが、太平洋戦争を描くとどうなるのか?しかも日本軍が奇襲をかけた真珠湾攻撃からその後のミッドウェイ海戦に至るまでを描くというのだから興味が湧きました。歴史に名を残す日本軍、山本五十六役に豊川悦司さんが大抜擢。真珠湾攻撃を実行した南雲忠一役に國村隼さん、海軍の切れ者山口多聞に浅野忠信さん、というエメリッヒ監督のこだわりのキャスティングにより、アメリカ、日本、両国の視点がしっかりと描かれていた『ミッドウェイ』。アメリカでは2019年11月8日に公開、興行収入第一位を獲得、日本では2020年9月11日から公開されています。今までも海外の作品経験がおありで、今回は実在した歴史的人物をハリウッド映画で演じることになった豊川悦司さんと國村隼さんに撮影時の思い出を語って頂きました。

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――まずは、監督であるローランド・エメリッヒ監督の印象を教えて下さい。

豊川:『インデペンデンス・デイ』(公開:1996年)、『デイ・アフター・トゥモロー』(公開:2004年)とか監督が手掛けられた作品が結構好きでした。色々と評判では言われているかもしれませんが、僕は凄く好きで夢中になって観ていた記憶があります。『GODZILLA』(公開:1998年)も見ました。正直、自分の中ではどメジャーな監督さんだったので、そんな監督の作品に出演することが決まってビックリしました。

――エメリッヒ監督がビデオメッセージでも“山本五十六役にピッタリだ”と仰っていましたが、演じるにあたって準備されたことはありますか?

豊川:準備はとにかく山本五十六さんに関する書籍をたくさん読んで、あとは映画を観ました。本当に凄い先輩達が「山本五十六」を演じられているので、映画化されている物は、全部拝見しましたね。

――國村さんは、監督にどんな印象を持たれましたか?

國村:ドイツ人だと聞いていたのですが、ヤンキーみたいだなって(笑)いつもキャップをかぶっていて、ヨレヨレのトレーナーとボロボロのジーパン、そして白のヒゲ面で僕が勝手にイメージしていたヨーロッパ人、しかもドイツ人とは真逆にある気楽な西海岸のアメリカ人って印象を持ちました(笑)オファーを受けた時は何にも意識していなくて“ふ〜ん”って感じでした(笑)

――南雲忠一役を演じる上で準備されたことはありますか?

國村:特に具体的な準備というのはしていませんが、僕が演じた南雲忠一という人物は、ある程度の戦争の知識を持つ方やミッドウェイ大戦のことを知っている人だったら、南雲中将の致命的とも言える判断ミスがあり、それによってこの海戦の勝負を分けるターニングポイントとなってしまったというのが定説になっていると思いますね。

私なりに南雲忠一という人について考えてみたとき、その、いわゆる《判断ミス》はどこから生まれてきてしまったのか。それは一体何でなんだろうかって、そこから南雲という人物をイメージしました。当然、南雲忠一個人の責に負わせる簡単なことでも無いとも思いましたしね。しかし、今回の作品においては軍人として高級官僚として“こういう人だったから、こういう判断に行き着いたのではないか“という入口から南雲さんをイメージし、あとは台本に書いてあるその通りに演じたつもりです。

――脚本を読んで受けた印象はどうでしたか?戦争を描いた海外の作品は視点が一方的に描かれているものが多い印象があります。でも今作は日本の視点もきっちりと丁寧に描いている印象を持ちました。

國村:それはエメリッヒ監督が、ある種の客観からこのミッドウェイという戦い(海戦)を見ていたからだと思います。日本とアメリカの戦いの一番のターニングポイントですから、それが彼にとって一番の興味をひかれたのかもしれません。しかし、アメリカ人ではなくドイツ人ですから、あの海戦に対しては客観性を持って見ることが出来るんでしょう。ミッドウェイは日本とアメリカの戦いであり、今までのようにその一方の当事者の作品ではないので、そういった部分に視点の違いが生まれたのではないかと台本を読みながらも思いました。 

豊川:脚本は分量こそあれですけど内容的には日本側を凄く大事にしよう、リスペクトしている思いが凄く伝わってきました。これはしっかりと応えていかないといけないと思いました。ハワイで行われたプレミアイベントに参加した時も、皆が“この映画を観て、日本人はどう思うだろう”って凄く気にしていたんです。僕は“個人的には絶対に大丈夫だと思うし、この映画を日本人は受け入れてくれると思う”という言い方をしていました。脚本を読んだ時もそう感じていました。

――豊川さんは、エドウィン・レイトン少佐役のパトリック・ウィルソンさんと英語で会話をするシーンがありますが、撮影時の思い出を教えて下さい。

豊川:あのシーンは撮影初日だったので、結構プレッシャーがありました。テイク数も結構撮って、本当に色々な角度から撮るので“こんなにもテイク数を重ねる人なんだ”って思うぐらいで大変でした。

――長めに撮られていたシーンでしたよね。

豊川:多分、監督の中でもとても大事なシーンだったんでしょうね。日本人とアメリカ人が話すのは唯一あのシーンだけなので、冒頭のプロローグとして監督の想い入れもあったみたいです。

――演出に関しての印象を教えて下さい。

豊川:自由にやらせてくれるんです。“とにかく最初に自由にやってくれ”って、それで自由にやっていたら、結果的に自由にやったまま撮り出したって感じでした(笑)

國村:彼らは基本“こうしろ、ああしろ”って絶対に言わないです。エメリッヒ監督の場合はCGシーンだったら“出来上がりをこうしたいんで、動きとしてはこうなります、それを頭に入れておいて下さい”って言うくらいでした。日本でも基本そうですけど、監督って事細かに俳優に“こうしろ、ああしろ”ってあまり言わないんですけど、特に彼らは言わないです。

――マーティン・スコセッシ監督もそうだと聞きました。

國村:以前、リドリー・スコット監督(『ブラック・レイン』出演時)に言われたことですが“いいか、現場でのパフォーマンスというのは、それをするのはあなたたちなんだ。僕はそれを撮る方。その役のイメージも含め全てちゃんとあなたが用意して、あなたがカメラの前でパフォーマンスを見せてくれないとね”って。だから彼らは私たちの演技をひたすら待っているんです。

――印象に残っている撮影シーンはどこですか?

豊川:スタジオでの撮影が多かったのですが、ロケにも出たんです。日本の設定でモントリオールの中心街の凄く大きな道路を閉鎖して、エキストラが100人ぐらい居たのかな?皆が日本の恰好をして中には金髪の人も居ましたが(笑)その道を僕が車に乗ってきて浅野(忠信)君が演じる山口少将が出迎えて、中に入って行くシーンを撮影したんです。本当に大掛かりな撮影で“凄いな”って思ったんですけど、映画ではほんのちょっとでした(笑)

――凄いですね、100人のエキストラを呼んだんですね。

豊川:たぶんアジア人に見える人達を集めたんだと思います。

國村:本当に色々なところから呼んで来ていて、聞いたことがあるんですが、台詞を貰えるととギャラが上がるらしいです。向こうではそういうユニオンがあって、台詞がなければエキストラ扱い。一つでも台詞があると俳優扱いになってギャラが格段に上がるらしくて、門兵の役とか行動一回で何ドルとか厳しい基準があるようです。だから芝居が増えると“やったー!”って凄く喜んでいました(笑)そういうシステムって面白いですよね。

豊川:色々な意味でシビアっていうか細かいですよね。

――國村さんが面白かったシーンはどこですか?

國村:面白かったというよりは大変なシーンが多かったです(笑)それこそ、現地には色々な人が居るんで、たまたまかもしれないけれど、私と一緒に居る人たちが結構大変で色々なことがありました(笑)CGじゃなかった部分で、私の真横で大きな水柱が上がる機材を用意しての演出があった時にはその威力にビックリしました。さすがのエメリッヒ監督もテンションが上がっていて緊張感がありました。“このショットはこんな感じで”って結果的には1テイクで撮れたんですけど、期せずしてスタジオ全体から拍手が起きました。

いつもハリウッドで撮影しているスタッフなのに、その彼らから拍手が起こって“なかなか、これはたいそうな仕掛けだったんだろうな“ってずぶ濡れになりながら思いました。

―― 日本のみならず、海外でもお仕事をされているベテランのお二人にお聞きしたいのですが、「役者」を一言で例えるならなんでしょうか?

國村:時に依り代でありイタコ、かな。同じ人間が作品が変わるたびにその中身は前とは変わっている。どんなお話でどんなキャラクターをやるかによって変わるけれど、その入れ物は同じ、自分自身。つまりは役者である自分自身は入れ物にすぎないから、でしょう。

―― 入れ物である為に、毎回、心がけていることはあるのでしょうか?

國村:ちゃんとイメージ通りに動けるか、動けなくなったら駄目。《演じる者》に関していえば、依り代にその役がふと降りてくることがある。その生身の器の中に、そのお話の人が居たらその時そのお話の住人になる。そんなもんかもしれない。

豊川:役者とは嘘をつくことを許されている人。

國村:そうだね、一歩間違えたら詐欺師(笑)

豊川:言い方を変えると夢を売っているとも言えるんだけど、嘘をつくことが許されている。嘘をつくことが許される仕事って中々ないじゃないですか、合法的で(笑)役者ぐらいでしょ、“騙して欲しい”って言われるの。

國村:そうだね。“気持ちよく騙して、上手に騙して”ってお客さんに思われるようにね。

―― 確かに、観ている方はそこを喜んでいます。

國村:歌舞伎における黒子の存在は芝居における典型的な約束事であり居るけど居ない、見えるけど見えない、ことになっている。“こいつはそんな奴じゃない、何とかっていう役者だ”って知っているんだけど、そんなことは黒子の存在と同じようにその人物の《存在》を共有して楽しみ、見てもらえるんですから。

豊川悦司さんはラッセル・クロウと共演した『逃走遊戯 NO WAY BACK』以来のハリウッド映画であり自身の中では一番の大作出演だったと語っています。國村隼さんはリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』やクエンティン・タランティーノ監督『キル・ビル Vol.1』など様々な海外作品に出演しています。お二人が舞台挨拶の時に語った「映画から世界を学び、映画から世界と繋がった」という言葉。『ミッドウェイ』は特に世界の歴史であり、日本の歴史でもある第二次世界大戦を描いた作品だからこそ、資料を読んだり、今まで作られた太平洋戦争の映画を見たり、実在した人物を出来る限り理解し尽くして役を背負って世界に立ったのでした。世の中に残していかなければいけない歴史の悲劇。この映画は、迫力の映像はもちろん、日米の軍人たちの思いをしっかりスクリーンに焼き付けた“心の戦い”を綴っているんだとインタビューを終え実感したのでした。

文 ・伊藤さとり

作品情報 『ミッドウェイ』

未曾有の戦いとなった第二次世界大戦の中でも、歴史を左右するターニングポイントとなった激戦として知られるミッドウェイ海戦。激突したのは、日本とアメリカ。1942年、北太平洋のハワイ諸島北西のミッドウェイ島に、巨大な航空母艦、世界最大の大和を含む超弩級の戦艦、戦闘機、急降下爆撃機、潜水艦が出動し、空中、海上、海中、そのすべてが戦場となった。そしてそこには、両軍ともに、国を愛し、覚悟を持って戦った男たちがいた─司令官たちの緊迫した頭脳戦、パイロットたちの壮絶な空中戦、彼らを艦上から迎え撃つ決死の海上戦──何が、彼らの勝敗を分けたのか?日本の運命を決めた3日間の海戦の全貌が、今明かされる!
監督: ローランド・エメリッヒ
出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼、マンディ・ムーア、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン
配給: キノフィルムズ/木下グループ
©2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.

公開中

公式サイト:https://midway-movie.jp/