業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

→ 18 「 ゲーム業界から音楽業界へ転身。そこで感じた不思議の数々」はこちら

旧来の音楽業界は、アーティストを擁する事務所、音源のパッケージ化およびプロモーションを行うレコード会社、流通の販売店、そしてそれらを露出していくメディアというのが、ビジネス上の大きなバリューチェーンとなります。

メディアの中でも日本で断トツの影響力をもつのがテレビ局。長い間エンタテインメントビジネスの頂点に位置し、音楽業界にとっては大きなプロモーションメディアとして事務所やレコード会社ががっちり食い込んでおり、A&R(アーティストとビジネスを担当するプロデューサー的な役割)などはドラマの主題歌や情報番組などの情報を仕入れ、自身が担当するアーティストの露出機会をうかがうのです。

そして、レコード会社。プロダクト、パッケージを売る事でビジネスを回すので、旬のアーティストを持つこと、売れる作品を持つことがビジネスゴールになります。ビジネス規模もマージンもとても大きかったこともあり、業界のバリューチェーンでは長いことトップに立つことになります。

ビジネスモデル的には、条件の良い、可能性のあるライセンス料の安い新人アーティストを売ると収益性が高くなります。それ故に、各社頑張って新人の発掘を行うのです。一方、大御所になると契約更新時の最低保証金(MG)や1本あたりのライセンスの条件があがり、製作費も上がることが多いので収益性は落ちることがほとんどなので、その売り上げが落ちてきたときには、色々と契約の更新を含めて考えなくてはなりません。

一方事務所サイドはアーティストの生活を長期のスパンで面倒を見て、ブレイクした時の収益から回収を図るのがビジネスモデルになっています。事務所とアーティストの契約では固定給を続けるケースもありますが、多くのケースでは、一部ロイヤリティ収入をシェアするのが一般的になってきたようです。CDからの印税、テレビCM、ライブの収益に加え、グッズやファンクラブの会費、さらに近年ではネットを使ったファンベースの新たなビジネスモデルも増えつつあるようです。

例えば、ワーナーと契約しているコブクロは、CDだけではなくCMやライブ、グッズ、ファンクラブなど、ファンが喜んでくれる特典を考えながらきめ細かいプログラムでファンとの関係を保ち、短期だけではない長期のビジネスを作り上げるのに事務所もアーチストも腐心しています。レコード会社に対する交渉もしっかりしており、音源だけでなく、プロモーションやマーケティングプランなど硬軟使い分けた交渉で、長期の関係を維持しています。

他の例では、2013年にワーナーで一番売れるアーティストに成長した、きゃりーぱみゅぱみゅ。彼女は原宿の読者モデルからブレークし、所属事務所とレコード会社のプロデュースで中田ヤスタカさんや増田セバスチャンさんを起用し2011年に本格デビュー、音楽とビジュアルの両面で新しい世界観をYouTube上にあげて世界的な大反響を得ます。そこからは、レコード会社もサポートを入れてタイアップやテレビの番組に出演し、一気にメジャーのトップに駆け上がりました。

ただ、その後CDの売り上げが徐々に落ち始めてしまいます。事務所は人を預かっている立場上、CD以外のビジネスも含めていかに彼女のプレゼンスを上げるか考えなくてはいけません。CMの出演やトーク番組、ライブ活動やフェス活動とグッズ販売、Tik Tok などの活動を通じ、あらたな収入源や活動の場を模索しているようです。

きゃりーぱみゅぱみゅの所属しているアソビシステムは、いわゆる伝統的な音楽事務所と新しいデジタル時代の事務所の中間点に位置していると思います。そんなアソビシステムの中川悠介社長を、自由な発想でファイナンスをして会社を上場させたゲーム会社Gumiの国光宏尚社長に紹介したとき、熱心に話を聞きながら、音楽業界とは全く違う風習というかビジネスの在り方に大きく感銘を受けていたことは今でもよく覚えているシーンです。

このようなアーティストや事務所サイドの構造の変化が起きる中、当然のようにレコード会社も変わっていかなくてはいけません。

ワーナー時代の私の担当事業は、バックオフィスとデジタルがメインでした。デジタルつながりで、ボカロP(ボーカロイド プロデューサー)関連の音楽をサポートしていましたが、メジャーレーベルのA&Rは、当時彼らを下に見る傾向がありました。ワーナーも同様だった為、少しでも自分に近い畑を理解してほしくて若手のA&Rを連れてニコニコ動画から出た“うたってみた”出身の人気者たちをあつめた武道館ライブに行きました。

半分素人のような若者が次から次に出てきてバンドの交代もない素人に近いパフォーマンスに、普段質の高いライブに接しているA&Rは少しあきれていた様なのですが、会場の異常な盛り上がりには興味を示していました。私もそのコンサート会場にいて、普段のライブと様相が違っていたこともありA&Rのメンバーに悪いことをしたかなと思っていたのですが、家に帰ってその日のセットリストを中学生と高校生の子供達に見せたところ、なんと大半のアーティストと曲名を知っており、自分たちもライブに行きたかったと言い出します。一番音楽の文化に敏感なワーナーのA&Rの面々がこのような文化の動きをとらえきれていなかったのかと痛切に感じたのでした。

そんな中、今までの経験を活かし新しいビジネスとして何かできるところはないかと考え、ゲーム会社とのコラボレーションに取り組み始めました。当時は、すでにアニメと音楽のコラボは常識でしたが、音楽サイドからゲームサイドに営業するマインドはあまりなかった為、ゲーム会社に主題歌やライブの相談を持ちかけてみ他ところ、これが面白いように話が進んだのです。

一例では、バンダイのRPGのテールズシリーズのクラシックコンサートをワーナー主催で開催しました。コンサートは大盛況、国際フォーラムAで約5000人のユーザーが来場してくださり、物販でも一人当たりの購入額は通常のアーチストライブの3倍から4倍にもなりました。ただ、これはビジネス的には非常に良い結果を残したものの、正当な音楽ビジネスではないとの見方を社内の一部でする人もいます。

企業にはビジネスとして、また製品やサービスとして何を掲げるかというかによってアイデンディが固まると思います。儲かれば何を売ってもいいというのも違うでしょう。しかし、エンタテインメント業界は世の中の変化に対し、敏感かつ柔軟的であるべきと感じます。それが私の価値観なのですが、企業を経営をする上では、変化と伝統のバランスをコントロールしていかなければいけません。ワーナー在職中はそのバランスを取りつつ変化するべきだと思い活動していましたが、一部のマネジメントとは意見が食い違いがありました。

思い返せばビデオゲームの開発者にソーシャルゲームを見せたときの最初の反応も、拒否やネガティブなものでした。当然の事ながら変化を推し進めて成功した会社もあれば、変化せず現場に留まりつつ強みを磨いて成功した会社もあるので絶対的な正解はありません。企業がどの程度のスピードで進化、変化していくべきなのか、どうしたら社員が腑に落ちて変化していけるのか、現在にも通じる私の大きな課題です。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史